パート10
「なんですって、楽譜、持ってきてないの?」
いきなり周りからなじられる。だって、部屋に置いてあったのが、オシリだったのだ。他にあるとは思っていなかった。
「こまったわ、さちの、どれだけ暗譜してる?」
暗譜も何もない、知りもしない曲なのだ。しかし一度でも自分の楽譜を見れば、さっきのZIPファイルみたいに頭に展開するのだが。
「先輩、僕のパート譜にも先輩のパートが載ってます。これをコピーしてください」
「わかった、そうする。それを借りるよ」
ぱっと見た。楽譜をぱっと見た。ダメだ、全然わからない。ところどころ頭で展開しないところがある。複雑な曲で、イメージがわかないのだ。
「だ、大丈夫、これをコピーすれば何とか」
怒り顔の団員を前にタジタジしていると、一人の娘が声をかけてきた。整った顔立ちのスラッとした美人である。化粧もしているみたいだけど。
「さっち、ちょっときて、あとマルコシアス・コインブラ君も」
「マルコシアス?」
「何言ってんのこの子の本名じゃない」
マルコシアスというのか、そうだったのか。で、マー君。名前の感じからして、ポルトガルか、スペインか。
「僕も?アッコちゃん」
「馴れ馴れしいわよ、あなた、”綾小路様”でしょう?」
「はい…綾小路様」
「よろしい、テューバの二人、借りていくわね!、いいわね!」
「はい、綾小路様!!」
部員全員がそう言った。全員とは、どんだけ権力者なのだ…




