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第12話 いくらなんでも だらけすぎよ

ヴィッセンスブルク イルミナウ区 リエリの家 地上階

― 第6紀 367年2月1日(風曜日)1刻



「ママ, いってきます.」

1月末にリエリ宛に予備軍徴兵令が来たが,学生であることを理由に従軍時期延長申請を出した.そして,2月になって,大学校へ再度通い出したが,2回目の入学式では何も起こらず,あまり深く考えずに壁守育成課程の時と同じような授業を取ったため,同じことを二度聞く羽目になり,記憶力だけはあるリエリは授業が全く面白くなかった.


壁守育成課程の頃の同期も何人か受講していたが,彼女らは壁守認定試験に落ちたメンバーであり,採用試験は受けることすらできなった.そういう立場の違いもあり,“知り合い“を抜け出せず,“友達“にはなれなかった.


さすがに,授業の選択は失敗したと思って,後期からは苦手な科目だけに絞ることにした.空いた時間を家でゴロゴロしていると,エリアーヌに,

「家でゴロゴロしているのなら,夜ご飯を作ってくれてもいいのよ.」

と,毎日仕事して,疲れて帰ってきている母親に嫌味を言われたが,料理を作るわけでもなく,掃除をするわけでもなく,洗濯をするわけでもなく,ひたすらゴロゴロしていると,3恊週間後にエリアーヌにブチギレされた.


「リエリ!いくらなんでもだらけすぎよ!いったい何を考えているの!そんなのだからね,・・・(中略)・・・,料理の練習をしないと好きな人ができたときに,おいしいご飯を作ってあげられないじゃない!」

最後の一言に,パスカルにふられたことを思い出してしまい,リエリも逆切れし,

「ママの バカ!」と言い,部屋に閉じこもった.

そして,一人でいじけていた.



「あのね,リエリ.」

「何?」

「ママね,お腹に赤ちゃんがいるの.」

「おめで …と?」

「なぜ,疑問形なの? まあいいわ.リエリもお姉さんになるのよ.」

「そう なんだ. 男の子? 女の子?」

「女の子よ,たぶん.でも,生まれてからのお楽しみよ.

そんなことより,あなたもお姉さんらしく,ちゃんと生活してほしいの.恥ずかしいでしょ.妹に“ぷーたろ”だって,言われるの.」

「う~ん,そう? 小さい うちは 一緒に 遊べるよ.」

「そういう問題でなくて,独り立ちしてほしいの.わかるでしょ?」

「…お金が ないの?」

「お金はなくて困っているけれども,そう言うことでなくて,自立してほしいのよ.ということで,はい,お仕事よ.必ず行くのよ.」と,エリアーヌに紙切れを渡された.

「えっ? お仕事 なんて したくない.」

「行・き・な・さ・い!」

エリアーヌの怒りように,あまり怒られてこなかったリエリはとてもビビった.

「ママの知っている人のお店だから,よろしく言っておいてね.」

リエリはしぶしぶその場所に行った.


「よ,よろしく,お願い しましゅ.」 噛んだ.ひさびさに知らない人と話したため,緊張しすぎてしまった.仕事として行ったその場所は“茶屋”だったのだ.引っ込み思案のリエリを矯正しようと思って,エリアーヌは強制的に接客業を選んだのだが,


「ご,ご注文は,何に され ます か?」

「お嬢さん,かわいいね.じゃあ,お嬢さんを一つ.」

「…」

「ちょっとお客さん.困ります.リエリちゃん,お客さんを無言で睨まない.冗談なんだから.」


ドンガラガッシャン!

「す,すみま せん.…いたい!指 切ちゃった.」

「わぁ,血を止めないと.」


「おねぇちゃん,注文と違うけど.」

「えっ?   わたし 間違って ません.」

「申し訳ございません.すぐに交換します.リエリちゃん,そこはすぐに謝るところだよ.」


「はぁ,なぜかとても疲れた.仕事量が余計に増えた気がする.」

「おつかれ 様 でした.では, 失礼 します.」

「あっ,リエリちゃん,待って.今日のお給金ね.割ったお皿の分は差し引くっていう契約なので,銅貨*3枚ね.

で,悪いけど,エリアーヌさんに“ムリ“って言ってくれるかな.それでわかるから.」

「ありがとう ございます.」

と,無表情で受け取り,店をでた.

(初めて 働いた お金.…お皿 割らなかったら, いくら だったん だろう. 1日で 銅貨 3枚. これで 黒パンとチーズ一切れが 3人分 買える ね.)

ちなみに,ひどいお給金である.


「はい,銅貨 3枚.初めての お給金は 両親に 感謝を込めて,渡すんだ よね?」

「え? 銅貨3枚…なの? それは正規で働いてからにして.さすがに銅貨3枚は…お小遣いにしていいわ.」

「それと,ムリ だって.」

「はぁ…わかったわ.次のところ探してくるから,それまで家で料理の練習をしなさい.いいわね.」

「クビなの?」

「そうよ.」

「わかった.食材は?」

「リエリが買ってくるに決まってるでしょ!」

「うん.わかった.」


リエリは考えるのをやめたかのように,無表情で生きていた.まるで何もかも諦めたかのようであった.エリアーヌの勧めでいろいろ働いたが,ほとんどはうまくいかなかった.


唯一,“清書屋“の仕事だけは続けることができたが,まあ,ほとんどしゃべらなくてもいい職場なので,リエリには合っていたが,エリアーヌの思惑とは全くの正反対であった.


清書屋は本や契約書などの清書をする仕事である.若干丸っぽい字を書くリエリだが,ゆっくりと丁寧に間違いなく書き写していたので,それなりに仕事ができていた.

【本複製】魔法はあるのだが,原書を作る魔法は失われ,清書屋はそれなりの需要があったのである.

なお,魔法は同じことを繰り返すのには向いているが,新しいことや一度きりのことを魔法で実現するには,かなり面倒な代物である.


清書屋のお給金は歩合制であったが,少なくとも,大学校へ行くお金だけは自分で稼ぐことができそうであった.





*)銅貨 : 銅貨1枚で一人一食分の自炊による食費に相当する.6刻働いて,銅貨10枚以上が相場.なお,知り合いの娘さんなので,店長はお皿代をだいぶおまけしている.高級な茶器を使用していたので,大赤字である.




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