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乙女ゲームは終了したのに帰れません〜ハッピーエンドの後に、ひとりぼっちになったヒロインですが、自分の力で生きていきます〜  作者: 国枝 志歩
学院編

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暴力的なシーンがあります。苦手な方はご注意ください。

「ハナ先輩。一緒に食べましょう」

 食堂に行くと入り口で声をかけられる。

 冷笑を受けても気にしないらしい。

 ハナの周りでは「新しい男を引っ掛けた」という新たな陰口が叩かれるようになった。

 

 邪険に扱おうとしても、いつの間にかはぐらかされてしまう。

 正直、ディミトリはおしゃべり上手でいつの間にか引き込まれている。

 気が緩んだ瞬間に「可愛い」だの「優しい」だの褒め言葉を挟んでくるからタチが悪い。

 

 アドリアンからは『わかったもう少し調べておく』と返事が来て以来、音沙汰がない。

 

 ハナは腹芸というか、画策が巧くない。

 オットーのように言葉巧みに相手から情報を引き出すことも、アドリアンのように多方面から集めた情報をパズルのように組み立てて構築することも苦手だ。貴族らしく柔らかい言葉に皮肉を効かせて抗戦もできない。

 ハナにできるのはひたすら相手を見ること。肌で相手の人間性を感じること。

 いつでも直球勝負だ。なので、何度目かの昼食時にディミトリにも聞いてみた。


「一体どういうつもりなの?私の評判知っているのに、こんな風にあからさまに近づいて、何を企んでいるの?」


 ディミトリはしばらく黙った後、ゆっくり言葉を紡いだ。声のトーンが低い。

 

「ハナ先輩は噂のような人じゃない。みんな誤解しているんだ。僕はずっと長いこと、ハナ先輩の事見てきました。正直で、明るくて、なんて可愛い人なんだと思って。だけど、去年まではすごい方ばかりお側にいらしたので、きっと一生ハナ先輩と話す機会なんかないと諦めていたんです。ウイレム殿下の恋人として有名だったし、僕の入る隙なんてないと思って」

 一息ついてから、真剣な眼差しをハナに向けた。

「やっと、僕と話してもらえるようになったんだ。ここで諦めろなんて酷いこと言わないでください」


 ハナは言葉が見つからず、ディミトリの顔を見返した。

 見たところ真摯に言っているように感じる。ただ、どこかで信じきれない思いが残った。

 ディミトリは次男とはいえ貴族だ。恋愛は自由だけれど、結婚は利のある相手とするだろう。

 学院時代の評判は社交界に出てからもついてまわる。

 自分の価値を落とすような行動を取る意味がわからない。

 わざわざ悪名高いハナと浮き名を流すメリットがない。

 

「こんな評判の悪い女に関わったら、あなたの将来、マイナスでしかないよ。どうせもう1、2ヶ月で卒業なんだから、これ以上関わらない方がいい」

 考えを整理しながら、警戒していると知らせないように言葉を選んだ。


「だからです!」

 とディミトリがハナの腕を掴んだ。いつものディミトリのハーブの香りが漂う。

「ハナ先輩が卒業してしまったら、もう2度と会う機会も、話す機会もないかもしれないじゃないですか。せめて、学院生活の大切な思い出にしたいんです。このまま引き下がったら、僕絶対後悔する」

 ハナはディミトリの手から腕を引き抜いて席を立った。


「それでも、よく考えてちょうだい」

 

 一体どうしたら思いとどまらせることができるのか。

 厄介なことを背負い込まずに済ませられるのか頭を悩ませた。


 翌日の午後、授業の合間に下級生の男の子がハナを訪ねてきた。

 ディミトリに頼まれたというメモを受け取った。

 

「これで最後にするので、もう一度だけ会ってくれませんか。放課後待っています」

 

 指定された場所は舞踏会用のホールから裏手に入った水路の手前だ。

 

「行かないと伝えて」

「でも、いらっしゃらないなら、これまで通り食堂でお待ちしますと」

「!?」

「ハイレーナ様に本気を証明したいって言ってました。今日来ていただけるなら、もう付き纏わないけれど、いらっしゃらないなら、振り向いていただけるまで諦めないと。思い切りの悪いやつなんです」

 伝書鳩にされた下級生は、周囲の視線が気になるのか、キョロキョロ視線が落ち着かない。

 ハナはしばらく考えて、長いため息をついた。

「わかったわ。これで最後にしてくれるなら行きます」

 答えを聞いてあからさまにホットした男の子は一礼して素早く去っていった。

 ディミトリと同じハーブの残り香が漂った。


 警戒心がなかったわけではない。どうしようか本気で迷った。

 このまま行かずに済ませたら、また明日、食堂で待ち伏せされるのだろうか。

 わざわざ人気のないところに呼び出して、どうするつもりなのか。


 放課後。

 悩んだ末、時間から20分ほど遅れて待ち合わせ場所へ向かった。

 もし、帰っていたなら、それでよし。

 

