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旦那様、笑う

むふー、まだまだラブラブにはならないでござるー

 

 祝言はその日の夜に行われた。

 

 私は強く反対したが、私の意見など誰も聞いてはくれなかった。

 

 祝いの席には夕夜様、お玉、お玉の両親でお七と八吉、道太郎殿の剣の師匠でいらっしゃる三岳岳三殿とその奥方が出席された。

 

 お玉とその両親は家族で佐治家に奉公している使用人のようだ。

 離れに住んでいるらしい。

 お七の年は27、8ぐらいだろうか、お玉と同様に力強い生を感じる。顔もよく似ていてかわいらしい。ただ八吉殿は体は大きいが痩せていて目つきが悪い、寡黙で何を考えているか分からない、とても一つ屋根の下で一緒に暮らしたくはない男だった。


 三岳先生はご年輩で、70を越えていらっしゃるらしい。奥方も同様のお年だろう、お二人とも御髪は真っ白だ。

 お二人とも道太郎殿を見て泣いておられた。

 私の両手を両手で握られ、道太郎をよろしくお願いしますと、ご夫婦で頭を深々と何度も何度も下げられた。

 道太郎殿は宴の席で一言も喋らず、表情も一度も変わらなかった。

 宴の後、私はお玉に道太郎殿の寝室に案内された。

 部屋の中には布団が敷いてあり、浴衣姿の道太郎殿が正座されていた。

 私は布団を挟み道太郎殿の正面に座った。


「お話があります」


 道太郎殿が私の目真っ直ぐに見て話し始めた。


「私の家族についてです。お玉達家族、三岳先生と奥方、そして母上、これは私の大切な家族です。

 三岳先生は父が死に、五つで当主となった私を一人前の剣士として育ててくださった恩人であり、父であり、祖父のような存在の方です。

 なぜ貴方は三岳先生が頭を下げているのに、頭も下げず言葉も発せず、あの様な態度をとられるのですか。

 八吉は私が十の時から当家に使えてくれています。

 使用人の少ない当家で小言一つ言わず誠実に働いてくれています。

 なぜ貴方は罪人を見るように八吉を見るのです。

 私は貴方のことを何も知りません。

 どのような方なのか全く分かりません。

 貴方も私のことを全く知らないでしょう。

 私たちはこれからお互いを知り、夫婦になっていけば良いのです。

 だから私に対してどのような態度をとろうとそれは良いのです。

 これから知り合えばよいのですから」

 

 道太郎様は大きく息を吐く。

 

「ですが、私の家族にはあのような態度はお止めください。

 私の家族は貴方を受け入れようとしているのに、貴方を家族の一員に迎え入れようとしているのに、貴方から拒絶するようなことは行わないでください」


 道太郎殿は布団に入り私に背を向けた。


「おやすみなさい」


 道太郎殿はその夜そのまま眠られた。

 


 朝、目を覚ますと道太郎殿は部屋にいなかった。昨日にあれは何だったのだろう、道太郎殿は表情一つ変えずに話していたが怒っているのだろうか。分からない、十年も嫁をやっていたのに。


 障子を開ける。

 

 朝の日差しが気持ちいい。お七が庭の草花に水をやっていた。


「若奥様! おはようございます!」


 お七は私を見つけて力強く挨拶をした。


「おはようございます」

「今日もいい天気です。 気持ちいい一日になりそうですね」

 

 本当に元気のいい人だ、そして気持ちのいい人だ、明るくカラッとしている。この人になら心を許せる気がする。


「少しお時間ありますか?」

「はい、何でしょう?」


 お七は水やりを中断し、桶と柄杓を持ったまま縁側に腰をかけた。


「少し貴方とお話がしたいのです」

「まぁうれしい! 朝からおしゃべりなんて今日は本当に良い日です」


 お七の顔がパァと明るくなった。


「昨日の夜…………」

「まぁ! 夜の話! そんな話を聞いたら私この後興奮してお仕事ができるかしら!」


 なななな何を言っているのだ! その夜の話ではない!


「道太郎様と一緒のお布団、大きな子がいる私でも考えただけでも興奮しますわ!」

「その道太郎様が…………」

「夜の道太郎様! だめ! 私鼻血が出そう!」

「違うのです!」


 興奮して大きな声を上げてしまった。お七はポカンと口を開け驚いた顔をしている。


「何が違うのです?」

 

 お七は真剣な顔になりうつむく私の顔をのぞき込む。


「お話ください。お七でよければ」


 お七は優しい笑顔で私の手を優しく握ってくれた。


「昨日の夜、道太郎様に叱られました。道太郎様は表情一つ変えておられなかったので分かりませんが、きっと叱られたのだと思います」

「何について叱られたのです?」

「あの、昨日の宴の私の態度についてです」

「道太郎様はなんと?」

「何故三岳先生にあの様な態度をとったのか、何故、あの、その、八吉にあの様な態度をするのかと、そのすいません」

「八吉のことは気にしないでください。自分の亭主ですがあれの見た目は罪人ですから、まぁ本当に罪人ですけど」

「罪人?」

「はい。あれは人を一人殺めています。

 あれも屑ですが、殺めた相手も屑でして、屑が屑を殺し、その仕返しにまた屑が屑を殺す。

 そんな、くだらない話です。

 あれは道太郎様と三岳先生がいらっしゃら無かったら全うにお天道様の日を浴びれる人間ではないのです」

「道太郎様と三岳先生が?」

「はい。そうだ、このお話をお聞かせいたしましょう。

 このお話を聞けば道太郎様と三岳先生の素晴らしいお人柄と内の亭主の屑っぷりがよく分かると思います」


 お七は私の手を取り、優しく、そして力強く握りしめた。



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