閑話 第11話 わたしを侮辱するのですか
ヴィッセンスブルク 王城 南館 3階 内務省 312会議室
― 第6紀 368年6月48日(火曜日)3刻
「未婚の若い女性マギアスを義務として徴兵していることには,強く反対いたします.いいですか,女性がマナを多く持っているのは生まれてくる子供にマナを分け与えるためです.魔物や魔族どもを殺すためではありません.いくらマナを多く持っているからと言って,義務として従軍させるなど非常識にも程があります.それは男性の仕事ではないのですか?」
反戦派,女性従軍反対派であった内務省の高官であるベアトリス・フォン・モーガン杖爵は女性の従軍に対して,強く反対していた.軍務省からの相談で女性に対する従軍徴兵令を出すために,どのような人物を選択するか内務省と軍務省で議論していた.しかし,彼女は女性が従軍すること自体に反対していた.
「何を持って非常識と言っているのか全く理解できないが,すでに4度も魔族の進行が見られているのに,何を言っているのだ!未婚の若い女性は魔族進行の防衛に協力するつもりはないとのことかね.もし,街が魔族に囲まれているとしたとしても,婚活だけをしているのかね?街壁の上からマナブラストを撃ってくれてもいいのではないかね.」
「自分の住んでいる街が襲撃されている時に,婚活などする訳がないでしょう.軍に入って,他の街に派兵することになったり,前線で戦闘に組み込まれることを懸念しているのです.」
「他の街が襲撃されているのを助けないのですか?それは如何なのです.」
「壁守は壁から離れられませんし,壁守の予備人員である若い女性マギアスを他の街へ派兵するなどもってのほかです.」
「いい加減にその自己中心的な考えを改めたらどうなのかね?モーガン女史,あなたが従軍したくないから,そう言っているようにしか聞こえないのだが?」
「なんですって!わたしを侮辱するのですか!」
ヴィッセンスブルク 王城 南館 5階 503応接室
― 第6紀 368年7月21日(火曜日)4刻
「領主である我々は領土を護る義務があるから,ここは法会貴族の皆様に従軍していただきたいものですな.」
「それはそうですな.市井にいる民間のマギアスも徴兵が決定しているとはいえ,指揮する者が必要ですからな.」
「土地もなく,領民への責任のない者が前線に行くべきですな.」
「ええ,その通りです.」
アイゼンシュタット城 2階 大広間
― 第6紀 368年7月52日(風曜日)3刻
「さて,諸君.世間は平和ボケしている腰抜けどもばかりだ.自分が魔族軍と戦いたくないからと,理由をつけて他の者に押し付けるとは腑抜けにも程がある!北方改革派はこれまでの魔物討伐の実戦経験を活かし,南部へ派兵しようではないか!そして,魔族軍との戦いに勝利し,中央の頭でっかちどもを排除し,我らが国内に強い影響力を確保するのだ.」
ヴィッセンスブルク 王城 北棟 1階 女王の私室
― 第6紀 368年8月20日(風曜日)4刻
「魔族軍に対抗ですって? そんなことはバカの第二王子にさせなさい.」
「いえ,さすがにそれはまずいと考えます.出兵して星になってくれれば良いのですが,もし,魔族に勝ってしまったら,バカに勢いを付けてしまいます.ルーク様も出兵したと言う実績が必要です.」
「しかし,それで妾の息子が星になってしまったら元も子もないではないか.」
「ええ,ですからトップクラスの護衛が必要になります.今からルーク様に付けておくのが良いかと愚考します.」
「で,当てはあるのでしょうね?」
「もちろんでございます.」
「抜かりないのね.安心したぞよ.」
「ええ,我ら女王擁護派のために.」
