31話:お屋敷探検、最終回!@2階
探索最後の日。
この日、彼らは洋館の真実を知る。
幽霊は居る、霊能力は存在する。
そんな非日常を知り、認めてしまった彼らにはもう、全てが見えてしまう。
洋館が必死に隠してきた真実だというのに。
日常に埋もれさせていればよかったのに。
合宿のおかげで完全代休となった翌日土曜日、屋敷の朝は遅い。
夜は不安からかなかなか寝付けないわりに、寝てしまえばそれっきりで、目覚ましもかけずに住人は眠り続けていた。
「……はっ!」
突然バサッと上半身を起き上がらせると、目を見開いて固まる萩原。
キョロキョロと辺りを見渡し携帯電話を見つけると、側面のボタンを押して時計を起こす。
11:38
「はー……メシ」
コタツ布団から抜け出しキッチンへ向かう。
流し台から茶碗を取り山盛りに飯を盛る。
冷蔵庫のタッパーから唐揚げを取り出すと、ご飯のなかに埋め込んだ。
ご飯の匂いに釣られて起きたらしい月島が、続いてキッチンに入る。
彼はたんまりのご飯に春巻を差しこんでいた。
目をしばつかせながらコタツに入り込み、昼飯を食べる。
「食べおわったらよ」
「あー?」
「2階探索すんぞ」
「あー」
それだけ言うと、髪は寝癖まみれで目の据わった荒んだ彼らは、わびしい食事を続ける。
もちろんその時間はすぐ終わり、米一粒残さずきれいに平らげた。茶碗に水を張るついでに顔に水を引っかけ、目覚めを促した。
「目がシャキ!」
「おら懐中電灯」
「今日で終わらせるんでしょ?探検すんのはいいんだけどさー」
「何も見つからなくて何もわからなくても、何かわかっても、それでどうすんだってか?」
「うんそんで、この家に留まるか留まらないか」
「先にそっちの結論言うなら、俺は高校卒業までこの家を出ていくつもりはない」
「おお、出てくつもり全くないんだ」
「もし今回探索して何もわからなかったら、次に変な奴が来たときにお前らなんなんだって聞き出す」
「正気?あいつら生け捕りにして聞き出すの?2人がかりで来られたらどうしょもなくない?」
「あいつらをどうにかしないと、ここには住めない。頭使って対策考える」
「ずいぶん前向きなことで」
「で、もしこの探索で何かわかった場合は、そこから対策を臨機応変に練る」
「へー、とにかくここに居座るために頑張るって感じじゃん」
「もうそうするしかない。この家離れてどうするかっていうのが考えらんねえから。お前はどうすんだ?出ていくつもりはあんのか?」
「どうだろ。まあゆっくり考えるわ、流れで」
「出たよ適当発言」
「そーですね。とりあえずじゃあ探索しますか」
前日に続き懐中電灯片手に部屋を出る。
玄関ホールの階段を慎重に光で照らしながら上りきる。
「この階は廊下両サイド部屋なんだ。1階は片側窓だけど」
「1階は窓側が中庭だからな」
「中庭感の全くない景観だけどね。ただの荒れ地でしかない」
とりあえず手近な所からと、階段に近い左側のドアを開ける。
そこは整頓された寝室だった。
ベッドとデスクの間にある窓の、厚いカーテン越しにうっすらと陽光が滲んで入っている。
萩原は懐中電灯を消すと、部屋へズカズカと入り、閉められたカーテンを無造作に開ける。
さんさんと太陽が降り注ぎ、部屋のなかを明るくする。
埃こそ被っているが、カーテンやベッドは上質なものが使われていて、高級感あふれる内装だった。
「うわ広っ、ベッドでか!」
「いいトコのお貴族様の部屋ってかんじだな」
「お貴族様読書家だね。この本の量すごくない?」
壁の左側に沿ってずらりと本棚が並んでいた。
「……うわ、机の上は荒れてんな」
窓側に向かって置かれたデスクの上には、紙と本の山がこんもりと出来ていた。
埃を払い、何か書かれた紙を一枚手に取ってみる。
「……お、なんか見覚えのある落書きが書いてあんな」
「どれどれ?あ、ホントだ。1階の光線グッズの箱に描いてあった模様じゃん。あれ、ここに住んでた人が作ったんだ」
「つかむしろ、この部屋の人が作ったんじゃねえの?机の荒れ方がなんとも研究者っぽいしな」
「ホント掃除嫌いだねこの人。俺かっていう。あーあー、なんかリッチなもんが埋まっちゃって」
紙の山の下敷きになってしまっている、金属製の小物をわさっと取り出す。
