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30話:お屋敷探検!@地下

学校に着くとそのまま流れ解散となった。

駅方面との分かれ道で谷と別れた月島と萩原は、疲れた背中を晒しながらぐだぐだと歩く。


「食べ放で米類とった?」


「あんまとってねえ」


「米炊かなー。今日お前当番ね。俺おととい食事当番やったから」


「は?バイキングのセットしただけだろ」


ここで月島のメール受信バイブが唸り、会話が途切れる。

携帯電話をいじりだした彼が遅れがちになり、そのまま別行動になると思いきや、萩原が歩調を合わせ再び会話がはじまる。


「今日と明日、家の探索しね?」


「……あー、うん。そうだね。あんな話聞いちゃね、居ると思っちゃうからね」


自分たちには霊感がある。

見えざるものが見えていたというのだ。

屋敷で何度かあった凶器持参の女たちとの戦いも、あらぬものだったかもしれないと、彼らは不安を感じていた。


「でも家探ししてなにか解決すると思う?」


「わかんねえ。でもこのままじゃ気持ち悪いだろ」


「つーかマジで幽霊だったらどうすんの?除霊って俺たちで出来んの?」


「この前はなんとかなっただろ」


「お前何もしてないけどね」


「……やる気ねえなら俺1人でやる」


「やらないとは言ってないってば。俺も正直このままじゃ安眠できない」


面倒くさい問答を経て結局家捜しの決行が決まったようだ。


お化け屋敷の疑いありの家へと戻った彼ら。

昼ごはんを食べてしばらく休むと、のそりと活動をはじめた。


懐中電灯を手に取り、玄関ホールの階段前へと向かう。

現在時刻は午後3時だ。屋敷の中は廊下こそ窓から光が入るが、玄関ホールなどは太陽が届かず真っ昼間でも暗い。


「地下か2階かどっちにするか……」


「個人的には地下のが嫌だなー」


「地下から行くぞ」


「嫌と言ったのに嫌がらせかい」


「俺は苦手なものは先に食べるタイプだ」


「それは俺もだけど。やっぱお前も地下のが嫌なのね」


懐中電灯で足下を照らしながら、螺旋状の階段を慎重に下りていく。

地下ということで、光の入らないジメジメした状況を覚悟していたが、空気は乾燥していた。

おかげで寒さも一塩なのだが。

階段を下りきり辺りを照らす。


「円形の廊下だな」


左右、照らした先にはぐるりと細長くカーブを描いた廊下があった。


「ふんふん。で、前方にはドアがありーの」


「ありーのからのー?」


「入りーの!」


恐れをテンションで誤魔化す2人。

意を決した月島がバンッと観音開きのドアを開ける。

真っ暗闇の中、懐中電灯を持つ腕をいっぱいに伸ばし、せわしなく辺りを探る。


「異常なし。ホール内には椅子も机も無い。広いなー」


本当に広い空間らしく、わんわんと月島の声が反響する。


「お……」


萩原が正面方向に光を向けると、舞台があり、壇上には黒い大きな物が乗っていた。


「ピアノじゃん、しかもグランド」


月島はグランドピアノに駆け寄ると、舞台の下からライトで照らしまじまじと見る。


「ピアノが壇上にあるってことは、講堂かパーティーホールって感じか?」


「これ絶対相当お高いピアノだ」


「わかんのかよ」


「いや適当。そういやさー、最近すごい中毒なピアノ曲あるんだよね。タイトルとかわかんないんだけどなんかニュースの主題歌でさ」


「テレビ見てねえから全然わかんね」


「俺も谷ん家行ったときに2回くらいしか聞いてないんだけどさ。聞いたらすぐチャンネル変えちゃったし。すっげいい曲なんだよ!」


「なんでそんなテンション上がってんだよ」


「ピアノってなんかテンション上がんない?」


「いやそれお前だけ。そんなんならその曲弾いてみろよ」


「ひゃっほー!」


珍しくイキイキとした様子を見せる月島が、壇上によじ登りグランドピアノのカバーをむしり取る。

ホコリが舞うのも気にせず床に放ると、ピアノの蓋に手をかける。

手元を明るくするため、バランス良く鍵盤の縁に懐中電灯を設置する。


ポロンポロンと音を鳴らし確かめると、最初の音を探す。

見つけると左手も鍵盤へ乗せ、スムーズに鍵を押し弾きはじめた。

スピード感のある長調をフォルテで力強く奏でる。


彼の性格に似合わず素晴らしい実力だということは、誰の耳にも明らかだった。

信じられないことに弾いている姿は、いい所のお坊ちゃんに見える。


「冗談で言ったのにあっさり弾けんのかよ。あー……聞いたことあるかもな」


実は月島、1年生のころ音楽選択だったりする。

意外にも芸術は全体的に好きらしい。


一通り弾きたい曲を弾き終わり満足したのか、鍵盤から手を離すと席を立つ。

