や:やがて出逢う筈の君に。
「私、あなたのことが最後まで分からなかったわ」
(まただ)
「あなたには、もっとふさわしい相手がいる筈よ。私じゃなくて」
(それを決めるのは君じゃない、俺だ)
「正直、あなたに合わせるのはしんどいの」
(無理をしてた、って言いたいのか?)
「だから――」
(言うな。分かったから――言わなくていい)
「……お別れね」
…………。
「アンタいいオトコなのにねー」
いい男が何度も捨てられるかよ……。
「何が悪いのかしらねぇ?」
……悪いとこしかねえって事なんだろ……。
「もうさあ、アタシ達の世界に入っちゃいなさいよぅ」
……。
「あららあ。言い返す気力もないのね」
……。
「……って、アンタ寝てんの?」
……。
「アタシだったら放っとかないけどねぇ……」
…………。
「おい谷口。今日さあ数合わせに来いよ」
……。行きたくねー。
「お前顔いいからさ、女の子集まんだよ。でも不機嫌で愛想悪いだろ。結局人気下がって他の奴引き立つからさ、一番都合いいんだよ」
……そーいうの言うか? 本人に向かって堂々と。
「お前隠し事駄目じゃん」
……だからって。
「いいから来いって。今日はおとなしめの子達ばっかだとよ。期待出来そうだろ」
あー……うぜ。
「谷口さんてえ、どんな人がタイプなんですかあ?」
……特にない。(あんたと正反対の頭いい人)
「えー? 好きな芸能人とかはあ?」
俺、テレビ見ないから。(それ聞いて何になんの?)
「何かミステリアスー。もっとお話したいなあ、谷口さん。二人きりで……」
(おい、離れろよ。わざと胸見せてんじゃねえよ。安い女!)悪い。トイレ。
「あっ、あたしもー!」
やめてくれ。トイレについてくる女とか、悪いけど俺気持ち悪い。
「なっ、なにそれ……」
(あー、……言っちまった)
「ごめんね~、こいつ女の子慣れしてなくてさあ。照れ隠しなんだよねえ。許してやってね、あやのちゃん♪」
……。
「感じ悪ーい。謝りもしないの?」
……悪い。つーかさ、俺――もういいだろ?
「帰んなって。余計悪くなんだろが」
お前みたいな愛想笑いとか、俺出来ねえし。悪い。
「えっ、帰るの? やだ、ほんと失礼なやつ」
(息が苦しい――)
「……んな人三島くんの友達とは思えな……」
(悪かったな)
人間嫌い。人間が嫌い。人間付き合いも嫌い。
腹の探り合いやら駆け引きやら建前やら。
嫌いなら嫌い。不味いなら不味い。用事があるならある。何故、全部思ったままに口にするだけで気まずくなったりするんだ?
大学では女の子集めの為に利用されてる。建築関係のバイト先では、真面目で寡黙な仕事態度は評価されてるらしいが、仕事終わりの飲みに付き合わないのに「根暗な奴」だとか陰口を叩かれてるらしい。
咄嗟に言葉を返せるタイプじゃない。そのくせ気に入らない時だけは衝動的に、饒舌に毒を吐く。
言わなくても分かれよって思う。だからか逆にか、言葉が足りないんだろうとも思う。
表情の変化も乏し過ぎるんだろう。その割に否定的な方面にだけは、ちゃんと嫌な顔をする。
だ、そうだ。(byピーチ)
……ああ、総じて嫌な奴だ。そりゃ嫌われるか、軽く扱われるだけだ。
ピーチみたいなどっちでもない奴らには、何故かやたら好かれる。「分かり易い」のや「裏がない」のが「子供みたい」でいいんだそうだ。
俺も、ピーチみたいな奴らの方が傍に居て落ち着く。気を遣わなくて済む。195越えの男から繰り出される「やだ、もう」のばしばし叩きには吹っ飛ばされそうで、正直後で叩かれた箇所が痛い時もあるが、人間同士の付き合いとしてはこいつみたいな相手が理想だ。
――でも結局、自分が我が儘なんだってのは自覚してる。分かってくれよ。そう相手に求める男なんて情けない。
分かって欲しい。それは努力を放棄した奴の言い訳だ。相手の嫌がるであろう事を包み隠さず口にする。それは人生の場数を踏んでいない、ケツの青いガキの独りよがりだ。
それ位は分かってる。自分がそんな甘ったれた奴だって事位……。分かってんだよ。
だけど、望んでしまうんだ。俺の言動に嫌な顔をせずに、ただにっこり笑ってくれる相手を。はいはいって静かに俺を膝に載せて、優しく髪をすいてくれる様な相手を。
……まだ見ぬ、きっと将来いつか出逢うであろう君へ。努力するから。俺、なるべく気を付けるから。
今日みたいな感じになった時に背中を向けて逃げない様に、ちゃんと努力するから。
三島みたいな愛想笑いは出来ないと思うけど、少なくとも意地悪な事口走らない様に、まずはそこは黙る事を習得するつもりにするから。
今度仕事終わりに誘われたら、自分も行きたいですって頑張って答えるからさ。俺に出来る限りの自分改善、していく予定だから。
変わりたいんだ。求めるばっかし、閉じこもるだけの自分じゃなくなる様に。
そしたらきっと、極上に優しい君に出逢える気がするんだ。最高に素敵な君に見合う俺になれると思うんだ。
まずは明日……三島に謝ってみよう。少なくとも俺のフォローをさせてる。考えてみれば、さ。
いつも自分は悪くない、って謝りもしなかったけど。それに対して怒りも注意もしないで次も俺を誘ってくれる三島って、出来た奴なんじゃないだろうか。裏に打算があろうがなかろうが、それは別にして。
向こうも俺を「友達」だとは思ってないだろうし、俺も三島を友達って関係じゃないと思ってた。それこそ「都合良く使われてるだけ」と俺は一方的に思ってたんだ。
けど、もしも三島が俺を普通に友達だと思ってくれてんなら。俺のその考えって随分相手に失礼だったんじゃないか?
俺の勝手な思い込み。俺の勝手なバリア。小さ過ぎるプライド。
破らなきゃいけない。もうこの辺で、下らないちっぽけな自分の殻を。あやふやな理由で捨てられるだけの、中身のない自分からの脱却を。
そしたらさ、俺の運命の君、君は俺に気付いてくれるかな? 漫画によくあるみたいな運命の擦れ違いの一瞬、もしそんな状況が本当に起こったらさ。
君に気付いていち早く君を振り向いた俺に。
君も、振り向いてくれるかな……?




