第六話 魔物との遭遇
魔術を始めてから3年。
俺は今から最後の実験に移る。
「ハッ!」
俺は掌に向けて徐々に力を加える。
すると、水の球が徐々に徐々に大きくなり、発射された。
太めの木の枝を余裕で破壊できる威力。
俺はついに、詠唱破棄を習得した。
「良し!やったぞ!!」
だが実際、詠唱破棄自体は昔からの技術としてあるようで、別に俺が凄いわけではないらしい。
これに関しては前にセルシアさんに確認したし、母にも確認しているため間違いない。
「詠唱破棄?あるよ。でも、皆やらないだけ。」
「え、何でですか?」
「詠唱は短くする程、威力が下がるの。詠唱破棄ともなれば、その威力は異常なくらい落ちる。
威力がショボすぎるから皆やらないの。」
確かに、完全詠唱のウォーターボールに比べて明らかに出力が落ちている。
だが、これだけ威力があれば問題なさそうな気もするが…この世界のモンスターはクソ強いんだな。
上級は今のところ習えないし、次はじっくりと時間を掛けて、全てで詠唱破棄ができるようにすることにした。
でも、一般的な技術とはいえ、俺も承認欲求というものがある。
俺は試しに姉に見せることにした。
「詠唱破棄魔術を見せたい?」
「そう!できるようになったんだよ!」
「まぁ良いよ」
まぁ誰でも出来るなら見せるほどでもないのは分かる。だが、それでも見てくれる姉はとても優しい。
俺達は庭から出て、少し離れた森の側の所に来た。
「じゃ、いくよ〜!」
俺はウォーターボールを発射した。
水弾は直進し、木の枝を数本折った。
「どう?!凄くない?!」
「…え?」
「まぁ、皆できるらしいけどさ、でも凄くない?」
「…あれ?…ホントに今…詠唱しなかった…?」
「え?声出してないでしょ?詠唱破棄だよ?」
「…あれ?………もう一回見せてくれない?」
「良いけど…?」
俺はもう一度撃った。
「…あれ?確か、詠唱破棄って威力落ちるんだよね…?」
「そうだよ?だから落ちてるよ?」
「今のウォーターボール、お母さんの完全詠唱のウォーターボールと同じくらい威力あるよ?」
確かに、初めて魔法を見た日、母が見せてくれたウォーターボールは完全詠唱で、折った木の枝は一本。
あれ?おかしいな。何か…俺の魔法威力強くね?
「ヒッ…!」
その時、姉の小さな悲鳴が聞こえた。
顔を上げて姉の視線の先を見ると、其処には此方を覗く瞳があった。
その瞳は二つではなく、見た感じ八つ程は確認できた。目の高さ的に四足歩行…多分、狼系だな。
「最低でも4匹…」
あれは被食者の目ではない。此方を狙う捕食者の目だ。俺は前世で動物を見たことがない。
見るのはニュースになった熊などの事件だけだ。
獣がやばいのはちゃんと知ってる。
大型犬が赤ん坊を殺すことだってできるんだ。
狼系なら確実に殺される。
「姉さん、逃げよう!(小声)」
「ま、待って…」
姉さんの足を見ると、小さく小刻みに震えていた。
「足が…動かない…!(小声)」
「!」
向こうがこちらを見て直ぐに攻撃してこないのは、さっきの俺のウォーターボールを見たからなのだろうか。
「(…なら、俺は彼奴等から目を離しちゃだめだな。)」
俺が奴等に警戒されてるなら、俺が隙を見せた瞬間、お陀仏だ。
「姉さん、走れる?走れなくても走って。走らないと死ぬよ。」
「わ、分かった…走れる!」
「家まで走れ!」
「うん!」
姉さんが走り出すのと同時に俺は森に向かってウォーターボールを撃つ。
「ウォーターボール!」
最後の文言を言うだけでも威力は上がる。さっきより強いウォーターボールは木々を多少抉りながら獣の方に飛んで行った。
そして、それを確認した俺も走り出す。
追いつかれたら死ぬ。
俺は全力で走った。
息が絶え絶えになる。
途中で前に居たはずの姉が見えなくなったが、走った。
そして、三十秒もしない内に俺の背後から狼の泣き声がした。
「(体力が…もう一回撃つしか…!)」
俺は撃退する為に振り向いた。
それと同時に飛び掛ってきた狼に押し倒され地面に押し倒された。
「ヒッ!」
俺は咄嗟に狼の顔面にウォーターボールを打ち込んだ。
木の枝と言えど、貫通する威力がある物が頭に打ち込まれれば流石の狼でも死ぬ。
狼は死んだ。だが、それと同時に魔力切れの前兆みたいな物が俺を襲った。
練習をしたあとだったから魔力の残りが少なかったんだ!
しかも、狼は重すぎて抜け出せない!逃げられない!
