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閑話 第1話 随分と生意気だね

イルミンスールの森 シャルラン湖 湖畔

- 第6紀 349年8月19日(水曜日)7刻



(メトレス・ド)(・ラ・フォレ)様,この魔人(ディアボロス)*,何かおかしくありませんか? 魔人相手に魔法がちゃんと発動しないのです.」と,褐色(ダーク)エルフ族の凛々しい女騎士は言った.


褐色(ダーク)エルフの集落のあるイルミンスールの森に突如,一匹の魔人と七匹のヅォーク(豚人)*が現れて,褐色(ダーク)エルフの統治者であるハイエルフの森長(もりおさ)を暗殺しようと魔人が襲ってきた.少し前に魔族軍が現れ,エルフ軍はここより遥か南の森の外周部で戦闘していると,森長のところに先ほど連絡があったばかりだった.

軍を差し向けて混乱させておいて,主要な人物の暗殺を試みるのは,歴史的に見れば魔族どもの常套手段である.


騎士(シュヴァリエ)ル・ルー,そんなことがわからない私だと思っているのかね? 見ればわかる.やっかいな相手のようだね.この魔人(ディアボロス)の相手はあなたたちには荷が重すぎる.私が相手するから,あなたたちはヅォークどもを先に相手なさい.」

「はっ!森長(もりおさ)様,お手を煩わせることになり,申し訳ございません.ヅォークどもは私たち“姫騎シュヴァリエ士隊(ヴィエルジュ)”が始末してまいります.それまで魔人をお願いいたします.ヅォークを倒し終わったら,駆け付けてまいります.私たちでは魔人の相手にならなくても,壁になることくらいはできますので.では,失礼いたします.」

「まかせましたよ.」と,心配そうな表情で言った.

「はっ!…さあ,姫騎士隊諸君,ヅォークどもを殲滅するよ!」

「「「「ウィ,モン メトル.」」」」

姫騎士隊はヅォークどもに接敵し,一人残った森長と魔人が向き合う.


「さて,魔人(ディアボロス),私をイルミンスールの森長と知って,襲撃しているのかい? 私もなめられたものだね.」

「それは失礼,マダム.魔族軍 “(マウト)(アルバア)(シャヤティン)”の一人,“中断の(インキターア)グシオニブブ”と申す.以後,お見知りおきを.…いや,あなたは今日ここで死ぬので,覚えておくことはできませんがね.ははははは.」

「何が面白いんだい.魔人の分際でエルフ語を流暢にしゃべるなど,随分と生意気だね.ほら,これで星に還りな!」


両者が魔法を仕掛ける.森長は魔力を展開すると頭上に光輪を発し,杖の先端についている魔法発動中心である大きな赤水晶の中で複雑な図形が光出す.

【魔力励起,右手掌握法印から杖に接続 第24魔法領域にて杖で魔人へ誘導-第24階梯魔法 魔力誘導魔弾(マナブラスト) 通常威力×20発 発動…】プスン.

「何っ?」 パチン.

ゴロン,バタッ.



「ル・ルー隊長,このヅォークたち,かなりの手練れです.ソレーヌとミレーヌがやられました.このままでは,ぐはっ!お,おご,かはっ.」

「ミシェル! このぉう!」

猪のような顔のヅォークのひとりがミシェルの胸を槍で突き刺し,そのまま上に持ち上げる.槍が肺を貫通しており,ミシェルは口からゴボッと,大量の血を吐き出し,2周秒程,苦しいそうにもがいていたが,すぐに手足が力を失い,だらん と垂れ下がる.ヅォークは槍の先を下向きに降ろし,刺さっていたミシェルから槍を抜く.そこへル・ルーが走り込んで槍で薙ぎ払い,ヅォークの槍を弾き飛ばす.


“姫騎士隊”ははっきり言って,ただのお飾り部隊だった.背が高く,凛々しくて,如何にも武器や鎧が似合いそうな外見の未婚女性を集めた儀式的で政治目的の意味合いが強い部隊であり,本来の意味の親衛隊ではなかった.


だいたい,ハイエルフである森長より強いものはこのイルミンスールの森にはいなかったので,弱いものが強いものを護衛するとかいう状態は,エルフたちにはその意義が理解できなかった.姫騎士隊は普段,自国の儀式や式典,他国への外交などへ森長について行き,偉い人たちの前で行進して楽器や歌を披露し,諸外国との外交時の付き添い,宴への参加,時には,美しい剣舞を舞ったりすることが役目であった.


“アラグニア大消失”以降約300恊年間,イルミンスールの森に魔族が襲来したことはなかった.アラグニア大消失以降に生まれた彼女たちは,今までヅォークを直接見たこともなかったし,当然,戦ったこともなかった.


もちろん,毎日,弓や剣,槍などの練習をしており,鍛錬が足りないことはなかったが,本質的に武術だけでヅォークに勝てる程,強くはなかった.魔人によって,エルフの得意とする“魔法”が封じられると,できることはしれていた.


だが,姫騎士隊隊長のル・ルーは違った.“風の舞(ダンセ・デュ・ヴァン)流槍術”では免許皆伝しており,師範クラスの男エルフにでもかなりの勝率で勝つことができた.槍だけでなく,弓も剣もかなりの腕であった.


彼女はエルフであるのに比較的魔法が得意ではなく,魔法地位も一般級1位であり,エルフの中ではかなりマナ量が低い方だった.

それを補うために選んだのが武術だった.筋肉がつこうが,男勝りで男に相手にされなくなろうが,まったくかまわなかった.彼女には人に勝ることが武術しかなかったのだ.


それに,姫騎士隊として女子にキャーキャー言われるのは悪い気がしなかったし,彼女のファンだという女子の一人と仲が良くなり,今は一緒に暮らしていて,とても満足できる人生を歩み始めていた.




*) ディアボロス : 神話時代に,ハイエルフの裏切り者ヴォルガノフが邪神ラマシュトゥーラの甘言によって,進化(?)した種族.“魔人”とも言う.2本の角を持ち,強力な魔法が使える.エルフ系統の魔族.エルフに対して,強い憎しみを持っている.エルフなどの人類種を食べる.


*) ヅォーク : 見た目は猪や豚の獣人に見えるが,獣人ではなくエルフ系統の魔族.フィジカル的にかなり強い.魔法使い(ソーサラー)も多い.へんたい.人食い.有名なあの“オーク”のようなもの.なお,本物語では「オーク」は“樫の木”のことを指す.



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