改造人間は黄昏る。
まるで秋の夕暮れだ。
そう思った。空は赤赤とした夕暮れ時の様、街は紅い楓の葉が生い茂るかの様だ。「様だ」と付くようにこれはただの例え話だ。
実際に俺が立っている場所はどんよりとした空模様、ビルで覆われた交差点だ。
いや、『だった』と表現するのが正しいだろう。どんよりとした雲が赤いのは雲の下で火災が起こっているから、楓の葉が生い茂るように見えるのは交差点を囲むビルや街路樹が火災を起こしているからだ。
また、やってしまった。この言い方ではまるで自然に火災が起きた様ではないか。
主語と目的語、『誰が』『なぜ』という情報を付けて、正しく言い直そう。
『俺が』『街を破壊する為に』火の海にした。
ああ、うんスッキリした。
物事をうまく表現出来ないというのは、とてももどかしい。ま、表現しようとするだけの思考力、その言葉を探そうと思うくらいの理性が残っている事の証だ。それが無かったら、俺は俺ではなくなってしまう。
炎に包まれる交差点に軽薄そうな若者がひとりで立つというのは、なかなかに……。ダメだ、いい言葉が出ない。
凄みがある……違うな、雰囲気のある……なんか違う。
ダメだ、出てこない。
なんて事を考えていると、何処からかバイクの走行音が聞こえてきた。今回のミッションの目標がやっと来たようだ。
秋の夕暮れとなった交差点にバイクに乗った一人の人間がやってきた。
そいつは白銀のマスクとボデースーツに所々に空色の意匠が施されている白銀のマントを纏っている。
そいつはバイクから降りると交差点の中央にいる俺を見て叫ぶ。
「そこの軽薄そうな男!お前がやったのか!?」
何を当たり前の事を。俺がやったのでないなら誰がやったのか。
いや、正確には俺一人でやったわけじゃない。半分位は部下達がやったものだ。
その部下達は目の前のこの男の接近を察知してから下がらせている。こいつら相手にはただの時間稼ぎにしかならない。
そう言いたくても、俺はそいつに言えない。俺の喉は潰されているからだ。口はエネルギーの吸収を助ける部位でしか無くなっている。
だから……返答の代わりに俺は胸に手を当て、心の中で叫ぶ。
《変身》
自分の体が軽薄そうなティーンエイジャーに見える偽装用のボディから真紅の戦闘用ボディへと組み変わっていくのがわかる。細い肉体は強靭な肉体へと変わり表皮を甲殻へと変貌させる。別に美形でもない顔は仮面の下へ隠れ、額から濃い紅の角が生える。
「貴様は……クリムゾンホーンか……」
『クリムゾンホーン』
いつからか覚えていないが、こいつらが俺を指す時に言うようにった。その呼び名は気に入っている。上司が俺にくれた名前は唯の記号と数字だけ。そんな簡素でつまらない物は名前とも言えないかもしれない。
頭を弄り回されたせいで自分の元の名前なんぞ思い出せない。
そういうお前は白騎士だな。
そう言ってやりたい。質問に対し、無言というのは質問者は馬鹿にされたと感じるだろう。事実、目の前の白騎士は怒りで肩を震わせている。
ホワイトライダーは激情しやすい……らしい。上司がそんな事を言っていた……と思う。
その上司は今頃、こいつとコンビを組んでいる黒騎士と戦ってる……はずだ。白騎士と黒騎士。タッグを組まれるとなかなかに骨だが、片割れ相手、しかも白騎士相手なら俺でも倒せる……はずだ。
次の瞬間、白騎士が俺へ向け突っ込んでくる。
速い。端的に表すならその一言に尽きる。俺は即座に防御姿勢で迎え撃つ。
そもそも俺は突っ込んで行くより、受け止めてカウンターを返す方が得意だ。
俺の腹に当てようとする拳を払い除けつつ、相手の肩に手をかけ、二ーキックをプレゼントする。
ホワイトライダー、こいつは強力なパンチを武器とする肉弾戦を得意とするヤツだ。おそらく、三発食らったらこちらが負ける。
だったら、パンチを避けつつ倒す。それだけの事だ。
膝蹴りを食らった白騎士は一瞬で俺の手を振り払い、数歩距離を開ける。俺の膝蹴りは正確に白騎士の鳩尾に当たったようで、多少だがダメージを与えたようだ。
ああ、またやってしまった。物事は正確に、正しく言わなくては。
二ーキック・膝蹴りと言っているが、唯の膝蹴りでは無い。
踵と踝から炎を噴射し、加速させた蹴りだ。
炎を噴射する。それが俺に与えられた能力《噴流式熱機関》だ。
ホワイトライダーは再び俺に拳を当てにくる。
俺はただ黙々と(口がきけないだけだが)カウンターを返す事にした。
街から伸びる煙の中に、紫煙が1つ加わる。
街を覆っていた炎は小さくなり、辺りには煙ばかりが立ち上る。焼けていないベンチに腰掛けながら、足元に転がる白騎士を見る。
死んではいない。いや、物事はすべからく正確に言おう。
俺は人間を殺せない。
俺、俺達のような改造人間はその名の通り元は人間。脳を弄られても残るものはある。
理性が残っていないヤツは弱い。そんな者はただ命令に従うだけの戦闘員となる。
ある程度理性が残ると自分だけの力を得られる。ただ、その微妙に残った理性のせいで俺は人間を殺せない。
『俺』という軽薄な見た目の男は元はどんな奴だったのか。見た目通りの軽い男だったのか、見た目に似合わず熱血漢だったのか。
俺にはわからない。
駄文失礼しました。
なにぶん小説は初めてなものでして……
気が向いたら、また何か書きますので、その時はまた読んでいただけたら幸いです。




