第一章_04
約束の時間には全員西門に集合していた。
「みんな、装備は大丈夫ですか?」
ヒロトは集合した二人に向かって声をかける。依頼を複数人で受ける場合には登録者がリーダーとなる。
「おう!」
カケルは胸を拳で叩く。カケルの戦闘服は青い髪に合わせてなのか、服も青を基調としたものだった。鍛え抜かれた上半身には黒いタンクトップに青いジャケットを羽織り、ズボンまで青かった。左の手首と肘の間には直径一五センチほどの銀色の円盤が装備されていた。
「えっと、いつもので大丈夫だよね?」
ミユは少し緊張気味に答える。ミユの戦闘服は緑と白で統一されていた。緑のミニスカートに白いニーハイソックス、白いシャツの上には襟が少し高くて肩の部分にスリットの入ったジャケットを着ている。ジャケットはオーダーメイドなのか身体のラインにぴったりとフィットするようになっており、言わずもがなより胸が強調されるような形になっていた。
そしてそんな胸より目立つのは背中に差してある大きな剣。ヒロトのとは比べものにならないくらい大きく、その赤銅色の大剣は刃渡り一三〇センチ、幅が二五センチ、一番厚みのある芯の部分は五センチほどの厚さ。剣先に近づくほど幅がだんだん細くなっていく形状になっていて、両刃である。
「ははん。ミユちゃんの武器、初めて見るけどわかりやすいね。属性は赤なんだ」
「そういうカケルさんこそ。属性は青なんだね」
カケルとミユはお互いの武器の特徴や属性の話で盛り上がる。
魔法の属性は基本的に四種類ある。赤、青、黄、無とそれらはわかりやすいように色で記号化されている。赤は火を扱えて力を示し、青は水を扱えて守りを示し、黄は雷を扱えて速さを示す。無はその他の基本的、応用的な様々の魔法を扱える。無色を除く三色においては一人一色というのが通例であり、それは生まれつき決まっている。適正でない色の魔法も扱えないこともないが、それは本当に微々たる力であって戦いに使える代物ではない。また、回復魔法というものは存在しないため、回復するには調合済みのポーションを必要とする。
「ヒロトくんは黄だから、このメンバーそれとなくバランスいいね」
「あぁ、そうだな」
ミユが楽しそうに話すのにカケルも乗る。
「それに能力持ち?」
「うんうん! ……って、あれ? なんでカケルさんがそのこと知ってるの?」
ミユが不思議そうに首をかしげる。
「ヒロトくん、他の人には話さないって言ってたけど……話したの?」
ミユはヒロトの方を見て反対側に首をかしげる。
「……いや、言ってないけど」
ヒロトはカケルに対して疑問に思うとともに、警戒の目を向ける。
「いやいや、待てって! ある噂があるんだよ」
カケルは慌てたように手を振りながら話し始める。
「遅い入学だっていうのにあっという間に七級になったすごいやつがいるって。半年に一回ある昇級考査に七級まで一発合格で通ったっていう」
「あれ、それってヒロトくんじゃん」
「そう! そんなすごいやつだからきっと能力持ちなんだろうって、噂がさ」
カケルはヒロトの方に目を向けながらいう。
「……まぁ、そんな隠すようなほどのものでもないんですけどね」
ヒロトはため息をついた。
魔法とは別に何か特殊な力がある人を特殊能力持ち、または能力持ちと呼ぶ。特殊能力は希少な力で、その数は少ない。
ヒロトは目立ちたくなかったから公言はしていなかったが、まさか能力持ちであるなんて噂が流れているとは思わなかった。
「で、どんな能力なんだ? 俺が聞いたことのある噂では幻覚を見せることができるとか空を飛べるとか腕が生えるとか!」
カケルは目をきらきらさせながらヒロトに詰め寄ってくる。
「えっと、そんなたいしたものじゃないですよ?」
ヒロトは詰め寄られた分と同じだけ後ずさる。
「いいから!」
なおもにじり寄る。
「うぅ、俺の能力は……」
「能力は?」
ゴクリ、と喉を鳴らす音が聞こえた。
「相手の属性が見える、です」
「…………は?」
カケルは間の抜けた声を出した。
「俺の特殊能力は目に宿っていて、相手が魔法を使おうとすると色がオーラのようなものとして身体にまとっているのが見えるんです」
「それだけ?」
「それだけです」
カケルはヒロトから少し離れて頭をぼりぼりとかく。その顔は少しがっかりそうとも、または思案顔にも見えた。
「なんだ、そんなもんだったのか」
「だからたいしたことないって言ったじゃないですか」
ヒロトもぼりぼりと頭を掻いた。
「……でも、地味だが使い方によっては勝手がいいのかもな」
カケルは誰にも聞こえないほど小さくつぶやいた。
「まぁ! そんなことよりそろそろ行きましょう! 話していてちょっと時間がつぶれちゃったよ」
ミユは元気に声を出して、先陣を切って歩きだした。
「ミユ!」
「ん、何かな? ヒロトくん」
「……西だからこっちだぞ」
ヒロトはミユが歩き出した方向とは違う方向を指さした。
「あれ、ミユちゃんって方向音痴?」
カケルが、ぷっ、と吹き出した。
「そ、そうなら先に言ってよ!」
ミユは顔を少し赤くしながらヒロトとカケルのところまで走って戻った。
「じゃあ、お互いにいろいろ知ることができたということで、そろそろ行きましょうか!」
ヒロトは気を取り直して二人に話しかける。
「おう!」
「うん!」
三人は依頼で示された場所である、西方面の小高い丘に向かって歩き出した。