第九話 家族の別れ
次の日の早朝、俺たちは荷物を詰めて慌てて家を飛び出した。
そして、全力で馬車を走らせ
「私やっぱりお祖父ちゃん嫌い!ジルを悪く言うんだもん!嫌い!」
「まぁまぁ、もう家から出たんですから落ち着いて…」
姉は凄くお怒りだ。
そして、マーガリアが懸命に宥めている。
「ゴホッゴホッ…」
「母さん大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫。」
…あの爺さんと会ったあとから明らかに症状が酷くなってる。
ストレスか…申し訳ないな。俺のせいで…
「ゴホッ…」
「父さんも咳が酷くなりましたね。」
「心配すんな。大丈夫だから。」
やはりトリガーは俺のことについて話した事によるストレスか…。
そのまま俺たちは2日ほど道を進んだ。
その日、この家族から俺は消えた。
道を進み、あと1日ほどでまちに着くという頃、俺たちは盗賊に襲われた。
本来なら全く問題なかった。
ベテランの前衛と、ベテランの魔術師、そして俺。
普通なら負けようがない。
だが、彼奴等も姑息だった。
爆竹のようなもので馬を暴れさせ、車輪も狙い、マーガリアやアリナも狙われた。
その時、父さんは三人ほどの相手をしていて手が離せなかった。
俺も馬に爆竹が投げ込まれるのを阻止するため魔術を打っており、父の方にこれ以上人が行かないように牽制もしていた。
二つの魔術をいっぺんに使えるのは俺だけなのでこれは俺がやるしか無かった。
そして、それでも逃がしてしまう奴らは居る。
そういう時は母が対処する。
「水よ、球とゴホッ…」
その時、運悪く母の詠唱中に咳が出た。
詠唱は中断。発射されたのはとても小さな掠っても痛くもない魔術。
盗賊は一直線にアリナ達に向かった。
俺は牽制をやめ、直ちに迎撃にかかる。
迎撃は成功。盗賊の右腕は吹っ飛んだ。
盗賊は数が5人となると流石に撤退命令を出した。
しかし、彼奴は撤退直前に爆竹を投げ、最後の抵抗をしてきた。
馬はそれに驚き、再び暴れた。
俺はその時、馬に体当りされ、地面を転がった。
「うわあぁ!」
地面はくだり坂になっており、かなり簡単に転がり落ちてしまった。
それだけなら良かったのだが、その下は崖に繋がってた。
俺は其処に落ちた。
〜バリー視点〜
…正直驚いた。
彼奴が無詠唱を使うのは分かる。
別に詠唱破棄自体はそこまで難しくない。コツが分かればいくらでもできるのだから。
驚いたのは出力が一般的な詠唱ありのウォーターボールと遜色ないからだ。
彼奴はわずか5歳で魔法をバカスカ撃ちまくっている。
ジルが家の子ではない事が事実として突きつけられた。
『拾い児』
…クソッ…あのクソジジイめ…嫌なこと思い出させやがって…
その時、盗賊が撤退を始めた。
「良し!皆、大丈夫か!」
俺は前線で何人も相手にしてたから後ろのことは任せっきりだった。
俺は後ろを振り向いた。
その時、ジルの姿だけが目視できなかった。
「ジ…」
俺が呼ぼうとしたとき、「うわあぁ!」とジルの声がした。
「ジル!」
俺が走っていった時、ジルが坂道を転がり落ちてるのが見えた。
ジルが馬に体当たりされて坂道を転がり落ちた!
あの先には崖がある!しかも、あの周辺もさっきの盗賊団の縄張りだ!
さっきので彼奴等は撤退したが、彼奴等は子供の魔術師を見ちまった!
魔術師でしかも子供となれば、いくらで売れるか…援軍が来てもおかしくない!
急がないと!
俺は全力で走った。
だが、後一歩。いや、あと腕が少し長かったら、服をつかめていた。
だが、俺は掴めなかった。
「ジル!」
ジルは俺の目の前で崖から落ちていった。
「…ウソだ………ウソだ!」
俺は、今、掴めなかった。
認めたくなかった。今すぐにでも俺も飛び込もうとした。
だが、マーガリアの声が俺を制止した。
「旦那様!奥様が!」
「どうした!」
俺はすぐに戻った。
そこではエリアが血を吐いていた。
「お母さん大丈夫?!」
「エリア!」
「すぐに教会に向かわないと!」
「…お父さん、ジルは?」
「あれ…そういえば…」
「…ジルは…あっちの崖から落ちた…」
「…え…?」
全員の顔が曇った。
「な゙ん゙でも゙どってぎたの!ッ…はや゙ぐたずけにいってよ゙!」
「奥様!喋らないで!」
エリアは俺を責めた。
「…マーガリア、馬車の準備を。急いで行くぞ。」
「わかりました!すぐにクリスに!」
「いや、行くのはアガルタリアだ!」
「彼処まで2日かかるんですよ?!何で戻るんですか?!」
「クリスには小さい教会しかない。このレベルならアガルタリアの方じゃ無いと対処できない。」
「ねぇ!お父さん!ジルは!ねぇ!」
「少し黙ってろ!」
「ッ…!」
俺がアリナに怒鳴ったのはこれが初めてだった。
「…ッ…グㇲッ……」
「…ここはまだ危険だ。一刻も早く戻るぞ。」
…ごめん。ジル。
俺は、これしかできなかった。
崖から落ちる。普通なら死んだと言うことだ。
目の前には病人。急げば助かる。
なら、優先度が高いのは病人だろ…
だが、遅かった。次の日には俺も血を吐いた。
アリナもマーガリアも咳をし始めた。
そして、実家に着いた時には、エリアはかなり弱っていた。
そして、教会に馬車で向かう途中、エリアは死んだ。
俺は教会に生きてたどり着いた。
たが、お手上げだと言われた。
この病気は本来なら時間を掛けて少しずつ体を蝕む病。
だが、ストレスなどの外的要因によって症状が一気に悪化する。
すでに症状が出ていた俺達は駄目だったんだ。
教会ではアリナとマーガリアだけ治療をしてもらった。
実家に戻った俺はクソジジイに最後の頼み事をした。
「頼み事をしてもいいでしょうか。」
「何だ?癇癪を起こして出ていったかと思えば、死にかけで戻ってきたやつが何を頼むってんだ?」
「…マーガリアを雇ってあげてください。それと、アリナを頼みます。」
「アリナのことは心配するな。だが、何故わしがあの小娘を雇わなくてはならない?」
「旦那様、私からもお願いします。」
出迎えてくれたお婆さん…ララバが言った。
「私も歳ですから一人じゃ大変なんですよ。」
「う〜む。…まぁいいだろう。」
「有難う御座います。」
「…ララバ、アリナを呼んできてもらって良いか?」
「お待ちください。」
そして、少しして入れ替わるようにアリナが来た。
「…ッ…お父さん…ッ…やだよ…一人にしないでよ…ッ…お母さんとッ、ジルとッ…同じところにッ…行かないで…」
「…アリナ、怒鳴ってごめんな。」
「ッ…良いよ…」
「…こんな父親でごめん。愛してるよ、アリナ」
そう言って、俺の瞳は暗闇に包まれた。




