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どうやら私はバッドエンドに辿りつくようです。  作者: 夏目
一章 『夜の女王とミミズク』
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残酷表現あり

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「この体は人間で初めてここに降りてきた男の姿を模しているんだ」


 目の前に座った死に神は開口一番、そんなことを言った。


「妻を探しているという変な男だった。俺のことを死に神だと確信していた。全身血塗れでね、どうしたのと尋ねたら、処刑場から逃れてきたというじゃないか。気概がある。愉快で、謁見を許した」


 私はいつの間にかテーブルの前に座らされていた。目の前には陶器製のティーポットとカップが置かれている。湯気がもくもくと上がっていた。天井からタペストリーのように、薄紫の花が垂れ下がっている。花弁には水滴がつき、私の目の前に滴る。あの花は藤のの花だろうか?

 叔父様の領土に大量に咲いていた。小さな花が肩を寄せ合っているのが好きで一日中ずっと見ていたことがある。

 死に神の横には水色の髪の紳士が優雅にお茶を飲んでいた。陶器を持つ手は骨だった。

 ゆるりと会釈をされた。官能的な微笑みを浮かべ、誘惑するように熱っぽく私を見つめている。ここはどこだろう。

 確か、ハル達と一緒に階段を駆け上がっていたはずだったのに。


「妻を返せとその男は言い放った。七つに及ぶ戦。積み上げた屍。蛮族達の粛清。ことごとく彼女を手に入れるためだった。心の臓は妻に捧げられたものだと言って憚らなかった」

「死に神様は、それでどうしたのです?」


 追従するように水色の髪の男が聞き返す。

 死に神は満悦そうに身を乗り出した。


「真実を教えてやったとも。ここはお前の思うような場所ではないとね。人はここにはこないのだと」

「男はどうしたのですか?」

「男は慟哭し、俺に言った。この年になるまで、焦がれ、求めたのに、憎悪しか得られなかったと」

「それは面白い」


 豪奢なフリルのついたシャツの上に灰色のロングコートを身につけた水色髪の男は、ロングコートの裾を指で弄りながら、口元を綻ばせた。

 相変わらずこちらを凝注する濁ったような瞳はますます熱っぽさを帯び、腐乱した果実のように甘酸っぱい臭いを発して堕落を誘っているようだった。


「男はそのまま魂が抜けたように地上へ戻って行った」

「地上に戻してやったのですか?」

「うん。その時は、あの男が憐れに思え……違う違う。そう、俺は興味がなかったから、人間に」

「慈悲深い御心ですね」


 水色髪の男のおべっかに死に神の心がぐらついたようだが、やがて振り払うように頭を振る。


「そう、死に神は慈悲深い。試練をかし、失敗せよと誘惑するが、打ち勝ったものを決して無下にはしない」


 藤の花が死に神の頭にあたって揺れる。テーブルクロスが真っ黒に染まった。それがだんだんとヘドロの塊に変わる。水色髪の男は立ち上がって、椅子に立てかけてあった剣を構えた。

 黒い塊を写して、刀身は毒々しい色の塊になっていた。

 打ち勝った?

 そうだ、私は登りきった。けれども、階段が崩れて、真っ逆さまに落ちてしまったのだ。


「――我が君は私に怒っていらっしゃるようだ」


 一振りで男に寄って来ていたヘドロが蒸発した。騎士のように構えると、悠々とした声でからかった。


「貴方のためにお連れしたのに。一緒にいて欲しかったのでしょう?」

「お前には命令していない。はなおとめは試練に打ち勝った。振り向いてはいない」

「甘ったるいことをおっしゃる。昔の貴方はそのようには言われなかった」


 悪臭が漂い始める。思わず噎せた。

 水色髪の男は私の肩を抱く。体の半分が骸骨だ。トーマが従属させていた死に神の眷属か!

 なんで私にと見えるのだろう? 清族以外には見えないのではなかったのか?

