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第一話 魔術、それは異世界

 俺の名前は三束 創。

 人生の大半を病院で過ごしているからわかる。

 この天井は100%病院の天井ではない。

 まず、点滴がない。その時点でおかしい。

 それに、視界もおかしい。

 俺の視力は0.7ほどだったはずだ。

 こんなにぼやけて見えたことはない。


 俺は辺りを見渡した。

 茶色い天井…おそらく木の壁か?

 最近の日本にしては珍しい気がする。

 それに、なぜか視界の端には木の柵がある。

 …絶対に病院じゃない。…と言うか、現実か?

 時々、現実と夢が混じった夢を見ることがある。

 それの類かと疑った。

 だが、それだとおかしい。

 俺が起きるのは基本的に6時だ。

 長年病院で過ごしてきた俺の体内時計が狂うことはほぼ無い。

 だとしたら、もう少ししたら現実に戻るはずだ。

 俺はしばらくボケ〜っとすることにした。


 頭のポジションが気になった俺は頭を右に倒した。その時、俺の視界には変なものが映った。

 …肌色…小さい…なんだコレ。

 俺はそれを掴もうと腕を動かした。

 すると何故かそれが動いた。


 「あぇ!?」

 …これは…こんな小さいのが…俺の右手…?

 俺の手はもっとゴツいぞ?!

 しかもちょっと待って、なんだ今の高い声は…

 俺の大人ボイスは何処に行った?!


 俺は混乱した。

 そう。今の俺はまるで何処かの高校生探偵のように身体が縮んでしまったのだ。

 いや…俺の年齢は高校卒業してるし、この体の大きさ的にかなり小さい赤ん坊レベルの大きさのはず…なら俺のほうが酷いな。

 どちらにしろ、これが夢かどうかを確かめる必要がある。

 俺には死んだという確信がない。

 だが、これが夢じゃないという確信もない。

 俺は昨日のことを思い出すことにした。


 ……………。

 …………。

 ………。

 ……。

 …あ。

 そうだ。俺、血を吐いて倒れたんだ。で、その時にベットの転落防止用の手すりに思いっきり後頭部ぶつけたんだ。

 あ〜思い出したら何か頭痛くなってきた。


 …つまり、俺は…うん。多分死んでるな。

 俺があの勢いでぶつけて耐えられると思わない。

 つまりこれは、天国か?天国でも人生を過ごすの?まぁ天使に子供の奴がいた気がしなくもないからありえなくはないと思うが…じゃあ肝心の天使は何処だ?

 その時、何処かから子供の泣き声がした。


 「ふぅぇ、ふぅぇ〜ぅぇ〜!」


 それと同時に地面を走るような音がする。しかも複数人。

 あれ?天使って空飛ばないの?

 だが、モゾモゾ動いてみた感じ、俺の背中には羽根がなさそうだったので俺は天使ではなさそうだ。

 そもそも、思い返してみれば彼奴等は天使じゃなくてキューピットだった気がしてきた。

 全く…紛らわしいんだよ。


 そして、しばらくした後俺の部屋にも人が入ってきた。


 へ〜…ドアはそこなのか。


 「〜〜〜〜〜〜」

 「ーーーーーーー」


 …何言ってんだか聞き取れないな。

 いや、まず何語だ?外国語?


 俺の部屋に入って来た人たちは顔と胸の大きさから推察するに女性二人と、男性一人だ。

 そして、俺に近づいてきたのは二人。

 何か…部屋着(?)にしては変な服を着てるな。

 こういう服、ラノベで見たこと沢山あるぞ。

 …なるほど。多分俺の親はこの2人だな。

 で、もう1人が白いエプロンのようなものが腰に巻かれていたので、多分おそらくメイド的な立ち位置の人だと推測する。

 なるほど。分かってきたぞ。

 ここは天使がいないので多分天国じゃない!

 そして、目の前には外国人に近いけど肌は日本人よりの両親っぽい人。

 死んだ(と思われる)俺と、子供の俺。

 これらを合わせて出てくる可能性は一つ。

 そう。俺は、生まれ変わったのだ。


 …けど、だいぶ古い時代に。

 家にメイド?今やったらどんだけ金かかんだよ。

 そして、壁が木でできてる。

 今の家はだいたい白い壁だろ。爺婆の家出しか見たことないぞ?

 極めつけは、天井に電球がなく、壁にろうそくがある。

 こんなの絵のなかでしか見たことないぞ?

 こんなの中世ヨーロッパじゃんか。


 そんな事を考えている間に俺は抱き上げられ、父親っぽい人にケツを嗅がれた。

 おい!ケツを嗅ぐな!合理的なのはわかるが、キモいぞ!