 ディミトリは水路を見ながら立っていた。

 ハナの気配に気がつくと振り返って笑った。飴を舐めていたらしく、口が動いている。

「ハナ先輩!もう来ていただけないかと心配しました」

 「遅くなりました。で、話って何?」

 ディミトリがスッとハナの前に跪く。


「ハナ先輩。僕を卒業パーティのパートナーに選んでくれませんか?」

 差し出した手には宝石をあしらったピアス。

 一瞬ピアスとディミトリの顔を交互に見て、ハイレーナは答えに窮した。

 言いたいことはたくさんあるのに、何から話したらいいかわからない。


「私、卒業パーティには出ないの」


 ディミトリがハッと息を呑む。

「そんな!」

「だからごめんなさい。パートナーにはなれません」

 ゆらりと立ち上がるディミトリ。表情が暗い。


 怒らせたか。でもこれしか答えようがない。


「お断りしたのだから、もういいわよね。これ以上つきまとわ……」


 ハナが言い終わる前に、ディミトリががっしりハナの腕を掴んで後ろでに回し、羽交いじめにした。もう一本の腕が首にかかって締められる。


「卒業パーティーに出ないだって?全く、下手に出てりゃいい気になって。それじゃこっちの計画がおじゃんなんだよ。このピアスいくらかかったと思う!」


 人が変わったような乱暴な口調に低い声。その間もグイグイと閉められ、肩はちぎれそうで息が苦しい。

 後ろへ引っ張られ、バランスが崩れそうになる。

 

「あら!ハイレーナ様とエレブルー様ではありませんか。密会の最中でしたの?」

 建物の影から現れたのはフレデリカ子爵令嬢とその取り巻きだった。

 その顔を見て、ハナは「やられた!」と思った。

 

 完全に仕組まれた。

 

 警戒はしていたのに、愛想の良さに騙された。まさかそこまではやらないだろうとタカを括っていたのがダメだった。

 ククク、と笑ったフレデリカは表情を一変させて

「卒業パーティまで待つ必要もないわ。やっちゃって!」

 とディミトリに命令した。

 

 ハナの後頭部から不気味な笑い声が響く。

「じゃあ遠慮なく。だいたい男爵のくせに生意気なんだよ。先輩風吹かしてさぁ。まあ、顔が可愛いから役得ではあるな。第2王子とやり友なんて光栄ですな〜」

 卑俗な笑いに虫唾が走る。振り解きたいけれど、強いディミトリの拘束から体は1ミリも動かせない。

 そのまま地面に引き倒される。喉を開放された瞬間大きな悲鳴が漏れた。

 すかさず口を塞がれ、ディミトリにのしかかられる。制服の前ボタンに手がかかった。


 ああ、もう……

 涙がにじんだ。

 

「何をしているのです!今すぐその手を離しなさい!」

 

 ボタンから手が離れ、ディミトリが声の方へ振り返ったのがわかった。


「これはこれはアメリア侯爵令嬢様。こんなところへお一人で、どうなさいました?侯爵令嬢といえど、女一人では危ないですよ!」

 言葉は丁重だが、嘲笑の混ざった声。

 

「あなた方のやっていることは全てわかっています。このままで済まされませんよ」

 

 アメリア様の声は冷静だ。

 

「もしかして、男が僕一人だから、舐めてます?元々その尊大な態度が気に入らなかったんだよなぁ。お前ら、出てこい!」

 

 まだ隠れている仲間がいた!

 アメリア様!


 少し拘束の緩んだ隙に体を捻って逃れようともがく。

 ディミトリが瞬時に体重をかけ、そのまま頬に平手が打ち下された。

 首から顔が左に吹っ飛んで地面に擦り付けられる。目から火花が散った。一瞬何もわからなくなった。


 

「お前が頼りにしていた仲間とはコイツらか!」

 

 と怒声が飛んだ。わらわらと人が走り寄ってくる。

 次の瞬間ディミトリの重みがふっと消え、誰かがハナの上半身を抱き上げた。

「ハナ、ハナ、大丈夫ですか。ハナ!」

 

 この声は……


「アドリアン?」

 薄目を開けるとアドリアンの黒い目と合った。

「遅くなって申し訳ない」

 グッと頭を支えられ、起き上がる。頬が痛い。

「血が出ている」

 助け起こされながら、アドリアンがハンカチを左頬に当ててくれた。

 張られた時に地面で擦りむいたらしい。


 立ち上がって周りを見回す。

 4、5人の衛兵がディミトリとその仲間の男の子たちを取り押さえ、子爵令嬢たちも囲まれていた。

 アメリア様が両手を握りしめてこちらを見ている。

 その隣に立っているのは身分の高そうな20代後半の貴族男性。

 ハナと眼が合う。動き出そうとしたその男性を押し除けるようにアメリア様が走り寄ってきた。

 

「あなた!無自覚にも程がありますわ!いくら知っている男子から呼び出されたと言っても一人で誰にも言わず、のこのこと!何か起こってからでは遅いのですよ!」

 

 とものすごい剣幕で怒られる。

 

「まあまあ、アメリア、心配したのはわかるが、ハイレーナ嬢は被害者だよ。それに、アメリア、無謀なのは君も同じだ。あとでしっかり話し合おう」

 後ろから付いてきた貴族男性がアメリアを宥め、ハナに視線を移す。

 

 背の高い男性は美男ではないものの、灰色ががかった緑の目が鋭い。じっとハナを見たあと名乗った。

 

「ルシアン・ディ・シェルビニ公爵だ。アルバードの治安部隊を束ねている」


 とその時、叫び声が聞こえてきた。

「ちょっと、何よ!私は関係ないのよ!通りがかっただけなんだから、離して!」

 フレデリカの声だ。

「チッ」

 アドリアンが舌打ちする。

 シェルビニ公爵が振り向いて柔らかい口調でフレデリカに返事をする。

 

「テグナ子爵令嬢。あなたは目撃者でもある。まずはゆっくり話を聞かせてもらおう」

 そうして部下に合図を送ると彼らを連れて行かせた。


お読みくださりありがとうございます。

アメリア嬢の婚約者、シェルビニ公爵様登場です。

いつかこの二人のやりとりを書いてみたいなぁと思っています。

明日、17時に更新です。

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