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乙女ゲームは終了したのに帰れません〜ハッピーエンドの後に、ひとりぼっちになったヒロインですが、自分の力で生きていきます〜  作者: 国枝 志歩
学院編

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晩秋 学院でひとり

 針の筵ってこういうことだよね。

 ハナの悪評は広がるばかり。話しかけても返事はなく、ハナの隣はいつも空いたまま。

 羽ペンを折られたり、教科書を隠されたり、トレイをひっくり返されたり、嫌がらせが増えた。

 そのうち飽きて忘れてくれるのではないか、という淡い期待は裏切られた。

 

 あちらの世界のことを書き留めたノートを開いて読み返す。

 そして思い出せる限りの乙女ゲームのシナリオを書いてみる。

 何がいけなかったんだろう。もう嫌。

 

 ノートを投げつけたくなった。

 

 週末は家へ帰ることにした。居心地の悪い学院に留まるより、マーサの顔を見て、一緒に料理をする方がまだ良かった。オットーもいない今マーサが唯一の拠り所のように感じていた。

 

 朝晩はもう肌寒い。制服の上にコートを羽織る。

 元の世界に戻る方法が見つからないのに、刻々と時間だけが過ぎてゆく。

 毎日が重かった。

 寝不足が続き、いつ声を出して笑ったか思い出せない。

 

 そんなある日、廊下ではっきり聞こえてきた言葉。


 「あばずれ!」

 

 振り返ると、そこにいたのはクラスメートの子爵令嬢とそのグループだった。

 あの子は確か、エステヴァンに手ひどく振られた子だ。フレデリカという名前だった。

 扇子で口元を隠して斜めに構えてニヤニヤ笑っている。いつもハナに対する嘲りの言葉を聞こえよがしに言ってくるグループ。今までなら無視して通り過ぎるだけだったけれど、その時は腹の底から怒りが湧いて、抑えきれずツカツカと彼女らに近づいていた。


「言いたいことがあるなら、影で言ってないで面と向かって言いなさいよ!!」

 と怒鳴る。


「なによ。本当のこと言っただけじゃない!」

「身分も礼儀もわきまえず、高位の方々に媚び売って、いやらしい」

「エステヴァン様は婚約破棄なさったのよ。あなたのせいで。身の程知らず」

 

「エステヴァンが婚約破棄したのは私のせいじゃない!」

 

「まあ、呼び捨てですの?伯爵家の嫡男に対して!礼儀知らず」

「おーこわ!男に媚を売る以外は能力のない女はすぐに声を荒げる」

「ウイレム殿下もこんな女のどこが良かったんだか」


 言い返す言葉が浮かばず、怒りに任せてフレデリカの胸ぐらを掴んだ。


 その時、すぐ耳元でばんっと手を打ち鳴らす音がした。

「いい加減になさいませ!」


 並々ならぬ威圧感を漂わせた、背の高い令嬢がいた。

 同学年で最高位の侯爵令嬢アメリア・ディ・オルベック。

 チョコレート色の長いまっすぐな髪を後ろでしっかりと結い、切れ長の目が印象的な美人だ。

 ピンと伸びた背筋。装いにも立ち姿も隙がない。成績はトップクラス。

 これぞ貴族女性の鏡と、学年の中でも一目置かれる存在だった。


「ここは公共の場ですよ。大きな声で罵り合うなどはしたない」

 その声は低く落ち着いていて、よく響いた。遠巻きに見物していた連中も、アメリア嬢の迫力にシンとしている。


「ハイレーナ嬢。貴族たるもの、いかなる時でも手を出してはなりません。口で応戦するものですよ。まずはその手をお離しなさい」

 ハナは気圧されて掴んでいた手を離した。厳しい口調は続く。


「あなた方も、ハイレーナ嬢に不満があるのなら、きちんと理論立てて話すべきですわ。噂だけで話すべきではありません」

「それに、フレデリカ・ディ・テグナ子爵令嬢。不敬はあなた方もです。ウイレム殿下がパートナーに選ばれた方を批判するのは、ウイレム殿下を批判するのと同じです」

 対する子爵令嬢たちも、不満そうな顔をしつつ後退った。

 

「お分かりになったのならもうよろしいでしょう。お行きなさいませ」

 アメリア嬢は手を振って子爵令嬢達をその場から去らせた。

 彼女の有無を言わせぬ圧に、つい体が従ってしまったかのように、彼女らはその場を急ぎ足で去っていった。

 それを目の端で確かめたアメリアはハナに向き直った。

 背の高い彼女からハナは見下ろされる格好になる。


「ハイレーナ嬢。あなたは、ご自分の分をわきまえていらっしゃらない」

 ハナは拳を握って下を向いた。


「あのように殿方を何人も周りに侍らせるなど、淑女のすることではありません。ましてや身分が遥かに上の伯爵、王族の方々に、場所もわきまえず対等に話すなど、あってはならないことです。あなたも貴族の一員であるならば、尊重すべき礼儀作法を学びなさい」

 

 アメリアは閉じた扇子をハナに突きつけた。


「ましてや、挑発に乗って暴力を振るうなど、最低の行為です。あなたの振る舞いがウイレム殿下をはじめとして、エステヴァン様、アドリアン様、ヴァレンス様の品位まで貶めるのですよ。お分かり?」

 

 そんなの知らない。貴族の作法なんてどうでもいい。みんなは普通に話しても嫌がらなかった。最初は厳しかったアドリアンだって、言葉使いを改めようかと聞いたら「そのままの方がハナらしい」と言ってくれたもの。

 

 うるさい!

 意地悪なのはアンタたちの方じゃない。

 こんな世界大っ嫌い。

 

 ハナは顔を上げ、思い切りアメリアを睨みつけるとその場から走り去った。


 

 嫌がらせはその後も続いた。

 ハナは「淫乱・軽薄・礼儀知らず・暴力的・学院の恥」だそうだ。

 例のフレデリカが率先して吹聴して回っているらしかった。


 

 アドリアンから短い手紙が届いた。

 

「オットーから手紙をもらって、ハナの現状を知った。何もできない自分が心苦しい。できる事があったら言ってほしい」

 という内容だった。


 ハナはサッと目を通すと机の上に投げ出した。

 気にかけてくれるのは嬉しいけれど、ハナの置かれている状況が変わるわけではない。

 もうどうでもよくなっていた。

 朝起きるのが辛い。授業へ出ようとすると胃がキリキリ痛む。


 週末は逃げるように家に帰る。

 屋敷にいる間は少し元気に過ごせる。マーサと食べる時は食欲が出る。

 父は西のレグステラに滞在しているとのことだった。マーサに近況は伝えてるらしいがハナ宛の手紙はない。

 マーサだけが笑顔が減って痩せてゆくハナを気遣ってくれた。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。

アメリア様登場です。

ハイレーナの感情が爆発しています。

攻略対象に囲まれて『居心地の良かった学院』『居場所のなかった屋敷』が入れ替わってしまいました。

明日17時更新します。

感想・評価お待ちしています。

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