 それに、この水色の髪。階段を落ちる前に見たぞ。


「俺は人間に甘い」

「……ああ、そうだった。貴方は死に神だった。我が君の皮を被ったけだもの。人の血の通わぬ非情な神」

「はなおとめを離せ」

「いけない。彼女ははなおとめではない。女王陛下だ。唯一、みずから跪礼して差し上げたいお方」


 両方、私のことをカルディアではなく、別の誰かだと思っているようだった。私に類似した生物が何体もいるということなのだろうか。はなおとめや女王陛下と呼ばれる存在がいる?


「私ははなおとめでも、女王陛下でもない!」


 勝手に私を誰かと重ねて語るのは勝手だが、それを押し付けないで欲しい。私はカルディアだ。それ以外にはなれない。


「はなおとめは、記憶を失っているだけ」

「女王陛下は発狂されてしまったのですね」


 二人揃って同じようなことを……!

 私のこと、誤解したままじゃないか。

 きーっと歯軋りしたくなる。だが、それと同じぐらい不安で胸がずんと重くなる。この先、どうなるのだろう。訳が分からない事態は嫌という程経験した。けれど、やることははっきりしていたと思う。だが、今は、知りもしない他人を重ねられ、見も知らない男の腕に抱かれている。しかもその男は異形の姿をしている。もう何がなんだか分からない。

 私はまだ正気だ。正気のはずだ。


「うるさいのだけど!」

「地上に戻っても貴女はいずれ殺される」


 断定にたじろぐ。殺されるだって?

 水色の髪をした男は髪を梳きながら、なんともないように笑う。


「俺の姿をご覧になった感想は? 女王陛下」

「女王陛下ではないわよ。……なんで片方だけ骨になっているの?」

「ふふ、これは醜いだろう、女王陛下」


 醜いというよりいっそ綺麗な剥製のようだ。片方は整った肉を持つ顔なのにもう片方は直視するのも躊躇われるほど骨が突き出ている。眼窩の窪みや鼻腔の穴、頭を支える首の骨に至るまで真っ白い骨が露出していた。

 撫でたら痛覚は感じるのだろうか。この作り物めいた肉体が機能不全を起こさずに活動しているのが不思議でならない。


「我が君によって俺は処刑人としての人生から抜け出せた。上等な服を着て、馬鹿な貴族どもに揶揄されながらも騎士として生きることが叶った」


 処刑人?


「貴女に会い、俺は身悶えるような恋を知った。この身を捧げても良いと思える至高の方。けれど、革命が起きた。庶民どもは俺を処刑人へと舞い戻らせた。俺に貴女を殺せと命令した!」


 革命? いつの時代の話をしているんだ?


「我が君が何をした? 貴女が何をした? 法はない。怒りだけが突き動かす。殺せ、殺せと! なんの権利により人を殺めるのだ。どんな行いの償いで死に逝くのだ。答えはないまま、それでも殺せと! 俺は貴女を殺した」

「私を殺した?」

「ロケニール公爵夫人。イズラ子爵。ザルゴ公爵令嬢。イゾルデ男爵夫人。それだけじゃない。革命派の中核にいたココ・マドルド嬢もリナリナ・イーリア嬢も殺せと命じられ、殺した。首をギロチンではね、明日の希望を奪ってやった! だが、……リスト・ノーティス公爵を逃したせいで俺もギロチンの刃の対象になった。貴女を殺し、生き延びることを選んだ俺への報いなのだろうか」


 男は苦しそうに目元を細めた。


「それでも生きたくなった。死にたくはなかった。逃げた。北上し、隣国への亡命を計画した。ねえ、女王陛下。俺の最期が想像できる? 血に飢えた残虐な人間達は俺を弄ぶように罪人の骨と繋げた。正気を食い潰す虫が体を這い回る。それを笑いながら、馬車のように狭く、腐臭立ち込める棺桶のなかに閉じ込められ埋められた」


