第十五話 立ちはだかる大蛇
「シュル…シュル…」
大蛇はしばらくの間、俺から距離を取りながら尻尾で木を折って俺や、後ろの人達にそれを投げて攻撃を入れてきた。
しかし、俺は自分への攻撃は『ウィンドカッター』で、後ろの人達を守る時は『ウォーターウォール』で守った。
因みに後ろの人達は最初に木を投げられた時から声が聞こえないから、多分気を失ってる。
暫くして、後ろの人達に木を投げると同時に大蛇本体が突っ込んできた。
「シャー!」
「ウィンドカッター!」
俺は大蛇を切断さるためにウィンドカッターを発動した。
しかし、その時を待っていたかのように大蛇はウィンドカッターを見切って鱗に沿って滑らせるようにして魔術を別の方向へ反らした。
「?!」
直ぐに俺は反撃しようとしたが、その時に気が付いた。
魔術は腕一つにつき一つしか使えない。
もう片方の腕ではウォーターウォールを使ってる。
しかも、まだ木は当たってない。
今解除すると後ろの人達に木がダイレクトに当たる。
チッ!何で片腕で複数個使えないんだよ!
…でも、仮に使えたとて、反射的に使えるほどまだ魔術は身体に馴染んでない。
…なら、結局無理か。
想定が甘かった。1人で庇いながらなんて無理だった。
…いや、一人でも無理だったか。敗因は庇ってたからじゃない。
あの魔術だけで倒せると調子に乗ってたからだ。
魔法を避けられたことがなかったからこそ生じた慢心。
俺に関係のないことだったんだからその場を離れれば良かったんだ。
…あ〜あ。それで言うなら、あの依頼も受けなければ良かった。
アレのせいでここまで来たんだし。
あの依頼を受けるためだけにかなり遠回りもしてる。
そもそも、何で俺はあのエルフと行動してんだよ…
普通に置いて帰れば良かったじゃないか。
…まぁ、それは無理かもな。
彼奴は大人のくせして何処か子供っぽさが有る。
病院でも居たな。あんな感じの子供。
…困ってる子供が居たら、昔からほっとけなかったんだよな。
孤児院で自分も助けてもらってたし。
…そろそろ終わりか。
目の前には大蛇。多分次の瞬間にはパクっとされてるだろう。
…みんな、会いたかったな……せっかく生き残ったのに…嫌だな…死にたくないな…
俺は目を閉じた。
次の瞬間、俺は肩の辺りに大蛇の牙を刺された。
「い゙たっ!」
牙を抜いた大蛇は再び距離を取って離れた。
「彼奴、毒蛇だったのか…」
まぁ確かに締め付けに来なかったし、なら毒蛇か。
だが、そんな冗談を考えてる間に手足の動きが鈍くなってきた。
大蛇は悠々と俺を眺め、動かなくなった俺を見て、そろそろかと近づいてきた。
チッ…調子に乗りやがって……もう助からないなら、せめて道連れにしてやる!
「土よ(ボソッ)、槍となりて敵を穿て(ボソッ) ロックスピア(ボソッ)」
「?!」
俺は体を支えるために手を地面につけていた。
さらに、詠唱をボソボソ言ったので、大蛇には聞こえてない。
つまり、向こうからはこっちがいきなり魔術を使った様に見えたのだ。
それに、俺の完全詠唱のロックスピアは普通のよりも範囲が広い。
だから、反応が遅れ、想定されていない体の奥の方まで多くの所に刺さった。
その瞬間を俺は見逃さない!
「ウィンドカッター!!」
土の槍に貫かれ、動けない大きな的など、斬るのは容易い!
縦に真っ二つにされた大蛇はズドンという大きな音と風を巻き起こして倒れた。
「ふぅ…」
ほぼ身体が動かなくなったな……
これでおしまいか。
まぁ、悪くない人生だったか。
最後の方がちとイマイチだが、まぁ5年にしては結構充実してたんじゃないの?
…来世はどんな人生かな。
俺が人生を振り返って眠りにつこうとした時、俺の肩に何かが触れた。
……温かいな…………あれ?
俺は目を空けた。
…死んでない。なぜ?
俺はとっさにさっき温もりを感じた肩を触った。
穴が空いていない………間違いなく刺されたのに。
そもそも、動けなかったはずなのに何で、腕が動くんだ?