上面部は花模様でカメオのような艶やかな素材で出来ており、凝った浮き彫りがふんだんに施された手のひらサイズの箱だ。
パカッと無造作に開く。なかには何も入っていなかった。
「……!」
代わりに中からは、美しいオルゴールの音色があふれ出た。
明るく綺麗な曲調だがとくに有名な曲というわけでは無さそうだ。
「……この曲」
だが月島と萩原は、流れる音色に背からぞわっとしたものを感じ、身震いする。
狐につままれたような表情で固まり、長調から短調へと切り替わったオルゴールに聴き入る。
「なんだったっけ」
「……どっかで聞いたことあるけど思い出せねえ現象、だな」
「まあいいや、気に入った。持ってかえろう」
月島はササッとポケットにオルゴールを突っ込むと、机の上をがさがさと漁る作業に戻る。
「おい、さり気なくコソドロのような動きをしてんじゃねえぞ。物に目眩んでも、持ち出さないっていう決まり忘れたのかよ」
「売って一儲けする気はないってば。あくまでこの子は個人的趣味のBGM要員にするつもりだって。ていうかそれより、この部屋の人、相当電波さんだったみたいだよ」
「電波さん?」
パラパラと机上の書きなぐった紙を流し見した月島が、萩原に読むよう促す。
「ひたすら魔法について書いてある」
「は?……あー、うわ」
3枚ほど並べて、メモを流し見した萩原も納得の表情になる。
理系の研究者と思われていた部屋の持ち主は、なんと魔法を信じているメルヘンな人だったようだ。
「確かにやべえな。魔法でタイムトラベルする気だぞこの人」
「うっへ、やれるもんならやってみたいわー」
「でも……あながち馬鹿には出来ないんじゃないか?」
「え、なにどうしたの?魔法信じちゃったの?お前も電波化したの?気を確かに」
「うるせえよ。いやだって、あの赤い光線食器作ったの、この部屋の人ってのはほぼ確定だろ?……その作った人が魔法について研究してるんだから、ただ頭のおかしい奴って決め付けんのは早計じゃねえか?」
「つまりあの食器たちが、マジで魔法で出来たものだって言いたいの?最先端技術で出来たものじゃなく」
「……否定は出来ないだろ」
「……まあ、ホラーも肯定された今、確かに否定は出来ないかもね」
月島は難しい表情を作ったあと、思案顔で本と紙の山を崩していく。
「この部屋おもしろいね。よく調べた方が良さそう。ホラーの次は魔法ってか」
萩原も黙って肯定を示すと、ぐるりと辺りを見渡し、部屋右端の棚に目をとめた。
そこには台も無いのに宙に浮く謎のオブジェなど、おかしなものがたくさん無造作に置かれていた。
「おい葵……なんかへんなもんが」
呼び掛けながら振り返った先には、本棚の前でしゃがみこむ月島が居た。
「何してんだ?」
「机の上の本、どっから出したんだろうと思って本棚見てたら、なんか彫ってあんのに気付いて」
そう言い指差す本棚の縁には確かに、この屋敷でそろそろお馴染みのオシャレな魔方陣が彫られていた。
「ここだけにポツンと一個。怪しすぎる」
「箱みたいにさわってみたら何か起こんじゃねえの」
「いやそれが全然全く」
魔方陣をスイッチのように指先で連打するが、うんともすんともいわず、何も起きない。
お手上げとばかりに立ち上がり、デスクチェアに寄りかかる。
「ふうん?」
代打に萩原が本棚へと近づきしゃがみこむ。
そしてまじまじ魔方陣と見つめ合ってから、そっと指先で触れた。
「うおっ!」
触れた瞬間、魔方陣が一瞬白い閃光を放ち、驚いた萩原が立ち上がって後ずさる。
月島も目を点にして魔方陣を眺めているなか、本棚全体がカタカタと震え出した。
そして2人の目の前で、本棚はパシンと発光すると、表面全体にぼうっと魔方陣が浮かび上がる。
みるみるうちに本棚は魔方陣に吸い込まれ、丸ごと消え去ってしまった。
だがすぐに魔方陣のなかから空間をふさぐ物が現れた。
それは豪奢な内装に相応しくない、焦茶色をした温かみを感じさせる木目調のドアだった。
ドアが壁をふさぐと、ふっと魔方陣は消えた。
「………」
まさに絶句。
目の前の事象が終わっても、月島と萩原は息を呑んだまま固まっていた。
言い逃れの出来ないモノを見てしまった。
たった数秒のことであったが、ハリウッド映画級の美麗CGでしか見たことないようなそれは、現実からあまりにもかけ離れたものだった。
この続き、しばらく悩みます(´・`)