 罪人は土葬される。貴族なかには土葬された者を家系図から消してしまうほど忌諱されている。

 死刑執行人の家系をいくつか知っている。けれど本物にあったことがあるのは一度だけだ。王城の晩餐会にひっそりと参加していた。細身で長身の男だった。宝石も服もご愛想程度で、会場の片隅にいるために設えたと言わんばかりの地味で目立たない服装をしていた。

 私も国王陛下が参席するまでのほんの僅かな時間、その会場に紛れ込んでいた。そこを彼に見つかって、少しだけ話をした。

 息子を紹介された。将来、音楽家になると言って厳粛に目を伏せた子供らしくない息子だった。

 彼の名前は確かーー。


「このイヴァン・ランカンが民衆を扇動したのだ! 我々を唆し、惑わす悪魔を封じ込めたぞ。これで悪しき心が晴れる! これで安寧が約束された! とね。まるで喜劇だ。その後もあいつらは無益に罪人を作り出していったのに」


 ランカン家のことは知っている。王家に仕える死刑執行人の家系の一つだ。晩餐会に来ていた。

 息子の名前はイヴァン・ランカン。戯れで私に花嫁になってと言った男の子。いやだが、彼とは風貌が全く違う。

 ……この目の前の男が革命前後に生きたランカン家の祖先だとしたら、この男の言う女王陛下とやらも実在するのか?

 いやいやいや。そもそも数百年前の人間が生きているわけがない。それに話通りならば身の毛のよだつような仕打ちを受けて、生きていられるわけがない。

 嘘、なのか?

 でもこんな嘘をついてなにになる?


「ふふ、女王陛下。俺が死んでいないのがそんなに変だろうか?」


 そう言ってイヴァンは私に自分の頬を撫でさせた。冷たい頬肉の上を指の腹がなぞる。彫刻の凹凸をなぞっているような奇妙な感触だった。鼻筋を渡り、骨がむき出しの部分に導かれる。


「俺が死ねなかった。ここまでされて、死ぬことが叶わなかったのだ。洪水が起こり、俺の埋められた地が水に飲み込まれ、気が付けばあの神に拾われていた」

「死に神の眷属になったわけ?」

「とはいっても、あの清族に捕らえられてしまったが」


 絹のように滑らかな表面の骨を頬擦りさせるように、イヴァンは私を掻き寄せた。


「女王陛下。俺のこの醜悪極まりない姿をみても、地上に戻りたい? 俺が受けた仕打ち以上に地上には醜怪な刑があるものだよ。人の想像力に果てがないように。残虐さにも果てがない」

「な、なにが言いたいの?!」

「死は怖いものだ。俺は、いまだに死にたくはない。こんな不細工な姿になっても。女王陛下は戻られて、どうする? むざむざ殺されに行くのか?」


 悪魔の誘惑があった。生きることへの侮蔑があった。イヴァンは地上への嫌悪感に満ちていた。


「そこまでして、死にたい?」

「ああ、死にたいものだな。俺は」


 凛と通った声がした。自信満々なのに、どこか物悲しい。

 そんな声を出さないでと叫びたくなる。


「死ねば、俺が王族ではないと知られることもなくなる」

「面白くもない理由だ。リスト様ってほんととっとと野垂れ死んでカルディア姫の記憶から消去されればいいのに」

「……今すぐ死にそうな姿をしているのはそっちだ」

「うるさいですよ」


 うわっと声を上げてしまった。どこから出てきたのか、二人が机をばんと叩いた。

 ギスラン、リストの言う通り、全身血塗れで今にも死にそうだ!

 イヴァンの腕を振り払ってギスランに駆け寄る。こいつ、嬉しそうに笑っている場合か。


「最下層部から逃げてきたのか? その姿で? こわい。人間、怖すぎる」


 死に神が目を伏せ、怯えた様子で言った。

 最下層部?


