第14話 死にたい…(例の魔導書の話)
ヴィッセンスブルク イルミナウ区 リエリの家 3階
― 第6紀 369年5月43日(水曜日)3刻
「この本 ちゃんと 魔導書 なんだ. えっと, [大人ための夜の魔法大全 著者 エローイ・エロイーズ].… べたな タイトル すぎ,えへへ. 下ネタ本 かな?」
リエリは会長業務として,アビゲイル・コレクションの整理を続けていた.リエリの好みである“例の本”以外は後回しにしていたのだが,とうとうこの魔導書にたどり着いてしまった.
普通の本と魔導書は違う.魔導書は魔法を使えるようにハードカバー部分に魔法陣が仕込まれている.この本もちゃんとした魔導書であったが,リエリはタイトルと著者名を見て,ふざけている本かと思った.どんな魔法が書かれているのか確認する.
【避妊】【妊娠確率上昇】【脱衣】【精■回復】【体力回復】【■■維持】【■感度上昇】【■■化】【■感】【■感蓄積】【絶■】【発情】【発情期同期】【疑似発情】【魅了】【恋愛成就】【好感度上昇】【粘液生成】【振動】【疑似触覚】【拘束】【睡眠】【■夢】【睡眠耐性】【処女回帰】【瘦身】【■■■アップ】などなど.性別や種族によって使う魔法陣が異なるため,男性用,女性用,エルフ用,ドワーフ用,トールマン用,それ以外のマイナーな種族はあったりなかったりした.完璧な実用魔導書であった.
リエリはパタンと一旦魔導書を閉じ,ふぅ〜,と深呼吸し,再度,中身を確認する.
(これは エッチ すぎる.)と,思ったが,とりあえず【恋愛成就】魔法の説明文を読んでみる.
[恋愛成就:自分が好意を持っている相手に会うたびにこの魔法をかけると恋愛が成就する魔法.恋愛が成就するまでにどれくらいの期間がかかるかはそのカップルの元々の相性による.相手が自分より上位の魔法地位の場合,レジストされやすい.]
(パスカルには この魔法 かから ない のか….)
それはやったらダメだろう!
(いろいろ あるから やっぱり 試して みないと ダメだよ ね?)
いやいや,試す必要はありませんが?
(わたしは エルフ用 とトールマン用 どっちを 使うん だろう?)
ほんとにやるつもり?
リエリの両親は昼間仕事に出ているので,リエリはひとりでやりたい放題である.
[疑似発情:疑似的な発情期を起こす.排卵はされない.1恊日で終了する.]
(ふむふむ.)
[■感:■的な■■を感じることができる.]
(ふむふむ.)
リエリはベッドで横になり,左手で魔導書を構える.
【魔力励起,左手掌握法印から魔導書に接続 魔導書から空中に魔法陣を転記 魔導書と魔法陣と自分を接続-第19階梯魔法 対女性エルフ疑似発情 発動-3.1Kマナエルグ消費,左手掌握法印から魔導書に接続 魔導書から空中に魔法陣を転記 魔導書と魔法陣と自分を接続-第19階梯魔法 対女性エルフ■感 連続発動-1マナエルグ/周秒消費】
(自主規制により,省略)
「す,すごく 気持ち いい.…もう 一回 いいよ ね?」
(自主規制により,再度省略)
「・・・ふわぁっ. このまま “最後の 楽園”*へ 行けそう.」
気が付いたら,眠っていた.ベッドの布団と服の下半身がぐちゃぐちゃになっていた.時計を見て,ビビる.もう,母エリアーヌが帰ってくる時間になっていた.慌てて魔導書を隠し,布団と服は【洗濯】【乾燥】して,証拠隠滅を図る.きれいに布団を引き直すと同時に,
ガチャリ.扉が開く.
「リエリ,ただいま.」
「ひぃっ! マ,ママ,おかえり.」
「リエリ,なぜそんなに慌てているの?」
「ななな,なんでも ない …よ?」
「変な子ね.」と,リエリの部屋の中をじろじろ見渡してから,自分の部屋に行った.
(ママに とんでも ないとこ 見られる とこ だったよ.)
こんなことをしていたら,さらに1恊年が経ち,3回目の壁守採用試験も,不採用に終わった…
「死にたい….」
さすがのリエリでもほぼ1恊年,“例の魔導書”を使ってふしだらな生活を送ってしまったと,大変後悔して,懺悔して そうつぶやいた.
言葉のあやであって,本気で死にたいわけではなかった.だが,本当に自分がこのままではダメになってしまうのではないかと心の隅で心配になったが,かと言って何かを変えたり,何かを始めたりするわけでもなかった.
「リ,リエリ,お,落ち着きなさい.大丈夫よ.3回落ちたくらいで,人生終わったりしないわ.大丈夫だから.」
エリアーヌは生まれたばかりのリエリの妹ラファエリーナを抱っこしたまま,リエリの発言を聞いて,慌てまくっていた.
リエリは少しだけ反省して,“例の魔導書”を個人図書館の禁書庫に封印した.
*) 最後の楽園 : 聖典に書かれた輝く魂が最後に訪れるという楽園.そこに到達できた魂は永遠に幸せを享受できるという.