「良かった〜!」
その時、後ろから声がした。
振り向くとそこに立っていたのは庇っていた親子だった。
「助太刀感謝いたします。お体の方は大丈夫でしょうか?」
母親の方が聞いてきた。
「あ、はい。何でか毒が消えました。」
「私が解毒したんだもの!あの程度の毒何て敵じゃないわ!」
子供のほうが答えた。
「え、解毒?!君が?!」
解毒は治癒魔術の中級魔術の一種。
しかも、この魔術は基本属性ではないから、より一層適性が分かれる。
そんな高度な魔術をこんな子供が?!
…まぁ俺も似たようなものだが。
「凄いでしょう!何たって私は聖女なのよ!」
「聖女…?」
「え、何あなた、聖女を知らないの?!」
「はい…」
「しょうが無いわね、なら私が…」
「私から説明させていただきます。」
母親の方が言葉を遮った。
「聖女とは教国のトップの女性に使われる称号です。
因みに男性は教皇と呼ばれます。
彼女は現教皇の親族のため聖女になる資格があるのです。」
…その割には庶民的な服装をしてるな…。
「…つまり、聖女では無いんですね?」
「聖女よ!」
「はい。聖女ではありません。」
「ちょっと、シナ!」
…?母親を名前で…しかも呼び捨て…?
顔もそんなに似てないし、もしかして親じゃない?
付き人か何かか?
「…」
「…どうかしましたか?」
「…お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「え?あぁ、ジルです。」
「ジルさん、ここで長話するのも何ですし、一度街へ行きませんか?
お礼もそこでさせてもらいます。」
「そうですね。」
俺はあの大蛇の解体の仕方を知らなくて困っていたのだが、ああいうのはギルドに売り上げの一部を渡せば、解体業者を集めて売買まで行ってくれるので、討伐証明の目玉だけくり抜けば良いらしく、それをくり抜いてもらって下山した。
「じゃあ、解体業者集めてもらってきますね。」
「ジルさん、ちょっと。」
「はい。」
「失礼ですが、その見た目ですと、金額を誤魔化される可能性がありますので、契約書にサインする前にこの紋章を提示ください。
そうすれば誤魔化される事は絶対にありません。」
そう言って、木に掘られた羽とそれの周りを囲う竜がデザインされた感じの紋章を渡された。
「分かりました。有り難く使っときます。」
そうして俺は昨日と同じ受付嬢の所に行った。
「こんにちは〜って、君は昨日の!」
「コレの確認お願いします。」
そう言って俺はライラットの角がはいったボロボロの袋を置いた。
「え、コレ、本物?!本当にライラット狩ってきたの?!1日足らずで?!しかも五体?!」
「後、途中で大蛇に襲われて…」
「あ、な〜んだ!大蛇が倒したのを横取りしたのね!」
「そいつも殺したんで、解体業者を集めてもらえますか?」
そう言って俺は目玉の入った袋もドンッと置いた。
「…………え?」
「え、解体業者ってお金払えば組織してくださるんですよね?」
「…はい。では、少々お待ち…ください…」
受付嬢は魂でも抜かれたかのようにポカーンとしながら奥へと消えていった。
その後しばらく待たされ、俺は同じ受付嬢に奥へと案内された。
そこに居たのは30ほどのガタイの良いゴリラみたいな大男だった。
「おいガキ。ソイツから聞いたんだが、お前が一人でこいつらをすべて倒したってのは本当かい?」
「そうですね。」
そう言うと、大男は机の上にガンッと足を置いた。
「大人を舐めるなよ?協力者が居るだろ。吐け。」
「居ませんよ?」
「5歳児がC級のライラットを狩って、単体でB級の大蛇を殺す?それも一人で?あり得ないだろ!」
「そんなこと言われても。」
「…おいガキ。今すぐ吐け。さもないと痛い目見せるぞ?」
「だから居ませんって。」
「なら、吐くまでぶん殴ってやる!」
そう言って大男が立った直後、大男の後ろの窓が割れた。
「?!」
「…座ってください。さもないと、次は貴方に当てますよ。」
これ以上威力を下げられないし、流石に殺し合いにはしたくない。
ここで下がってくれれば良いが…
「無詠唱…しかも、無詠唱にしては馬鹿げた威力…お前、そういうタイプの奴か…」
そういうタイプ…?
