第30話 アルベルト
「悪魔との契約は、自分の都合でそんな簡単に破っていいものではないぞ。お前は記憶力がいま一つのようだから、特別に家族にも契約内容をもう一度教えてやろう。」
アルベルトがそう言うやいなや、そこにいた者たちの脳裏に映像が送り込まれてきた。
※
大雨の中、一人の男が剣を持つ男たちから逃げている。
逃げる男は、今よりだいぶん若いがルイスだろう。
ルイスは袋小路に追い詰められ、男の一人に剣で胸を切られた。
胸から出る血を使って、彼は悪魔を召還した。
場所は異空間に移り、ルイスと今と全く変わらない姿のアルベルトが対峙していた。
「目の前の借金取りの始末と、借金を全て失くして欲しい。」
アルベルトはニヤッと笑った。
「なんだ。そんなつまらない願いか。いいだろう、叶えてやろう。代償は何をくれるのだ?」
「私の命とかでなければ・・・。」
小さな声でルイスがつぶやいた。
そんなルイスの顔をしげしげと眺めた後、アルベルトが提案してきた。
「では、お前の最愛の娘を貰おう。」
「む、むすめ?そんな・・・。」
「お前の妻でもいいぞ。美しい女だ。」
「わ、分かった。娘でいい。」
「契約成立だ。娘はまた気が向いた時にもらいに来る。それまで大切に育てるんだぞ。」
かき消すようにアルベルトの姿が見えなくなった。
その後、ルイスを追いかけていた男たちに雷が落ちる場面や大雨の中馬車が崖から落ちる場面や葬儀の場面が断続的に見えた。
そして突然、映像は豪華で明るい室内に切り替わった。
バタバタと足音がして男性が速足で駆けている。
今とほぼ同じ姿のルイスだ。
「ソフィア、お前とマルクス様の結婚式の日程が今日正式に決定した。これで、お前の王族入りは確定だ!」
満面の笑みでルイスがソフィアに話しかけた。
既に婚約者には内定していたが、婚約段階では政治的な事情などで直前に破棄されたケースが過去にもあった。
しかし、結婚式の日取りまで決まってしまえば結婚が覆ることはないだろう。
ルイスは嬉しそうに笑いソフィアを抱き上げクルクル回った。
「私の最愛の娘が王族になるなんて、今日は最高の日だ!」
「お父さまったら。私はもう小さな子供じゃありませんわよ。」
ソフィアもクスクス笑い声をあげ、父に笑いかけた。
映像はそこで途切れた。
※
「この日、お前の最愛の娘が決定したのだ。」
アルベルトの言葉にルイスはガクッと膝を床についた。
「そ、そんな・・・。」




