第41話 マルクス
「兄上は、幼い時から建国の勇者と救国の乙女の絵本が好きだったんだ。2冊の絵本は何度も読み返されてボロボロになっていた。2人で勇者と乙女が結婚したら最強だなという話をしたこともあった。」
マルクスの言葉にエルフリードも頷いた。
「そういえば、僕も小さい頃フェリクスに救国の乙女の絵本を読んでもらったことがあったな。」
「兄上がリリアンヌとの婚約が調う前に、王宮でクルム侯爵と会う機会があった。いつも冷静な兄上が珍しく興奮していたんだ。”彼には娘がいるんだよな。どんな子かな?”結局ソフィアは母親似で、侯爵に全く似てなかったから兄上もそれ以上興味を持つことはなかったけどね。」
マルクスはそこでお茶を口に含んだ。
「その後、ノアがソフィアに付いて王宮に来た時も冗談ぽくだけど”あの子が銀髪で女の子だったら救国の乙女みたいだったのに惜しいな”とおっしゃってたんだ。」
マルクスの話から考えると、フェリクスがレイアを妃にと言い出したのは、その時の軽い思い付きではないということだ。
おそらく幼い頃からの憧れや理想など彼の想いが詰まっているのだろう。
ヨハンがため息をついた。
「王太子の婚約者が亡くなって、名門のクルム侯爵家がこんなことになってしまった。妃になれそうな年周りのいい令嬢もいない。王太子の提案はこれらを上手くまとめて解決できるし、反論するのはなかなか骨が折れそうだな・・・。」
ヨハンの言葉にレイアとエルフリードは表情を曇らせた。
「まあ、今後のことは神殿に帰ってから相談しよう。」
そう言ってヨハンが帰り支度をしようと立ち上がりかけた。
「あっ。ちょっと待って下さい。」
マルクスがヨハンを引き留めた。
全員の視線が彼に集まった。
「ソフィアがどんな様子だったか教えてほしい。」
マルクスがレイアをじっと見つめてきた。
彼がここを訪れた一番の目的はこっちだったのかもしれない。
そう思いつつ、聖堂での悪魔とのやり取りの詳細をマルクスに話した。
「悪魔が消えると同時にソフィアとノアもかき消すように消えてしまったから、その後は分からないんです。申し訳ありません。」
詫びるレイアにマルクスは寂しそうにほほ笑んだ。
「いいんだ。あまりに突然のことで実感がわかなかったけど、君の話を聞いて自分の中でも現実なんだと呑み込めてきたよ。彼女のことを色々言う人もいたけど、僕にとっては可愛い婚約者だったからね・・・。」
その後、話を聞かせてくれてありがとうと述べ、マルクスは静かに部屋を出て行った。
レイアにとってソフィアは決していい妹ではなかったが、マルクスにとってはまた別の顔があったのだろう。
前日まで元気だったその婚約者を突然こんな形で失ってしまったのだ。
何とも言えない気持ちでレイアは部屋を出て行くマルクスを見送ったのだった。




