第一章_02
C.Sは食堂を中心として東西南北それぞれに一棟ずつ校舎が独立して建っている。各校舎はそれぞれ別の用途を持って使用されている。ヒロトたちが普段授業を受けている校舎は東にあり、そのまんま東校舎と呼ばれている。東校舎にはそれぞれ階級ごとに教室が設置してある。他に北校舎には特別教室と研究室が設置され、東校舎には実技訓練場、南校舎には職員室や教員専用研究室といったその他多様な施設が配置されている。
三人はせわしなく食堂を出て、南校舎にある施設の一つである依頼の受付所へと向かう。
「私、六級になってから初めての依頼だよ」
ミユは依頼受付所、と表記された大きな両開きの扉を開けながら言う。
「そんなたいして変わったものでもなかったぞ。ただ依頼の報酬金額は増えていたけど」
ミユに続いてヒロトとカケルも部屋に入る。
依頼受付所は五〇メートル四方ほどあるとてつもなく広い部屋だった。部屋の壁という壁には魔法によって表が映し出されていて、そこには地域別、階級別に依頼の内容が事細かに書かれていた。その下には依頼の受付をするための端末がざっと一〇〇台ほど並び、その画面に触れて操作することで依頼の受付を行う。
そして依頼表が映し出されている壁の前では五〇〇人ほどの生徒でひしめき合い、あの依頼はどうとかあの地域に行きたいとか、そういったような会話が部屋のあちこちで飛び交ってにぎやかな空間を作っていた。
「依頼の場所、近場でいいよな」
カケルのその一言にヒロトとミユはうなずく。
セントラルシティ周辺の依頼の一覧表がある壁に向かって歩き出す。やはり近場は人気なのか、どこよりも人だかりができていた。表にはものすごい量の依頼が一覧となって並び、受付可能な依頼は光って表示され、現在行われている依頼は少し暗く、そして横線が引かれている依頼は達成済みを表している。
また上から階級が低い順に並んでいるため、ヒロトたちは上から真ん中よりやや下のあたりまでの依頼を受けることができる。
「どれにしようか」
「私、初めてだから少し簡単なのがいいなー」
カケルとミユがあれがいい、これがいい、と話している間、ヒロトは無言で依頼を眺める。
「………あれにしよう」
ヒロトは小さくつぶやくと依頼を受けるための端末へと向かう。
「ちょ、おいおい。せっかちか」
一人歩き始めたヒロトにカケルは慌てて声をかける。
「あ、すいません。いつもの一人で受けてるんで……」
「寂しいな、おまえ」
「あはは、今日はみんな一緒だよ!」
「気をつけます」
ヒロトは面目なさそうに頭をかりかりとかく。
「それで、ヒロトくんはなんの依頼にしようとしたの?」
「えっと、七二六番のやつ」
ヒロトの言葉にカケルとミユは依頼一覧から七二六番の依頼を探す。
「ええと、ふむふむ。魔獣討伐の依頼か。俺は構わないぜ」
「魔獣討伐の依頼ってことは……戦うんだよね? だとしたらちょっとやだなー。さっきも言ったけど私六級になったばかりなんだよ?」
カケルの快諾とは裏腹に、ミユは頬を膨らませて抗議する。
「ミユちゃん、そんなかわいい顔をしてもしょうがないんだよ。基本的に六級より上は討伐とかダンジョン探索とか、そんなのばっかだよ」
カケルは一覧を指さしながら言う。
「え? 素材集めの依頼とかあったけど……」
「詳細を読んでみな」
ミユはカケルに促されるままに素材集めの依頼を見る。
「……花集めの依頼。『研究素材であるハナサキオオトカゲの頭頂部に咲く花を一〇個ほど持ってくること』」
ミユは小さな声で読み上げると、首を小さく傾げた。
「……ハナサキオオトカゲって、どんなんだっけ?
「そうだな。俺たちより大きいな、あのトカゲ」
「そうですね。全長二メートルとか言われてた気がします」
「いや、さらに大きいのになると三メートルを超すって聞いたことあるぞ」
言葉を交わした男子二人は、疑問を投げかけた女子の方をそろって見る。それらの言葉を聞いた女子は頬をぴくっとひくつかせた。
「そう、そういうことなら仕方ないね。……あれ、じゃあ戦闘が専門じゃない人はどうやって階級上げてるの?」
「みんな研究してるんだよ」
ヒロトは当たり前だろ、というように答える。
「ミユちゃん、五級より上は普通じゃなかなか昇級できないって聞いたことない?」
「ある……けど」
「うん。それにだいたい六級が凡人の限界といわれている。もうその辺りの人たちは普通とは違う次元に生きているんだ。だから六級で昇級するために研究してる人は新しい何か、または証明が難しい問いに対する成果を上げなきゃなんない。しかも研究なのに命がけのものもあるらしいし」
カケルは真面目な顔で話を進める。
「俺たちの階級でだいたいの人間が二五歳を迎えて卒業する。残る人もいるけど、卒業した人たちはCS第六級の肩書きを持って就職するんだ。まぁ第六級の肩書きだけでも大きな企業への就職はほぼ確実って話だけどな」
一呼吸置いて、だから、とカケルは続ける。
「まぁ、討伐依頼でいいんじゃないか?」
ミユは少し間をおいてからため息をついた。
「うん。ヒロトくん、依頼の登録お願い」
「おう」
ヒロトは止めていた足を端末に向けて動かし始めた。
依頼を登録するための端末の前に立つと、それはひとりでに電源がついた。
「依頼の登録、っと」
宙に浮いているディスプレイにタッチする。すると魔力認証によってヒロトの個人情報が表示される。しばらくすると画面が切り替わり、No. の後ろに四つ並んだ正方形が表示される。ヒロトはその正方形に依頼の番号である〇七二六を入れる。すると、依頼を承認しました、と表示され、また画面が切り替わる。その画面には同行者がいるかどうかを問う文章が浮かび、ヒロトはいつもとは違う選択肢である、イエスをすかさず押して振り返る。
「個人認証、よろしく」
ヒロトに指示され、カケルとミユは順に画面に触れる。ヒロトと同じように個人情報が認証され、ヒロトの下にそれぞれ名前が並ぶ。
「これでよし、と」
最後に、登録完了、と表示された部分をタッチする。すると、依頼受付完了しました、という言葉が画面に浮かび上がってすぐに消えた。
「では各自準備して、三〇分後に学校の西門に集合。これでいいですか?」
「うん!」
「了解だ」
「それじゃあ、またあとで」
ヒロトの言葉を最後に、三人は受付所の前で一時解散した。