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事実は小説よりも奇なり

作者: 高村雪慈

「あぁ〜転勤とかしてみたい」

20代を最後に迎えている女


「なら、一緒に行く?」

男盛り、仕事盛りを迎えている男


某オフィスの中で、チェアに座りながら伸びをしていた女に、本日転勤を言い渡された男が

そう言った。




冗談の中に、少しの本気を滲ませて

近々この事務所を去っていく同僚に私は言った。転勤してみたいと。

転勤でも転職でもなんでもいい。

とにかく、もう30歳を手前にしてこのもやもやとした、やりがいもお金もない

そんな毎日を吹き飛ばして、前に進んで見たかった。


同僚の名前は北里さんと言った。

上司の覚えもよく、仕事も大きなトラブルなど起こさず淡々と日々の生活を送っている人。

でも、社会人になって思うのがこう"淡々"というのがいかに難しいことかと。

人間関係もあるし、日々の仕事の量にも個人差がある。上司とも部下とも上手におつき合い

している人でも、この北里さんはそういうのが丸っとひっくるめて上手な人だった。


「一緒に行けばいいよ。そうしたら文乃さんも転勤できるよ」


北里さんは、穏やかな優しい顔でニコニコ笑いながらまったくもって意味不明なことをほざく。


「一緒って…。私、辞令出てないし…。つかどうやって」

と頭の中は疑問でグルグルループする。タヌキみたいな上司を押し切るのか…。

いやいや、そもそも私は営業でもなく、営業補助の女子たちでもなくただの業務だ。

業務部の中でも男性陣より、PCの得意な業務だ。

私の居るべき場所は、ここしかないはずだ。

引っ張りだこで、人気者の北里さんとは違うはずだ。

目の前にいる北里さんは、北里さんじゃなくて違う人なのかと、思えてならない。


「うん、そうだね…。」


北里さんは何やら真剣に考え始めた。

タヌキ上司の攻略方法か、なんてぼんやり思いながらPCの電源を落とす。


北里さんは、転勤の準備の一つ、業務の引き継ぎ準備で残業。

私は、締め日の処理でバタバタしたので、その後始末に残業。


「北里さん、私帰りますけ」


ど、と言いかけたところで、北里さんは再び何かに目覚めた。


「結婚しちゃえばいいんじゃない」


「帰ります」


北里さんは変な人だった。



***



まってまって。と北里さんは颯爽と帰ろうとした私を瞬殺で捕まえる。

北里さん。話し方も穏やかで温和な雰囲気なのに動きが素早かった。


「文乃さん、結婚しろって言われてるんでしょ」


「……。なぜ知っている。北里氏」


私は身長157センチくらい。北里さんは172~5センチくらい、推定だが。

そして、私は腕いっぱいに北里さんから逃げる。


「まぁ、30歳で?男のおの字も感じない娘だったら親も心配するよね」


「さては、貴方北里さんではない!」


色々上手な北里さんはどこに消えたのだろうか…。


「まぁまぁ。そんなに悪い話じゃないと思わない?」


北里さんは私の腕を掴んだままニコニコと話し始めた。

文乃さんは結婚しなさいと親に言われてる。僕も、会社から、親からそろそろどう?みたいな話が多くて

実はうんざりしている事。とは言うものの、転勤が多い仕事に今後どんどんなっていくから

そういうのが、平気な人。好きな人が望ましいし、もっと言えば仕事にも一定の理解が欲しい。

その点文乃さんは、今恋人もいないし、転勤がしたいし、仕事内容を知っているだけに

理解もあるしどう?


と北里さんは言い切った。


「その、理由の大半は北里さんのメリットだけな気がします」

私は腕を掴まれたまま、北里さんに向かい合う。


「そもそも、おつき合いとかしてないのに結婚とか無理じゃないですか?」


「そう?。でも文乃さん、変とか面白いの好きでしょ。突拍子もなかったり、無計画とか

トラブルも好きだよね。ドキドキして楽しいんでしょ」


完全に言葉につまった。

そう、私は変とか面白いとか突拍子もないのとか無計画とかトラブルとかが好きなのだ。

それに対応し、うまく乗り切った感じも好きなのだ。

そして、おつき合いもしていない人と結婚とか…無計画にもほどがある。

北里さんは、普通のあたり障りない人、普通の人。凡人かと思っていたが


「変な人だ…」


小さく呟くと


「まぁ、大恋愛してもダメな時はダメだし。とりあえず初めてみるのもいいと思うな」


北里さんはいつの間には腕を離して、私の手をとり指を絡ませてにぎにぎしてくる。

楽しそうににぎにぎしている。


「そんな訳で一緒に転勤しよ」

「……はい」



プロポーズの言葉が一緒に転勤しよ、とかどうなんだ?と思いつつ

北里さんに抱きしめられて、人というのはけっこう硬いものなのね、と思いました。



***


次の日


昨日の事が夢かと思われる日常


タヌキ上司と、北里さんが何やら話をしている。

深刻そうというか、なにか驚いているというか…。

そうしていると、タヌキ上司の近くにいた人たちが一斉にこちらをみた。


そして、北里さんにジェスチャーでおいでおいで、をされる。

ので、はて何かの大型プロジェクトなのか、はたまた書類不備かと思いタヌキ上司の元へ


「文乃ちゃん」


タヌキ上司は、女子社員の事をなぜか、ちゃん。呼びする。


「はい」


「結婚するの?」


「はい?」


北里さんは私の手をとってニコリと笑った。


「一緒にいくよってちゃんと言わないとね」



意外と人生ってこんなところありますよね…

(ここまでは普通ないか…)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 行動力に感心します。 [一言]  付き合ってもいないのに結婚してうまくいくのでしょうか? 小説ではそういうのはタブーな気もします。
2015/12/13 16:13 退会済み
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