 しかし、異常がなかったようで男は首を傾げた。


 そのまま俺は別の部屋まで連れて行かれ、そこで俺は別の赤ん坊を見た。

 その子供は絨毯の上で積み木を持って座っていた。

 見た感じ、1歳くらい。

 俺より多分年上だ。

 なるほど、金と茶色が混ざったような父親っぽい人と同じ髪色。

 母親っぽい人と同じ色の青っぽい瞳。

 うん。間違いない。この子は俺の兄弟だな。

 俺はその娘に不思議そうに見られた。

 そして、少し家の中を連れ回された後、ベビーベットに返された。




 それから五か月ほど経過した頃だろうか。

 俺の視力はだいぶ良くなり、さらに姉と仲良くなった。

 因みに兄弟が姉だと分かったのは単純にスカートみたいなものを履いていたからだ。

 実際に見てみたらわかるが、赤ん坊なんて(勿論良い意味で)皆同じような顔をしてるんだから性別なんて服で判断するしかないのだよ。

 あの時から暫くして、姉は俺のところに積み木を持ってきて俺の前で遊ぶようになった。

 俺からしてみれば暇だったところにほんの少しの娯楽が増えただけだが、それでもだいぶマシにはなった。

 …うそ。スマホが恋しいです。

 全く…転生すんなら、特典としてそれくらい欲しいものだがね。


 因みに、その積み木には沢山の記号が書かれていた。

 最初その記号が何を表すのかが全く分からなかったが、時間が経つにつれ、それが言語であることに気がついた。

 そして同時に親達が話しているのを聞いた感じ、日本語と酷似した言語であることもわかった。

 文法的に日本語は稀有な言語で、それゆえに日本人が英語を覚える時に苦労するらしい。

 俺も英語が得意ではなかったが、文法がいまいち良く分からなかっただけで、平均的な点数は取れていた。

 つまり、単語さえ覚えてしまえばこっちのもんだということである。

 そして、俺がつかまり立ちできるようになった頃には、まだ少したどたどしかったが、通じるようにはなった。

 まぁまだ知らない単語が多すぎて話にならんが。

 …そもそも、日本と同じ文法の国って片手で数えられるレベルでしかないはずなんだが…俺が知らない国の言葉か?


 だが、積み木は結構役に立った。

 これで、鉛筆が持てるようになれば俺は字も書けるわけだ。

 素晴らしい。

 前世では知識を身に着けても使えるところがなかったが、今世は違う。

 今世こそ、俺の知識を存分に発揮するのさ。




 さらに三ヶ月ほどたって、俺はベビーベッドを卒業し、姉と同じように地面で生活するようになった。

 因みにこの頃にやっと名前が分かってきた。

 俺の名前がジル・アストレア。

 姉がアリナ・アストレア。

 父がバリー・アストレア。

 母がエリア・アストレア。

 メイドがマーガリア。


 中世で苗字があるということは、俺はそこそこ裕福な家のお坊ちゃんらしいな。


 …さて。やっと自由にこの家を探検できる。

 俺の部屋は2階だったようで、とりあえず外を見てみた。


 「ほほぅ。いい眺めだな。」


 ビルや騒音なんてない。果てしなく広がるのどかな村。まぁなんて素晴らしい…。

 俺は窓の外を眺めながらゆったりしていた。

 その時、後ろからテチテチと姉が歩いてきた。


 「何してるの?」

 「外見てる。」


 最近姉は良く絡んでくるようになった。

 だが、子供としゃべったことがないから何を話せばいいのか全く分からん。

 外では父親が上裸で走っている。

 前世でもいたなぁ。こんなおじさん。

 体力づくりのために走り回ってんだ。

 まぁ、彼はまだ若いと思う。多分前世の俺と然程変わらん歳だと思う。つまり、おじさんではないのだ。

 おじさんは三十歳から。うん。俺はおじさんじゃない。


 そんな事を考えていた時、俺の視界には奇妙なものが映った。

 マーガリアが花壇に水をやっているだけなのだが、何というか…如雨露(じょうろ)を使っていないように見えるのだ。

 中世にも流石に如雨露くらいあったはずだ。

 …あれ、手から水が出てないか?


 気になった俺は一階に降りて確かめに行くことにした。

 …この姿だと、階段怖いな…


 一階についた頃にはもう水やりは終わってしまったようで、見ることはできなかった。

 と思ったら、次はマーガリアが洗濯物の前で両手を広げ始めた。


 「(え…何してんのアレ。…乾燥の時のおまじない?)」


 気になって少し見てみたら洗濯物がなびき出した。

 だが、周りの木の葉はなびいていない。

 俺の頭には『?』がたくさん浮かんだ。

 …なぁにこれぇ〜。


 その後、俺達は本を読んでいた母の所に向かった。


 「何見てるの?」

 「ん?これ?魔術の本よ。」


 なるほど。この時代にもラノベはあったのか。

 やはりな、この考えはどの時代も共通なのだよ…ん?いや、ちょっと待て。

 今、()()じゃなくて()()って言ったか?


 魔法は、解明されていない言わば『奇跡』の事だ。

 だが、魔術は違う。魔術はそれを解明し、人為的に起こして操れるものを言う。

 …だが、あくまでこれは日本での分類だ。

 だが、もしかしたら…少しでも希望が持てるんじゃないだろうか。


 「特別にお母さんが見せてあげるよ。」


 そう言って母は窓を空けて左手を外に向け、呪文を唱え始めた。

 俺は興奮してきた。


 「水よ、球となりて、敵を撃て。『ウォーターボール』」


 掌には小さい水の塊が現れ、丸くなり、一直線に発射され、庭から少し離れたところの木に当たって折れた。


 「すご〜い」


 姉と俺は母に拍手し、母は満足そうにしている。

 俺は拍手しながら感動を覚えた。


 …何にって?

 俺が魔術のある異世界に生まれ変わったことにさ。

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