「カルディア姫、擦ると痛いです」

「当たり前よ! こんな姿で痛くないところがあると思っているの!?」


 腕が曲がっていけない方向曲がっている!


「清族を呼びましょう。地下にも医療従事者はいるでしょう?」

「はなおとめ。混乱が極まっているな。ここでは誰も死なない」


 死なないって、今にも死にそうな人間がここにいるのだけど!?

 死に神は頼りにならない。くそ、さっき壊れた階段が再び現れればいい。いや、階段などなくとも、背負って壁を上がってやる。


「ギスラン、数をかぞえなさい。少しは正気でいられるわ」

「はい、カルディア姫。……いつにもまして凛々しくて、かわいらしいです。私、惚れ直しそう。また口づけして差し上げたい」

「はあ!? 口づけだと?! お前達、結婚前になにやっているんだ!」

「口づけは口づけです。羨ましいですか? 妬ましい?」

「ギスラン・ロイスター、貴様、もっと血塗れにしてやろうか?」


 ギスランに襲い掛かろうとするリストを宥める。

 って、リストもリストでひどい状態じゃないか! 

 上着は腹部を中心に赤黒い染みで汚れている。頬に引っかかれたようなかすり傷があった。鮮やかな髪はぼさぼさで、耳飾りが片方、千切れていた。


「カルディア、お前の貞操観について話すことがある」

「今、ここで!?」

「そうです、カルディア姫。もっと緩くとも構わないですのに」

「逆だ、馬鹿。お前、淑女のなんたるかを学んだ方がいい」

「……お前の顔をみたことがある」


 イヴァンの怯懦の声が届いた。彼はリストの顔をのぞき込んで小指でゆびさす。


「恐怖政治を敷いたエヴァ・ロレンソンではないか。反体制派に殺され、頭蓋は鳥に捧げられたときいている。なぜ、お前がここに?」


 リストはたじろぐイヴァンをまっすぐ見つめ返した。


「誰だ、エヴァ・ロレ……?」

「エヴァ・ロレンソンだ! それに、そっちの清族、お前のことも知っている。女王陛下のお気に入りだった、塔の住人ではないか」

「女王陛下? 誰だ、それは。私が仕えるのはカルディア姫だけ。他の女のお気に入りになるつもりもない」


 紳士然としていたイヴァンは見る影がなかった。髪を掻きむしり、恐慌に陥っていた。聞き取れない言葉で早口に捲し立てる。声をかけても返事しなくなってしまった。


「はなおとめ以外の人間は最下層部に収容された方がよい。お前達は生きていてはいけない存在だ」

「なにを言っているのよ」


 死に神もイヴァンと同じように慌てているようだ。だが、真っ直ぐ私達を見つめる瞳には悪意のようなものはなかった。


「はなおとめ、説明は不可能だ。お前には理解できない。だが、こやつらが地上に存在してはいけない」


 リストもギスランも黙り込んだ。

 死に神は反論を許さないような口ぶりで断言した。


「…………帰る」

「はなおとめ?」

「ギスランも、リストも連れて帰るわ。私、そのためにここに来たのだもの」

「強がるな。お前が無理矢理連れてこられたのは分かっている」


 知っている。けれど、死に神が人間に甘いというのならば、こういえば帰れるのではないだろうか。私は誘惑に打ち勝ったのだ。無下にはできないと自身でも言っていた。


「はなおとめが帰るのは許可しよう。けれど、そこのものは、望ましくない」

「死に神に言われる筋合いはないわ。どこで生きるか、死ぬか、それは自分で決めることよ」


 ギスランとリストを振りかえる。二人とも、情けない顔をしていた。頼りなさすぎて、いつもの憎たらしいまでに喧嘩して血気盛んな様子がない。二人が言うべきことなのに、なぜか躊躇しているようだった。


