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乙女ゲームは終了したのに帰れません〜ハッピーエンドの後に、ひとりぼっちになったヒロインですが、自分の力で生きていきます〜  作者: 国枝 志歩
学院編

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20/35

イレーネの日記

⚪︎月⚪︎日

 この世で一番幸せなのは私。8歳の時からずっとハロルドのお嫁さんになると決めていた夢が叶ったのだもの。

 初めてお庭で会った時のハロルドは、びっくりした顔で、私のことを「妖精さん」と呼んでくれた。

 ずっと一生ハロルドと一緒にいられる。お父様も泣いていらした。

 『爵位のない者に娘はやれない』厳しいことをおっしゃったけれど、一番ハロルドの成功を望んでいらしたのはお 父様。そして、病弱な私が苦労せずに生きて行けるように、心を砕いて下さったのもお父様とお母様。

 ハロルドもお父様の要望に応えるため、この数年本当に頑張った。

 ありがとう。本当にみんなに支えられて生きている。



⚪︎月⚪︎日

 ハロルドと喧嘩してしまった。

 私はどうしても赤ちゃんが欲しい。でもハロルドは反対。子供なんていなくても、私がいればいいと言う。

 でもね、ハロルド。白髪になるまであなたと一緒にいたいけれど、その夢は叶わない。だからせめて、あなたの側 に私とあなたの子を残させてください。私がハロルドに残してあげられる唯一の家族。

 


⚪︎月⚪︎日

 妊娠したと聞いた時震えが止まらなかった。諦めかけていたのに。ハロルドも飛び上がって喜んでくれた。

 でも、そのあとは心配そうに「母体にかかる負担は」と聞いていた。

 あれからハロルドが過保護で困る。何も持たせてくれないし、階段も登り降りしちゃダメだって言う。吐き気があ る時は食べたいものを街を走り回って買ってきてくれる。

 本当に優しい旦那様。この子が少しでもハロルドの気質を引き継ぎますように。

 


⚪︎月⚪︎日

 お腹が大きくて苦しい。ベッドから起き上がれない。

 女神様。私の命と引き換えでも良いから、この子を無事に産ませてください。

 そして、どうか、できるなら一目でいいから赤ちゃんに合わせてください。お願いします。

 


⚪︎月⚪︎日

 死を覚悟していたのに、我が子をこの手に抱けるなんて。ベッドから離れられないけれど、まだ生きている。マー サが私の代わりにあやしてくれて、顔を見せてくれる。ハロルドは怖がって抱っこする手がぎこちない。

 ああ、あなたの成長が見たい。笑った顔が見られるかしら。歯が生えるのは?「お母様」と呼ぶ声が聞きたい。

 


⚪︎月⚪︎日

 ハロルドは娘に夢中。眠っているハイレーナに触っては、小さな手だ、爪が全部揃っている、と感動する。本当にこの子は奇跡だ。ふわふわの甘色の髪が可愛い。目は緑色で、ハロルドと同じ。マーサにあやされると夜泣きもせずにぐっすり眠る。私たち思いの優しい子。



⚪︎月⚪︎日

 ハイレーナの一歳の誕生日。一年も一緒に過ごすことができて、母は幸せです。ハイレーナは日に日に変わってい く。ハロルドも夢中で、仕事へ行く前に何度もキスをして、嫌がられている。

 ハイレーナはおしゃべりみたい。ずっと私とマーサに向かって、不思議な言葉を喋っている。意味はわからないけ れど、会話しているような気持ちになる。もしかして、この子は私たちの言っていることが分かっているのかも。



⚪︎月⚪︎日

 二週間ほど寝込んだ。風邪をひいたようで、ハイレーナに会えなかった。

 いつまで生きられるのだろう。私がいなくなったら、ハロルドは新しい奥さんを迎えるのだろうか。可愛いハイレ ーナを誰かが育てるのだろうか。わかっているのに嫉妬してしまう。



⚪︎月⚪︎日 

 おとしゃまおかちゃまと言う。食いしん坊で口いっぱいに頬張って食べる。テーブルも服もたくさん汚して、マーサが苦笑いしている。ハロルドは大喜びで「おとしゃまともう一度言って」とねだり、そっぽをむかれて気落ちしていた。可愛い。

 


⚪︎月⚪︎日

 このところ調子が良い。ハイレーナの顔を見ると元気が出てくるみたい。

 ハイレーナが「おうましゃん欲しい」と言うので「お馬さんは買えない」と諭すと、「木のお馬しゃん」と言って 絵を描いた。耳の部分に棒がついていて、足の下がロッキングチェアみたいになっていて、鞍のところに座るおも ちゃらしい。こんな物、どこで見たのだろう。

 ハロルドが感心して、「すぐに作らせる」と約束していた。ちょっと娘に甘すぎるのではないでしょうか、ハロル ド。どうやらトニスに絵を見せたらしく「ペトリおじさんが作ってくれるって。よかったなハイレーナ」とはしゃ いでいた。トニスもハイレーナに甘い。



⚪︎月⚪︎日 

 いつの間にか不思議な言葉を喋らなくなったハイレーナ。その分、現実の言葉を覚えるのが早くなった。どんどん 覚えて大人顔負けのおしゃべり上手になってきた。この子は明るくて、外を走り回るのも好きだし、絵を描くのも 好きだ。たくさん不思議な絵を描いてくれた。夜帰ってきたハロルドに自分の描いた絵を一生懸命説明している。 絵が映る箱や勝手に走る馬車。水の出てくる装置。風の出てくる機械。描いた絵と同じ絵をたくさん作ってくれる 機械。この子の想像力は、もしかしたらハロルドやトニス以上なのではないかしら。


 

⚪︎月⚪︎日

 息切れがする。立っていられる時間が短い。あと何年生きられるかわからない。

 ハイレーナは五歳。おしゃまさんで美人になりそう。緑の大きな目は宝石のよう。

 今日は散々散らかしたのでマーサに怒られ、お片付けも手伝った。

 女神様。幸せな時間を五年も下さったことに感謝いたします。

 ハロルドが心配するものだから、できるだけ起きていたいけれど、もう――。

 

 

⚪︎月⚪︎日

 ハイレーナがお休みを言いにやってきて、そのまま絵本を持ってベッドに登ってきた。マーサに止められたけれ  ど、振り切ってきたみたい。

 「お母様がよく眠れるようにハイレーナが読んであげます」と言って絵本を広げてくれる。

 たくさん抑揚をつけてくれる。読んでいるうちに寒くなって私の隣に潜り込みそのまま眠ってしまった。

 あなたの温もりがこんなに愛しい。ハロルドが帰ってきて「羨ましい」と言うので三人一緒に眠ることになった。



⚪︎月⚪︎日 

 久しぶりに広げる日記帳。最近は体を起こすこともままならない。

 これで最後になるかもしれない。

 

 ハイレーナ。お父様と二人にしてごめんなさい。

 でもどうか悲しまないでほしい。あなたが生まれてくれて、十年も一緒に過ごせて母は本当に幸せでした。

 学院に入ったらたくさん友達を作って、学んで、幸せをたくさん集めるの。

 あなたは自由。きっとなんでもできる。負けず嫌いで、頑張り屋さん。

 どうか思う存分生きて。

 

 私の宝物。

 ――母より。


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