ヴィッセンスブルク センテル区 高級料理店“ル・レストラン・ウ・ラ・ラング・フォン”の貸切部屋
― 第6紀 368年8月63日(天曜日)6刻
「商工会“踊る針と歌う鎚“の勢いが止まりませんな.どう思われていますのか?」
「そろそろ黙って見ている時期は終わりましたな.何か手を打った方が良いでしょうな.」
「もし,戦争がはじまると,軍需産業にも力を入れている“踊針“をさらに勢いつけるやもしれません.我らフィーアグロッセンの一席が奴らより,下になるかもしれませんぞ.」
「あの商工会は七賢と言う仕組みを採用してその会合で意思決定しています.会長がいないので,もしもの事故で会長が急に星に還ったりするのには強いですが,もし,椅子が空いて,我々の息がかかった者を椅子に座らせることができれば,ぐふふ.」
「面白いですな.どうやって,椅子を空けますか.」
「偶然に七賢の皆が徴兵されるとかはどうですか?」
ローゼンフェルゼン 商工会“踊る針と歌う鎚” 本部 七賢会議室
― 第6紀 368年9月15日(土曜日)5刻
「ふぬっ!何ぢゃと,その条件では七賢の5名が該当するぢゃないか!」
「裏でフィーアグロッセンが絡んでいるとの噂がありけどね.」
「噂ぢゃなく,真っ黒ぢゃろ,それ.バカ貴族どもを買収して,徴兵制度を改悪して,うちらの商工会をつぶすつもりぢゃな.」
「喧嘩売られたね.」
「汚いことしやがって!」
「ふむ~,仕方ない,うちは軍へ入隊するんぢゃ.」
「なんで?」
「そりゃ,うちは強制徴兵令案に記載されているマギアスの7つの条件の内,5つも当てはまっておるので,逃げようがないのぢゃ.それに,元々これ以上,予備役徴兵*の従軍時期延長申請もできんのぢゃ.逃げられないなら,飛び込むしかないぢゃろ?うちは軍のお偉いさんに友達がおるんぢゃ.輜重部隊か工作部隊に配属されるようにするつもりぢゃ.比較的安全ぢゃし,なんといっても,軍で必要なものを我々の“踊る針と歌う鎚”に発注できるように手を打とうかと考えておるんぢゃ.」
「あはは!さすがイサラミナ.転んでもただは起きないんだね.」
「それとぢゃ.軍の購買部隊の中でフィーアグロッセンに関与している不正軍人を調べてほしいのぢゃ.うちが軍に入ったら,まずそいつらを左遷させてやるのぢゃ.」
「あたしにまかせておいて!ついでに,軍務省人事局のお偉いさんの弱みもつかんでおくから.」
「よし,そうと決まれば,人類種対魔族の戦争の前に,我々“踊る針と歌う鎚”とフィーアグロッセンとの戦争開始だね.」
「よし,やってやろうじゃないか!」
「「「「「「合意!」」」」」」
「では,七賢会議を終了します.商工会訓示ご唱和を!」
「「「「「「「品質が良く,欲しいと思わせるセンスある商品を製造し,タイミング良く,顧客が出せる最高額で販売する!この理念を持って商工会“踊る針と歌う鎚”は巨額の富を得るべし!」」」」」」」パチパチパチパチ.
ヴィッセンスブルク 王城 国王執務室
― 第6紀 368年9月37日(火曜日)4刻
「国王陛下,各勢力が勝手にロビー活動して,戦争が起こった時に有利なように動こうとしております.」
「ふん,させておけ.余に決定権があること,思いださせてやらん.」
魔族領では,魔王を中心に強い統治体制がひかれていたが,人類種は最大の人口,都市,軍を持つ新生アラグニア王国の国内でさえ,この有り様であり,4国間の軍事連携もただの紙切れ同然であった.
*) 予備役徴兵 : 有事が起こる可能性があったので,成人したものは10恊年以内に1恊年の従軍訓練が義務付けられていた.なお,強制徴兵では緊急事態として対象となる全員を従軍させることができる.いつでも強制徴兵ができるように予備役徴兵で準備をしているのである.




