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旦那様、照れる(完)

このお話はここで終わりなのでござる―


 道太郎様は濡れ縁に立ち軽く両手を広げ、月明かりに照らされていた。


 全裸で。


 時折肩が、腰が、太股がピクリと痙攣するように小さく小さくはぜるが、全体としては動きは全くない。

 白い道太郎様の肌は月明かりに照らされ、まるで質の良い象牙でできた観音像の様だ。

 美しい。

 この世のものでは無いという言葉はこの光景、この人の為にあるように思える。


「戻られましたか」


 軽く私の方にその美しいかんばせを向ける。


「着物を着ます。要していただけますか?」


 私は道太郎様に下着を渡し、着物を着せ、袴を穿かせる。


「何をされていたのですか?」


 私の質問に道太郎様は視線を月に向ける。


「月明かりを浴びていたのです」

「月明かりを?」

「はい」

「朝は何をされていたのですか?」

「朝ですか?」

「朝です。同じように裸で、濡れ縁に立たれておりましたが?」

「朝日を浴びていたのです」

「朝日を?」

「はい」


「あの、何故です?」


「はい?」


「何故月明かりや朝日を浴びられるのです?」

「…………」


 道太郎様が俯き、黙り込んでしまった。

 月明かりに照らされた美しいかんばせは耳まで真っ赤になっている。

 ん? 恥ずかしがっているのか?


「…………お高様に聞いたのです。朝日を浴びると体が臭くなくなり、月明かりを浴びると体が良い匂いになると…………私は今まで一人でこの部屋で過ごしてきました。体の臭いなど気にした事まありません。しかし今は一人ではありません。体が臭いと御迷惑をおかけしますし…………」


 うわ、うなじまで真っ赤。


「私は貴方に臭い者だと思われたくはなかったのです」


 あ、心の鐘が鳴りそう。


「紅」


「はい、朝言われましたので夕夜様にお借りして引いてみました。おかしいでしょうか?」


「…………おかしくはありません。その、あの、その」

 

うわ、手の甲まで真っ赤。


「…………良く似会っています」


 あ、心の鐘が鳴ってしまいそう。


「…………美しく思います…………」


 あ~あ心の鐘、鳴っちゃった。

 鳴っちゃいけないのに。

 こんな年増なのに。

 道太郎様が本当におさまるのは幽玄様の隣なのに。


「道太郎様、今宵はこれにて」


 立ち上がり踵を返す。

 泣きそう、これからこの部屋には幽玄様が見えられるはず。此処に居てもお邪魔になるだけ、早く退散しなければ。


「どちらに行かれるのですか?」


「お七の部屋に行こうと思います。私は今宵御邪魔でしょうから」


「! お七の部屋はいけません! 今宵お七と八吉の部屋ほど行ってはいけない所はありません!」

 

 ん? 何を言っているのだ?


「それにお七とお玉は母上の部屋で今夜は寝ると思います! お七の部屋は! お七の部屋だけはいけません!」


 首をかしげる。何故そんなに焦っておられるのだ? そもそも何故お七たちは八吉を残し夕夜様の部屋で寝るのだ? 


「今頃八吉は日ごろ断っている酒を幽玄様に勧められ、酔いどれに酔っている頃です。酔いつぶれもう寝てしまっているかもしれません。その、あの、その、何て言うのか、あの、幽玄様は朝まで八吉に添い寝をされるのです。八吉の胸に頭を乗せられ、腕を絡め、足を絡め八吉が眼を覚ます寸前まで八吉に絡みつくのです。その、何て言えばいいのか、幽玄様は……」



 あーそっち。



「幽玄様は八吉を好いているのです」


 あー道太郎様ではなくそっち。


「幽玄様は添い寝されるだけなのです。八吉は気付いてないので此処は何卒幽玄様の思いを酌んではいただけませんでしょうか」


 頭を下げる道太郎様。


 あ~幽玄様八吉狙い。


「お七は? お七は知っているのですか?」

「お七は知っています。それにお七はかなりこの事を楽しんでいます」


 まあ、お七が良いなら良いか、いや、本当に良いのか?


「一つ条件が有ります」

「はい?」

「お七の部屋に行けないのであれば一つ条件が有ります」

「あ、はい、何なりと」

「……一緒に寝て頂きたいのです……」

「あ、はい一緒に寝ます。昨日も一緒に寝たではありませんか」

「……いえ、同じ布団で寝て頂きたいのです……」

「………………」


 うわ、体中真っ赤、真っ赤じゃない所が無い。

 道太郎様は私の前に座り三つ指をつき頭を深々と下げられる。










「……不束者ですが、御指導御鞭撻ください……」


 いや、それは貴方のせりふじゃないだろう


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