大男は座り直し、頭を下げた。
「良いだろう。お前さんが一人で討伐したことを認める。」
何だこの野郎。勝手に暴れておいて酷く偉そうだな。このクソゴリラめ。
「…まぁ、分かってもらえたなら良かったです。」
「それじゃあ、詳しい位置を教ろ。解体屋を手配する。」
そして、諸々が終わった後、最後に契約書を書くことになった。
「じゃあ、最後にここにサインをして終わりだ。」
「あっ、そう言えば、これを見せろと知り合いに言われてまして。」
そういって俺はあの紋章を見せた。
「?!」
「どうかしましたか?」
「いや、何でもない…です。…じゃあ、ここにサインを。」
…何でいきなり敬語になったんだ?
俺がサインすると、大男は自分の机から印鑑か何かを取り出しそれを押した。
「これで、終了だ…です。受け取りは約2週間後…です。」
「2週間か…1週間に何とかなりませんかね?」
「なっ、…分かりました。1週間で片付けましょう。」
「良いんですか?!よろしくお願いします!」
そうして、契約は無事に終了した。
俺はその後、2人と再会し、朝ごはんもまだだったのでサンドイッチを買って食べながら話の続きをすることにした。
「そう言えば、あの紋章返しときますね。
いや〜助かりました。」
「お役に立てたのなら何よりです。」
「それにしても凄いですね、この紋章。荒々しかった職員の人がこれを見せた途端急に敬語を使うものですから、びっくりしましたよ。」
「ほりゃほうよ!はんふってほれは、ひょうひょふのもんひょうふぁもの!」
「…?」
「お嬢様、食べながら喋らないでください。」
何言ってるか分からん聖女予定者の言葉を遮り、また女の人が説明してくれた。
「この紋章は教国の最上位権力者の関係者に配られる物でして。
これを持つものは国の最上位権力者にコネがあると、見られるわけです。
因みに、私は聖女候補のお嬢様の付き人なので持っております。」
やっぱり付き人だったか。
…つまり、俺は権力を使って無理を通したことになるのか…結構嫌な奴だな…。
「それにしても、聖女候補のお嬢様がこんな所で何を?」
「…余り大きな声では言えないのですが、現教皇様の先があまり長くなく…。
権力者の間で時期教皇・聖女を狙うお嬢様の兄姉の動きがありまして。
お嬢様はまだ幼く、命を狙われるべきではないという判断より、亡命中です。」
「…随分大きな話でしたね。」
そんな重大な事をそんなにペラペラ喋って良いのかね。
「はい。因みに、外部にこの話を漏らしたら、貴方も狙われますから、くれぐれも秘密に。」
「…肝に銘じておきます。」
…この女、どういうつもりだ。
「そんな睨んで来ないでください。」
「睨んでないですよ?」
「疑いの視線がとても痛いです。」
「まぁ、急に現れた人たちが赤の他人である僕にいきなり重大な秘密を話し始めれば誰だって疑いますよ。
…目的は何ですか?」
「何のことでしょう。」
「とぼけなくて良いですよ。時間の無駄です。」
「では、はっきりと言いましょう。
お嬢様の護衛はさっきの大蛇で全滅しました。
私達には新たな護衛が必要です。
雇われてください。」
「嫌です。」
俺はにっこりと笑って答えた。
「相応の金額は出せますよ?」
「この国に来た目的はお金じゃないんですよ。」
「あら、この国出身では無かったんですね。
何しに来られたんですか?」
「上級回復魔術のスクロールをゲットしてくるように依頼を受けましてね。
何処でゲットできるか知ってたりします?」
「…そんなスクロールは何処にもないと思いますけど。」
「…え?」
「スクロールは基本的に生産はされてません。
教会に来る人が減っちゃうので。
上級回復魔術のともなれば、中級以下と比べて作れる人が激減するので絶対無いと言い切れます。」
まぁ、教会の収入源なら、当たり前か。
…じゃあ尚更、あのジジイは何処まで無謀なことをさせるつもりだったんだ。
「…報酬ってそれにできますか?」
「お嬢様はまだ習得してなさらないので、お嬢様次第ですけども、可能だと思いますよ。」
「まぁ、多分できるわ。聖女だもん。」
「本当ですか?!」
「はい。スクロールの製作道具くらいなら大きい街に行けば普通に売ってますからね。」
「じゃあ、その仕事に応募して良いですか?」
「お嬢様、良いですか?」
「歓迎するわ!えっと…」
「…ジルです。」
「歓迎するわ!ジル!」
…俺は教国に来て僅か数日で帰国することになった。