その背を光に照らされハッと振り返ると、いつの間にか壇上に上がっていた萩原が歩いてくるところであった。

懐中電灯を持っていない方の手に何か箱を抱えている。

箱をガタンと舞台に置き、ライトで照らしながら楽器ケースらしいそれの蓋を開ける。


「向こう散策してたら楽器倉庫みたいのあって、いいもん見つけた」


「お、ヴァイオリーン。……はっ!デジャブ……金曜ロードショー……セイジくんだ!」


「ああ、谷ん家で見たやつか。月島ぁー、コンクリートロードはやめた方がいいと思うぜ」


「やなやつ!やなやつ!やなやつ!耳すまいいよね耳すま。カントリーロード弾きなよ」


「そんなら海の見える街のが弾きたい」


「魔女宅?いいね。でもやっぱあれ弾いてよパッヘルベルのカノン」


「ヴァイオリンといったらコレって感じの曲だな」


上機嫌らしくオーダー通りに弾く気になったらしい。

調律は月島のピアノ演奏海中に済ましていたらしく、優雅に奏ではじめた。


様になっているが、普段の性格を考えると彼もまた全くもって似合わない姿だ。

しかしピアノはまだしも、ヴァイオリンの確かな腕があるなど、もしかしたら彼はリアルお坊ちゃまだったのかもしれない。


「さらりと弾けちゃうんかい。完全にエリートキャラの絵だよこれ」


懐中電灯係と化した月島がしみじみと言う。

彼らは本来の目的をそっちのけで、意外な特技の披露を楽しんでいるようだ。

うまい、という一言のみの、拍手も起きない演奏会が終わる。

しかもチップの代わりに手渡されたのは懐中電灯だ。


「クリスマス会出て演奏したら?」


「ピアノとヴァイオリンでか。軽音楽部の奴らのなかで俺らだけ貴族ミュージックだな」


「友野姉妹にボーカルやってもらおう」


「ねーよ」


もちろん本気でクリスマス会に出る気など毛頭なくただの冗談だ。

萩原はヴァイオリンの箱を閉じると、舞台の縁へ移動し足を垂らして座った。


「友野姉妹と言えば……最近俺ら周辺で噂立ってんの知ってるか」


「この家のことじゃなくて?」


「女関連」


「え、マジ?」


「双子と藤井と関わること多いだろ。ちょうどよく男3女3だから、くっついてると思われてんだってよ。他のクラスの奴に」


「へー、余計にモテないわけだ」


「お前は昨日のでA組にすら疑われたんじゃねえか?」


昨日ので、とは月島と光が肩組んで就寝時間に遅れたことである。


「あー、やっぱそう?」


暗闇のなか椅子に座り、蓋を閉じたグランドピアノに肘をつく月島の態度は飄々としたものだ。

萩原は振り返り、記者会見のカメラの変わりとばかりに月島の方へとライトを向ける。


「お前、トモネエのことどう思ってんの?」


「うおっまぶしっ」


眩しさに顔を歪めると背けてライトから逃れる。

それでも追いかけてライト攻撃を続けるので、手のひらで顔を覆う。


「なんでトモネエ?昨日のでお前も勘違いしたとか?」


暗闇でのライト攻撃が予想以上のダメージだったのか、もはやライトに背を向け顔を覆っている月島。

質問には答えず萩原は楽しげに背中に光線を当てるばかりだ。

数秒間を置いて観念したようにため息を吐くと、月島はポツリと呟いた。


「ああ、気づいてんのね。……ええまあ好きですよ」


萩原の頭の上に感嘆符がピコンと飛び出す。


「えっ!」


「何その素の驚きかた!気付いてて聞いたんじゃないの!?」


「いや全然」


「はああっ!?てかお前はあれっしょ!」


仕返しとばかりにピアノの蓋に乗っていた懐中電灯を萩原へと向け、引きつった笑顔の月島が裏返った声で言う。


「トモウト!」


「は」


「好きっしょ?おとといの勉強会の夜も気遣って退場してやったんだぞ!へっへ、言わないでいてやっただけで気付いてたんだぞー」


「いつから」


「文化祭前とかそのへんだっけな」


「マジかよ」


「はっは!まあ言うに言えないよねあの2人。そういうのからっきしだし」


「まあな。……でもお前試しに言ってみたら?勢いとかで。勢いで行動すんの得意だろ」


「は?冗談じゃない。後々キツすぎるっしょ。特進はクラス変わんないんだから」


「フラれんの前提かよ。へたれ野郎だな」


「おっまえにだけは言われたくないわー、マジないわー。むしろお前が行けよ、成功するって俺が保証してあげるから」


「何より役に立たない保証だな。つかお前はいつから好きだったんだよ」


「いつだろうね」


珍しく恋愛話になったかと思えば、なぜか暴露大会と化したお屋敷調査タイム。

地下での会話は日が落ちる直前まで続いた。

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