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第四話 秘密、夜の会議

 魔術の練習を始めてから2年半が経過した頃、俺は夜に突然父と母とマーガリアに呼び出された。

 …何かやらかしたっけ?…なんか壊したっけ?

 不安な感じだったが幸い顔を見た感じ怒ってはいなさそうだ。


 「あの〜僕は何で呼ばれたんですか?」

 「あぁ。それはな、重要な事を話し合うためだ。」


 …それは、俺を交える必要ないし、むしろ姉も呼ぶべきなのでは…?


 「じゃあ、姉さんも起こしたほうが良いんじゃないですか?」

 「ダメだろ?」

 「え、何でですか?」

 「?」

 「?」

 「…あっ!…旦那様、ジル様はおそらく知らないんだと思います。」

 「…あ〜そっか。悪いな、まずは説明しよう。」


 七五三の意味を知っているだろうか。昔は医学が発展していなかったため、子供の死亡率が高かっただから、3、5、7歳でそれぞれ祝っていたのだ。

 この世界では誕生日は七五三に近い意味合いがある。

 そして、誕生日は5歳に初めて祝うらしい。

 なる程な。だから誕生日の祝いが無かったのか。


 「もうすぐでアリナは5歳になるから、サプライズパーティーをする。だからアリナ以外の全員に集まってもらったわけだ。」


 なる程な、つまり秘密の会議というわけだ。

 だが俺は知ってる。

 子供はこういう時、意外と起きてて気がついてるけど知らないふりをすることも多いことを。

 本当に秘密にできるかどうかは子供がどこまで無知で純粋かに依存するのだ。


 「…僕は何をすればいいんですか?」

 「知らん!プレゼントは家族それぞれが贈るものだ。ジルも何か考えとけ。」


 随分投げやりな指示であった。

 ちょっとはヒントくれよ。

 女の子の趣味なんて俺知らないよ。


 「姉の誕生日か〜…」


 この世界の常識もよくわからんし、この年の女の子に何を贈れば良いのかすら分からない…。


 俺はとりあえず街に行ってそれっぽい物を探し始めた。


 「…そもそも、相場が分からん。」


 俺は産まれてこの方お小遣いをもらったことがない。つまり、なにか買うなら自分で稼ぐ必要があるわけだ。

 前世なら家事の手伝いとかで良かったんだろうけど、今世だとマーガリアの仕事を奪う事になるからそれで金を得ることはできない。


 俺が街を歩き回っていると、声を掛けられた。


 「ジル、こんなところで何してるの?」


 俺は大きな袋を持ったセルシアに遭遇した。

 貴方、私服もそのローブ着てるのね。


 「あ、お久しぶりです。買い物ですか?」

 「そうだよ。今日の料理は私の担当なの。

 それにしても、ジルがこっちに来たの初めてみたよ。何しに来たの?」

 「父さんに姉さんの誕生日プレゼントを用意しておくように言われて、迷ってここに来たんです。」

 「あ〜なるほど。何贈るか決まったの?」

 「全く。そもそも、お金が無いんですよ。」

 「う〜ん…子供のプレゼントだし、綺麗な花摘んできて花束!とかでも十分いいと思うよ?」

 「でも、どうせならもっと良いものあげたいじゃないですか。日頃から感謝してるわけですし。」


 そんな事を話しながら俺達はバスターズのメンバーの家のセルシアの部屋に通された。


 「…あ、そう言えばジルって魔術使えたっけ?」

 「え?…まぁ、使えますね。」

 「じゃあ、冒険者登録して依頼こなせばいいじゃん!

 E級は安い依頼ばっかりだけど、稼げはするし、良い経験にもなる!」

 「それは流石に、父さんと母さんの許可がいりますし…まだ早くないですかね、僕まだ子供ですよ?」

 「じゃあ私が監督すれば良いよ。それなら多分許可もらえるでしょ。だって始めなんて簡単な依頼だもの。」


 その日の夕方、俺はセルシアと共に父さんに許可を貰いに行った。


 「…ってことで、ジルが冒険者登録するのに許可を求めてるから貰いに来た。」

 「…あの…ちょっと良いか?

 ジル、お前魔術使えたのか…?」


 …そう言えば、まだ魔術が使えること、セルシア以外に言ってない…やべぇ…とっさに答えちゃった…


 「…セルシア、お前自分の二つ名、分かってるか?」

 「わかってるよ。『魔術の女王』でしょ?