「帰るわよ、お前達がいないと、私、次から誰と食事を共にするのよ」

「言うに事を欠いて、それか」


 リストが唇の端をつねりながら言った。


「当たり前でしょう。だって、私、お前達がいないと馬鹿にされるし、ひどい目にあうし! こんな地下に来たのも、お前達が私から離れたのが悪いと思うの」


 二人そろって、どうせ地上に戻らなくてもいいかもと思ったのだろう。誰がそんなの許すものか。リストの顔がいつものあきれ顔に戻る。ギスランは瞳がきらきらしてきた。


「馬鹿カルディア」


 馬鹿馬鹿うるさい。


「永遠に付きまとっていいお許しを下さるなんて、カルディア姫ったら大胆過ぎます。淫らで、直情的なカルディア姫も魅力的ですけれど! 他の男に言われたら、殺意を覚えるので、口になさってはなりませんよ?」


 ギスランは相変わらずお花畑のような思考回路だ。どこをどうきけばそういう理論になるのだろう。

 ……だが、生気が戻った。それだけでもいいことだ。

 二人の手をつかむ。二人とも沸騰しているのかと思うほど体温は高かった。


「はなおとめ、とても、困る。その手を放して」

「死に神は、人に甘いのでしょう? リストもギスランも人間よ。甘やかして」

「う、うぐぐ……」


 死に神の肌から黒い文字が滴り落ちてくる。それは地面に落ちると、紙に変わった。紙には、びっしりと黒々とした文字が書かれていた。死神はそれを一瞥して足で踏みつぶした。


「それらは――の戴冠式が関わりがある。このままでは、またもや――が繰り返すことになる。はなおとめ、これが、どういうことだか分かる? ――が繰り返されるということだ。また、多くの人間が――――――。恐怖による××。悪意による××が生み出され、集団ヒステリーにより、次々と×が訪れる。もう、俺は見たくはない」


 ぐしゃりという紙を潰す音で死に神の声がかき消された。


「やはり禁則事項に引っかかるのか! なんと馬鹿馬鹿しい規則だ! はなおとめ、このままでは――が繰り返される。――も――もいまだこの――から――――――――。これは、――に書かれた記載とは異なる。このままでは、×が狂い、もっと悲惨な目に遭うことになる」


 だめだ。死に神の語る言葉に雑音が混ざりすぎて聞き取れない。

 大嵐のなかで聞き分けているような、騒音に死に神の言葉が消えた。


「……説明すらかなわないとは。ひどすぎる。本来、世界の主は俺であるのに。こ、こんな……」


 死に神はくしゃりと顔をゆがめる。泣き出す前の子供のようだった。


「いや、悲しくないとも。……うん。どうせ、もごもごと言い募ったところで無駄なのだ。俺はとても偉大な神であろうに。なんの力も持たないなんて」

「帰してくれるの?」


 死に神は、こくりと頷いた。二人を掴む力が強くなる。さっきまで反対していたのに、納得してくれたのだろうか。


「けれど、蘇りの試練を与えなくては」


 藤が竿のように大きく揺れた。

 紫の美しい光が周辺に広がった。その光は何層にも重なり合い、赤みがかった藤色へと変化していく。

 光のなかで死に神の姿だけがぼやけずに見えた。まるで星が落ちてきて、そのまま姿を作ったような神々しさだった。


「はなおとめ、俺にも矜持がある」


 死に神の吐息が首筋にかかる。

 いつの間にか、死に神は私の背後に回っていた。


「生きることは、残酷になること。生きるとは、誰かを蹴落とすこと。死に逝く者、生き行く者。それを分けるのは、生きるという輝かしい思いの強さだ。地上に戻るというのならば、戻るがいいよ。だが、その前に」


 リストとギスランといつの間に手が離れていた。死に神は首を絞めるように後ろから私を抱きしめた。


「あれを殺してしまえ」


 死に神が私の顎をもって私に見せつけたのは、ギロチンにかけられたイヴァンの姿だった。

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