第15話 クルム侯爵邸
「あっ、はい・・・。レイアです。よろしくお願いします。」
ルイスの表情や態度を見ても家族という親近感は全くわかず、レイアは戸惑いながらペコリと頭を下げた。
その時、ルイスの後ろに立っていたソフィアが口を開いた。
「まあ、品のない挨拶ですわね。お姉さまは貴族の挨拶をご存じないのかしら?それにその下品なドレスはどこで手に入れられたのかしら?まるで使用人が着るお仕着せのようですわ。」
レイアはソフィアに視線を向けた。
口の端を吊り上げ、侮蔑の表情を浮かべた少女はそんな様子でも非常に美しかった。
血の通ってない冷たい人形みたい・・・。
レイアがそんな感想を抱いていると、ソフィアは膝を折りドレスのすそを軽くつまんで優雅に挨拶をしてきた。
「初めまして、お姉さま。妹のソフィアですわ。」
どう?あなたにはこんな優雅な挨拶はできないでしょう?と言わんばかりの態度だった。
ソフィアの悪意を感じ、戸惑いながらレイアが無言で頷くとソフィアはさらに眉をひそめた。
「人の挨拶に対して適切な受け答えもお出来にならないのね。私、来年には第二王子のマルクス様と結婚いたしますのよ。王族になる私にこんな下品な姉がいるなんて皆に知られたくありませんわ。私に近づかないようにして下さいませ。」
レイアも、こんな意地の悪い妹と仲良くしたいとは思わないが、あまりな言いように唖然とした表情でソフィアを見た。
その表情が気に入らなかったのか、顔をゆがめ横にいたノアに話しかけた。
「ノア。あなたもそう思うでしょう?あなたもお姉さまの存在を外で話しては駄目よ。クルム侯爵家の恥になってしまうわ。」
急に話しかけられたノアはびっくりした様に目を瞬かせた後、ソフィアに愛想笑いを向けた。
「え、ええ。そうですね。姉上。」
ソフィアの言葉に、ノアはそう言って頷いた。
クララやエルフリードと離れて、苦行のようだった長い旅を我慢して、ようやく会えた血の繋がった家族の様子に、レイアは心の底からがっかりしていた。
クララとの生活は幸せだったが、一目でいいから実の両親や妹弟に会ってみたいという気持ちがずっとあったのだ。
その思いがあったから、あの辛い旅路もなんとか耐えることができたようなものだ。
失礼極まりないソフィアの言葉を諫めるでもなく、ルイスが話しかけてきた。
「1週間後、お前に会ってもらいたい人物がいる。それまで、この離れで暮らしてくれ。必要な物は言ってくれれば何でもそろえてやるから屋敷から出ないように。」
「1週間もですか?」
「ああ、その後は好きにしてくれたらいい。ここに専属のメイドを一人つけるから、用事や必要な物はそのメイドに申し付けてくれ。」
早口のルイスに圧倒されるようにレイアは頷いた。
「じゃあ、今夜はもう遅いし我々は本館に戻らせてもらう。屋敷の中は好きに使ってくれていいからな。」
そう言い残しルイスは家族を引き連れ、さっさと離れを去って行った。
結局、母とは一言も話さないままだった。
会わせたい人のことなど聞きたいことは色々あったが、質問は許されない雰囲気だった。
彼らを見送って扉を閉めた後、レイアは思った。
早くレーゲンスブルクに帰りたい・・・。
部屋に行き、荷解きをしながらレイアは不安な思いにとらわれた。
会わせたい人が居るって言ってたけど、その人に会ったら本当にレーゲンスブルクに帰れるのかしら?
まさか、勝手に決められた婚約者とかじゃないでしょうね。
与えられた情報が少なすぎて、悪い方に想像が膨らんでしまう。
ぐるぐる色んなことを考えてしまい、その日はなかなか寝付けなかった。




