第十四話 寄り道クエスト
「…あ、やっと見えた…」
ブルケルマから北へ約4ヶ月。できる限り旅を短縮し、俺は教国に入った。
国境を越える時に身分証の提示を求められたが、冒険者カードがあったおかげで大した問題にはならなかった。
「さて、ここからどうしたものか…。」
ここに来るまでに何回か人攫いの襲撃に遭っている。お陰で資金は潤沢。ぶっちゃけ、後ちょっとお金が貯まれば依頼も放棄してもいいくらいだ。
けど、今後のためにも治癒魔術に適性があるのかどうか知りたいし、あるならできるようになっていたいんだよな…
だが、これ以上の面倒事は正直避けたい。
とりあえず俺は宿を取り、馬を預けて街をうろつく事にした。
「とりあえず情報でも集めるか。」
俺はギルドに行き掲示板を見た。
「何んか良い感じの情報は……ん?」
掲示板の真ん中には縁が赤色に塗られた一際目立つ依頼があった。
『依頼主…教国
依頼内容…魔物の討伐
報酬…魔物の討伐頭数に応じたランクアップ及び貨幣の贈呈
対象ランク…全て』
「ランクアップ?!これだけで?!」
通常ランクアップには依頼に課されたポイントを貯める必要がある。
大体Cランクの討伐依頼などが100ポイント程。(Cランクになる為には10000ポイント程が必要で、今俺達は9500ポイントくらい。)
だが、この依頼だと一匹につき500ポイント程ある。
これなら念願のB級依頼を受けられるようになる!
討伐対象は『ライラット』。
体長1メートル程の巨大なネズミ型のモンスター。その王の様な大きさから『ライラット』とされた。
「…対象ランクが全て…?」
討伐依頼はC級以上である。
これだけコスパの良い依頼なのに、対象ランクが全てなのに俺は違和感を感じたので俺は受付に聞いた。
最近になって山の奥に生息するはずであるライラットが山を降りて人を襲うことが多くなった事で教国から直々に討伐依頼が出されたらしい。
対象ランクが全てなのは単純にこの依頼を受ける人が居ないかららしい。
このモンスターはとにかく毛皮が微妙に硬い。装備にはぎり使えないぐらいの絶妙な硬さをしている。そして、肉はまずいし、報酬がそこまでだし、で人気がなさすぎるのだ。
このくらいの報酬ならここから離れた街に行って他の依頼をやったほうが楽に稼げるのだ。
更に、一定程度のランクになるとこんな国の端っこの方の街からは出ていってしまう為にここにはA級以上の人材はおらず、B級が依頼を断った為放置されているらしい。
「僕、この依頼受けます。」
「え?!受けてくださるんですか!………えっと…冒険者カード見せてもらっても良いですか?」
「どうぞ」
「…!D級に人族で5歳?!言葉遣い的にもてっきり小人族の成人かと思ったのに!子供?!」
小人族…なる程。年齢を誤魔化したければそう名なれば良いんだな。
「僕?流石に止めといた方が良いよ?危ないし、お父さんお母さんが心配するよ?」
「大丈夫です。危なかったらすぐ逃げるので。」
「逃げるったって…ライラットは君より速いのよ?モンスターと戦った事なんてあるの?」
「ありますよ。フォレストウルフですね。」
「え?!(フォレストウルフの討伐依頼なら単体でもC級、でも彼奴等は群れることが多いから多分B級!そんな危ない依頼をこんな子供が?!ほんとに?!)」
「多分大丈夫です。」
「僕、見栄張っても意味ないよ?」
「見栄なんて張ってないですよ?」
「…そこまで言うならまぁ、いっか。自己責任だし。
…はい。承認します。十日以内に最低1頭討伐してください。ペナルティは罰金です。それでは。」
俺はその後宿に戻り、一日かけて準備をした後、次の日の日が昇る前に北西側の山に向かった。
「…見つけた。」
あまり時間が経ってないライラットの足跡。これを辿ればライラットの場所に着く。
俺は身を屈めできる限り音を立てずに辿った。
そして、山の中腹あたりに来た頃、そいつは現れた。
一角の角を持つ巨大なラット。間違いない。ライラットだ。
俺は構えて詠唱を始める。
無駄に硬いという噂の毛皮の硬度が分からない。
目標は一撃で。
集まってこられると面倒だから切断で狩る。
「風よ、刃となりて、敵を斬れ『ウィンドカッター』!」
風魔術中級『ウィンドカッター』。これは土魔術とは違い切断型の魔法。
完全詠唱によって切れ味が増した刃を受けろ!
しかし、ライラットは呆気なく首を落とされ死んだ。
「…え?アレだけ??」
あれくらいの敵なら…そんなに面倒かな?…
まぁ、あんまり報酬は良くないし…そうか…ギリ面倒が勝つか……う〜ん…
その後俺は討伐証明の使い道が少ない角を取り、追加で何匹か狩るために木の上に登って誕生日プレゼントの楽器を吹き始めた。
「〜〜〜〜」
音が音だから、これを吹くと毎回家族が懐かしくて泣きそうになる。
「さっさと帰りたいけど、金貨は欲しいんだよな…」
あれが有れば馬にも多めにご飯を買えるから多少無理させても行けるし、これからの金銭問題を完全に気にしなくて良くなるからマジで欲しい。
あいつが受けちゃったからには欲しい。
努力を始めちゃったからには対価が欲しくなるのは人間の定めだろう。
その後、5頭ほど狩ってそろそろ帰ろうとした時、何処からか悲鳴が聞こえた。
「…何だ?」
こんな山奥に来るのは今だと多分俺と同じ人だ。
「…確認しとくか。」
俺は声の方向に向かって走り出した。
正直、死体は見たくないが、悲鳴が子供っぽかった。見て見ぬふりはしたくない。
しばらくして、木があまり生えてない部分が見えてきた。
その時、前方に何かが見えた。
登りかけの朝日に照らされる白い鱗。
ギラリと光る縦向きのの瞳孔。
デカい牙と、シュルリとした舌。
そいつがライラットを空中に放り投げ、パクっと食べていた。
「だ、大蛇?!」
俺が驚いて緊急停止した時、人影もその近くに見えた。
デカいの一つと小さいの一つ。
さっきの悲鳴はアレだな。
俺は再び走った。
あの人影は立ってる!だからまだ死んでない!
あの蛇をどうするかはちょっと迷うけど…立ち入り禁止が出てないってことは、此奴には勝てる範囲ってことだな!
「シャー!」
「イヤーッ!」
大蛇が2人に飛びかかろうとした時に、俺は小さい方の前に飛び出した。
「ウィンドボム!」
俺は大蛇の鼻に両手から出した二つのウィンドボムをぶつけた。
バキッという鈍い音と共に大蛇の鼻先は折れた。
「シェー!」
大蛇は慌てて頭を持ち上げて距離を取った。
「…え…?」
後ろにいた女の子と母親っぽい人は顔を上げて呆然としていた。
「誰…?」
「…通りすがりの一般人ですよ。」




