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存滅の柱   作者: 茶谷 創懐(くらふと)
最終話(第三話) 「存滅の柱」
9/9

悪夢

「お邪魔します」

「夜ご飯食べ損ねたから、お腹すいたでしょ」

幻の案内でリビングへ向かった。


勿論、リビングも照明が使えないので真っ暗だった。

彼女はマッチを擦って仏壇に飾られている二本のろうそくに火を灯した。

途端に明るくなり、暗くて見えなかったリビングの様子が分かった。

リビングは整っていて、余計な物がなかった。

白いソファーの前に楕円テーブルがあり、机上には不思議なイラストが無造作に置かれていた。

何が描いてあるか上から覗き込むようにして見ていると、幻が恥ずかしそうに言った。

「あ、これね。これらは全部私が描いたの。イラストが趣味でさ」

「上手いな。僕には到底真似できないよ。一枚もらってもいい?」

飛は幻のイラストを手に取り、じっくり眺めた。

「別にいいよ。そんなに私のイラスト気に入った?」


幻はキッチンで夜ご飯の支度をしていた。

「これにするよ。この男装した女子高生が壁倒立しているイラスト。個性的で見ていて飽きないね」

「飛君、ご飯どうしよう。冷蔵庫の中の食べ物は腐ってそうだし

 レンジ使えないから冷凍食品も無理でしょ」

「ガスが使えるなら、お湯沸かしてインスタントラーメンにしたら?」

「そうね。醤油、塩、味噌、豚骨、どれがいい?」

「幻と合わせるよ」

「じゃあ、塩ね」

彼女が料理をしているのを手伝ったほうがいいのか。

それとも邪魔になるから控えるべきか。

リビングの物色をしながら小さな葛藤に苛まれていた。


「はい。出来たわよ」

幻は二人の塩ラーメンと箸を運んできてくれた。

楕円テーブルに置くと幻は飛の隣に座った。

「いただきます」

「電気が無いと、過去にタイムスリップしたようだな」

「ほんとね。ろうそくの灯りで夜を過ごす日が来るなんて、夢にも思わなかったわ」

静寂にラーメンをすする音が響いた。

「テレビもスマホも使えないと、情報が一切入ってこないな」

夜ご飯というよりは夜食を済ませ、彼女が食べ終わるのを待っていると

だんだん微睡まどろんできた。

「幻の寝室ってどこ?」

飛は立ち上がって、頭上から威圧するように言った。

飛は高圧的な態度を取っていることに気づいていなかった。

「玄関近くの扉」

幻の声は震えていた。

「分かった。ごちそうさま」

飛は暗中の玄関近くにある彼女の寝室におもむろに向かった。

亜空幻と二人きりで寝たい欲望を抑えられなかった。

勝手に幻のベッドで寝てしまおう。

幻のベッドにダイブした。枕が宙を舞い、整えられたタオルシーツがぐちゃぐちゃになった。

体臭が気になり風呂を借りようか、眼を瞑って考えていた。


幻は歯を磨いてから、シャワーを浴び、パジャマに着替えてから寝室に入った。

「えっ、自分の布団で寝ちゃってるよ!」

幻は飛の無防備な寝姿をうっとりと眺めた。

そして仕方なく押入れから敷布団を取り出し、床で寝ることにした。


しばらくして幻は「はぁはぁ」と熱い息を吐いている飛に気が付いた。

飛は全身に汗をかいていて、何かに怯えるような顔をして苦しんでいた。

幻は汗をハンカチで拭ってあげた。



飛は悪夢にうなされていた。

白黒の世界に飛は迷い込んでいた。

コントラストがいつになく鮮明ではっきりしていて、美しかった。

世界には色という概念がない。

世界は光と闇でできている。

人間の色覚が世界に色を与えているのだ。

実際、個人個人で見える世界の色は異なるのが事実だ。

そのなかには白黒に見えてしまう者もいる。

どうやらここは、とある都会の歩道のようだ。

通行人がさっきから僕を怖がっている。

恐れを為しているように感じた。

圧倒的存在感を発しているようだ。

自分の姿を確認しようとしたが、驚いたことに自分の身体は無かった。

とりあえず前進した。悲鳴を上げて火事場の馬鹿力で逃避する女性や、泣き喚く子供までいた。

段々、嫌われていることが辛く沈鬱としてきた。


公衆便所があったので、鏡で自分の姿を確かめることにした。

自分は銀色の皮膚をしていた。そして悟った。

僕はエイリアンになっていたのだ。

あまりにも非現実的な出来事だったので、飛はこれは悪夢だ。と悟った。

飛の目線は自然に空へ向いていた。


上空で「時空の扉」が穿たれていた。

正円のみで構成された不可思議な模様が突如として、空に現れる。

それが徐々に渦巻きはじめ、白いもやがブワッと噴霧される。

直後にソーセージの腸詰めのように、空が泡のようなものを螺旋状に吐き

空の孔からは水色の淡い光が差す。

未確認飛行物体、UFOが開通したといわれる出入り口。

それが時空の扉だ。

穿たれた時空の扉から一キロ離れた直線上に再び正円が浮かんだ。

そして第二の時空の扉が開通した。

すると、時空の扉の中央から水色のラインが直進し、二つの時空の扉を繋いだ。

その刹那、白い空が暗黒に染まり、闇が払われたかと思うと

灰色に変色し、暗黒に染まる。

これが周期的に繰り返されていた。


地上では時が静止し、生命の輝きそのままに微動だにしなくなった。

人間も硬直していた。

つま先だけを地に、大きく前のめりになったサラリーマンは、どうやらつまづいたらしい。

自動車も道路で縦列駐車をしていた。

公園ではキャッチボールをしていたのであろう。ボールが宙に浮いている。



そこで悪夢から解放された。

幻が僕のお腹を枕にして寝息を立てていた。

寝顔を間近で見つめた。

幻は疲弊していたのか、静かに爆睡していた。



世界は非常に脆弱だ。

たった一度の宇宙災害で人類は危機に瀕される。

宇宙災害は決して遠い存在ではない。

それを証明したのは、2012年、7月23日に巨大太陽フレアによるCMEが地球の真横を通り過ぎたあの瞬間だ。

しかし、皆、あの日のことを忘れている。

もしくは知らないでいる。

それが人類の大過にならぬよう筆者は祈っている。












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