 アレとコレの何が関係あるのよ。」

 「…お前がそれを呼ばれてる理由の一つが、魔術習得年齢が最年少だからだ。

 こいつ、お前と同じ年で魔術を習得してるんだぞ?」

 「………良く考えればそうだ…え、結構凄いことじゃない?」

 「凄いどころの話じゃない。此奴は間違いなく天才だぞ。」


 …悪いな。ホントは習得したのは更に二年前なんだ…。


 「それにしても、いつ習得したんだ…?」

 「母さんに貸してもらった魔術の本を読んで…詠唱を読んだら…できました…」


 父さんは終始目を丸くしていた。

 次の日に父さんから話を聞いた母さんも目を丸くしてた。


 「うちの子天才!でホントに客観的に見て天才なことあるんだ…」

 「な?びっくりだろ…?」


 魔術の習得時期や適性は完全にランダムらしいのでどんな家族から天才が生まれても一応問題はないらしい。


 「まぁ、父さんと母さんの息子ですから。」


 冗談っぽく言ったつもりだったが、若干母さん達の顔が曇った気がしたのは気のせいだろうか。


 その日の夜、俺とセルシアは再び父さんと話した。


 「…お姉ちゃんの誕生日プレゼントは花摘んできて花束!とかを予想してたんだが…まさか稼ぐと言い出すとは思わなかったな…」

 「ね?だから言ったでしょう?」

 「………許可はできない。」

 「一応、理由聞かせてもらって良い?」

 「まず、早すぎる。まだ誕生祝いもされたこと無い子供が冒険者になる事に俺は反対する。

 二つ目、金があっても此奴はまだ算術を知らない。流石にそれはいけない。

 三つ目、此奴はアリナと違い、まだ殆ど訓練していない。身体が備わっていない奴に冒険者をやる資格なんでない。」


 …そうか。俺、まだ算術習ってない設定なんだった…そりゃ無理だわ。当たり前だよ。

 そもそも、俺この世界の通貨すら知らないんだけど…


 「…ジル、諦めよう。算術を知らんのは流石に無理よ。」


 流石にセルシアも諦めた。

 そりゃそうだ。この年の子供が四則演算とかをパパっとやってる所なんて見たことない。


 「…じゃあ仮に、僕が基本的な算術をマスターしたら、お小遣いをください。それでプレゼントを買います。それでどうでしょうか?」

 「…え、本気?」

 「はい。やれる自信しかないので。」


 …そもそも、もう全部わかるから、この世界の通貨単位さえわかればどうとでもなる。


 「…まぁいいだろう。だが、期限はアリナの誕生祝いがある一月前、つまり二月後までだ。」

 「はい。」

 「毎日の走り込みだったりの体力づくりを疎かにしちゃ駄目だぞ?」

 「はい!」


 そして、その日からマーガリアと母さんによる家庭教師が始まった。

 だが、俺だけやるのも不平等だし、怪しまれるかもしれないので、アリナも一緒にやることになった。


 「まずは数字から覚えてもらいましょうか。」

 「そうね。とりあえず、1〜100で良いでしょ。」


 初めからできてると怪しまれるので、できないふりも混ぜつつやった。

 だが、自然なできないふりと言うのはとても難しいもので、それの練習の方が苦労した。

 そして、しばらく経ってようやく二人とも足し算が終わった頃に通貨の説明が入った。


 「良い?マーガリアがもう一度説明するわよ?」

 「この世界は共通貨幣はありません。

 ですので、お二人はここの大陸の通貨を覚えてください。」


 この大陸の名は『トリニア』。主に人族、エルフ族、ドワーフ族等の種族が住んでいる。

 使われる言語はトリニア語。

 今俺がしゃべっている言語だ。

 通貨は、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨。

 この大陸は、人口が最大で最も金銭価値が高い。

 その分、物価もめちゃくちゃ高い。

 そして、この世界では十進法を採用している。

 よって、根本のシステムは日本とあまり変わらない。


 「分かりましたか?」

 「はい。」

 「アリナ、大丈夫?分かった?」

 「…………もう一回。」


 いくら丁寧に20回説明しようと、流石にこの話は本物の5歳児には無理だ。当たり前だ。

 俺も初めは姉の真似をして分かんないって言ってたが、ここまで来ると母さんとマーガリアが可哀想になってきた。


 そして、約束の二月後、俺はちゃんと父さんの前で足し算、引き算を完璧に実践し、マーガリアと母さんからも認められた。

 因みに、姉は今頑張って引き算をやっている。

 俺に追い抜かれたのが悔しくて頑張っているようだ。

 うちの姉はかなりすごい。知識ゼロから二月でコレだ。本物の天才はあちらだろう。


 「…マジか…子供の本気って怖いな…」


 そして、俺はお小遣いとして大銅貨1枚をゲットした。


 「これは、子どもが持つには結構な大金だ。それを心して使えよ?」

 「はい。」

 「よろしい。あと、買い物には誰かと一緒に行けよ?」

 「はい。」

 「それと…ちゃんとセルシアにお礼を言うように。」

 「はい!」


 セルシアには感謝してもしきれないな。

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