俺はたちまち2匹に囲まれた。一匹はあの時に仕留めたらしい。
「(どうする?!どうする?!)」
俺は狼の死体の下に体を完全に隠すことにした。
まだ温もりの残る腹は、俺をすっぽりと包み込んだ。
だが、次に突きつけられたのは迫る危機だった。
狼たちは直ぐさま上の此奴を退かそうとしてきた。
迫る獣の臭い匂いに比例して俺の鼓動が速くなる。
「(逃げられなきゃ死ぬ!)」
死体が退けられたと同時に俺は再び走り出した。
しかし、直ぐに狼が追ってくるのは分かっていた。
だから俺は少しして体を回転させ、後ろに手を伸ばした。
俺を追っかける狼は直ぐ後ろに迫っていた。
直ぐに狼の爪の射程圏内に入る。
しかし、これが俺が狙った逆転方法だった。
体調的に、魔術はあと一回しか使えない。
そして、敵は2匹。
普通の方法では勝てない。
だが、俺のウォーターボールには貫通力が高いという特徴がある。
その長所をフルに活用すれば、勝てるかもしれない。
そして、俺が咄嗟に思いついたのが、狼を縦に並べ、ウォーターボールで纏めて殺すというもの。
だが、これが出来るかは賭けだ。
もしかしたら失敗してそのまま食われて死ぬかもしれない。
だが、前世のように運が悪かった事が原因で死ぬくらいなら、少しでも、俺は抗いたい!
「ハァ!」
俺は最後の一発を発射するし、俺は地面に倒れこんだ。
そして、俺は直ぐに顔を上げる。
今すぐにでも吐きそうだ。
だが、安全が先だ!
一匹目は頭を打ち抜き殺した。
しかし、問題は二匹目の方だ。
今の一瞬で二匹目の具体的な位置は把握できなかった。
致命傷かどうかは運次第だ。
その時、俺の足に何かが触れた。
其処には、頭の半分以上を魔術でふっとばされた死にぞこないが居た。
「(何でこんなになっても生きてるんだよ!)」
気持ち悪さと、もうできることが無い絶望感と、それでもやれることを探している焦りと、家族に会いたいという願いと、こんな生き物を見たことによる恐怖で、遂には涙が溢れ失禁した。
死にぞこないは徐々に腕を伸ばし、俺の心臓に手をかけた。
せめてもの抵抗で俺は全力でその前足を止める。
しかし、子供の弱い力では意味がなかった。
爪は服を貫通し、俺の皮膚に触れた。
その爪は俺の皮膚を貫通した。
俺の服からは血が滲み、服に染みができる。
…あぁ…『死』って本来こういう物なのか…
俺は前世、即死だった。意識がないまま死ねることはある意味、老衰などよりも良いのかもしれない。
死が目前に迫った時の絶望感と、恐怖は意識がある者にしか訪れない。
それが目の前で起こる死なら尚更に。
俺はそれに耐えきれず、意識を失った。
その時、時を同じくして狼も絶命した。
運よく動けた狼は、自分達を追い詰めた獲物と相打ちにしようとした。
しかし、駆けつけた獲物を守る者によって狩られた。
〜バリー視点〜
俺はその日も家で走って、剣を振っていた。
子どもたちが仲良く遊びに行くのを見ていた。
だから、アリナが泣きながら帰ってきた時には大変驚いた。
「どうしたんだアリナ。ジルと喧嘩でもしたのか?」
彼奴は物腰が柔らかい人間だ。
マーガリアの言葉遣いを真似ていて話し方も丁寧だ。彼奴が喧嘩をするとは思えなかったが、子供っぽいこともするのかと、内心ほっこりしていた。
しかし違った。
「助けてッ!ジルがッ!」
「…どこだ?」
「あっちで…」
俺は咄嗟に剣を取り走り出した。
あの涙は悔し涙じゃ無い。助けを求めたのだ。
おそらく、魔法が出来ないアリナを逃がしてジルが囮を買ってでたか、単純に足の速さで追い付けなかったかのどっちかだ。
だが、もう随分時間が経っている。
たが、アリナも、エリアも、絶対に悲しませない!
家族は俺が守るんだ!
俺は全力で走った。
そして、20秒ほどで見えてきた。
そして、森狼の首を叩き斬った。
ジルを確認すると、胸辺りに血がにじんでいる。
俺は急いで服を剣で裁ち、怪我を確認した。
胸の出血は浅い。これなら助かる。
俺はジルの服で体をしっかりと縛り、止血した。
そこ以外には外傷は見当たらない。
息もある。心音も普通。
その時、ジルの手がかすかに動いた。
「おい!ジル!しっかりしろ!ジル!」
だが、意識は戻っていない様で、反応は無かった。そして、数秒後にエリアと、アリナと、マーガリアも合流した。
「ジル!ジル!」
「落ち着けエリア!気を失ってるだけだ!変に揺するべきじゃない!」
「自分の子供がこんなに大変な思いしてるのに何でそんな冷静でいられるのよ!」
そう言ってエリアは俺を叩いた。
だが、俺はどんなに叩かれようと、泣きまくっているエリアを必死に止めた。
俺だって心配だが、こんな状況にはあった事もある。こういう時こそ、冷静さが一番重要なのだ。
「ゥ゙…ッ…ッ」
マーガリアに抱かれているアリナも泣いていた。
その時、ジルの目が開いた。
「…ッ!…」
「「「ジル!」」」
俺達はすぐにジルに駆け寄って抱きついた。
ジルの顔には困惑が写っていた。
だが、そんなの知らん。5歳未満の子どもは、死亡率がとてつもなく高いんだ。
だから、喜ばないなんて無理だ。
俺達は数分間、ジルに抱きついて離れなかった。




