29話:おとなり双子姉妹
合宿は終わった。
閉会式の後、バスへと生徒たちは押し込まれ、すぐに発車した。
帰りのバスでは特に仕事も無いので、副学級委員の光も早めに乗り込む。
「ひかりー私窓側がいい」
「はいはい」
あくびをしながら恵が後から続き、隣同士になる双子姉妹。
席に着きしばらくしてバスが発車する。
二人はとくに話もせず恵は窓の外を見ながら、光は背もたれに寄りかかり、ぼーっとしていた。
「………」
「……ねえ恵」
光は前を向いたまま、窓の外を眺める恵へ呼びかける。
「なにぶーたれてんの?」
「……ぶーたれてないよ」
「……そうね。でも、なんか言いたいことがあるの我慢してるでしょ」
また沈黙。
窓を見たままの恵は光のほうを見もしない。
「まあ言いたくないならいいけど」
「だって……光だって私に言わなかったじゃん」
「へ?」
「見てらんないくらい落ち込んでたのに、葵とふたりで話してすっかり元気になってるんだもん。私だって心配だったのに。すごい心配してたのに」
「……前言撤回。あんた寝ぼけてるだけでしょ。素直すぎて気持ち悪い。話しかけてごめん。もう寝なさい」
「私はいつだって素直ですー」
「はいはいそうね。でも素ならそんなこと絶対言わないからねあんたは」
「光は私より葵のが大事なんだ。好きなんだ」
「ちょっとそのノリ怖いんだけど」
「葵のことが好きなんだー。大好きなんだー」
「わかった。謝ります。心配かけてごめんなさい。恵に相談しなくてごめんなさい」
「ふん。光が……葵を好きなんてこと、とっくに知ってたけどね」
「ちょッ!?」
窓を向いたままの恵のほうへ身を乗り出して声を荒げる。
そして前の席に聞こえていないか、通路に体を出し覗き込んで確認する。
前の席の2人は防音用に持参を許されたヘッドホンを着けて眠っていた。
「め、めぐみいいいッッ!」
顔を赤くして窓を見たままの背中に歯を食いしばりながら怨嗟の声を浴びせかける。
だが恵はぴくりともせず小声で言葉を続けた。
「私なんか……やっとああ好きだったのかーってわかったのに……」
「え?」
「もうムリだよ……あんなかわいい子と噂たっちゃってるんじゃなあ……」
「え?あんた、好きな人いるの?」
「………」
「恵?」
「……すー……」
「寝ちゃった。もう。……なんかずるい」
窓側へと乗り出していた体を背もたれへと戻し寄りかかる。
ほてった顔を落ち着かせるように目を閉じ、静かにため息をつく。
「別に月島のことなんて……好きじゃないし」
心を落ち着かせるつもりが典型的な素直じゃない子のセリフを言ってしまい、余計に居たたまれない気分になる。
(……まさか私たちがこんな気持ちを持つ日が来るなんて。らしくない。ああバカみたい)