逆告白作戦
2012年、7月22日。世界滅亡の前日。
創我飛は前籠にリュックを置き
自転車のサドルに尻を据えて夏空の下、襲う猛暑をかっ飛ばして登校した。
期待を胸に教室に飛び込む。しかしそこには誰も居らず、机と椅子だけが勢揃いしていた。
「早かったか。ちと焦りすぎた」
時計の秒針がコクコクと寝息を立てている。
朝陽が差し込み、窓側の机が黄金色に輝いてみえる。
そこが亜空幻の席だ。
自分の席は亜空幻の席から遠く離れた廊下側の席である。
いつものように自分の席へと迷わず、導かれたように着くと、教科書がぎっしり詰まった重たいリュックを背中から外しぶつけるように置いた。
チャックを開け、片手で教科書やノート、筆箱、ゲームを机の口に入れた。
天を仰いだ。リュックから出した物を戻し始めた。
「今日から夏休みだった・・・」
逸る気持ちに誘われたように学校に来てしまったので
夏休みだから休校だろうという冷静な判断をしかねたのであった。
それでも絶好の告白チャンスをものにしたい。
これまでに宇宙災害が世界を恐怖のどん底に突き落とす可能性があることを
幻に嫌ほど伝えてきた。
例えば、二酸化炭素がさらに増量することで、オゾン層に大きな穴が穿たれるメガオゾンホール。
その穴から太陽嵐が地球に降り注ぐことで、皮膚癌で亡くなる人が増殖するかもしれないとか。
宇宙災害の恐怖を幻に伝える理由は二つある。
一つは本能だ。なぜだか僕は宇宙災害の恐怖を多くの人に伝え、宇宙災害の被害を未然に防ぐためにこの時代に生まれたような気がするのだ。
もう一つは幻を逆告白に持ち込むための狡猾な作戦だからだ。
実は飛と幻がいるクラスは驚くことに、飛以外に男子はいなかった。
それがなぜだかは分からないが
もしかしたら、僕は本当はこのクラスのクラスメイトなのではなく、全くのよそ者なのではなかろうか。
要するに、男子は創我飛一人なのである。
幻が宇宙災害の恐怖から、誰かに守られたい気持ちに駆られれば
きっと男である飛に近寄って来るに違いない。
それでも逆告白までは巧くいかず、高三の夏休みになってしまったのであった。