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第11話 パスカルのバカ!

ヴィッセンスブルク イルミナウ区 リエリの家 3階

― 第6紀 367年1月10日(土曜日)2刻



「パスカル に もう一度 確かめ ないと.」

翌々日の朝,リエリはベッドの上でうだうだしていたのだが,そう言って起き上がった.昨日は一日中泣いていた.結婚することを決めた二人のことを罵り続け,それ以上に自分の不甲斐なさを呪った.


結局,2日とも全く眠れなかった.両親とも出勤しているので,家は静かだった.黒いローブに着替えて,髪の毛を直すために鏡を見た.目の下にくまができているし,死んだような肌の色をしている.ひどい顔が映っていたのに自分では全く気づきもせず,髪の毛を直して,三日月の髪留めをして,何も食べず,ふらふらと当てもなくパスカルを探して歩きだした.


どれだけ歩いていたかすらわからなかった.パスカルの家の周りやイルメナウ区の繁華街,パスカルが行きそうな大学校門前広場に馬車で行ったりもした.ヴィッセンスブルクは決して狭くない.

夕方にはフラフラになりながら,再度パスカルの家まで戻ってきた.スコールが降ってきた.魔導書も杖も持ってなかったため,【雨避け(リーゲンシャーム)】魔法を使う事もできない.箒さえ忘れたのだ.持って来ていれば,もっと早くパスカルを見つけられたかもしれなかった.


自分でも,パスカルに何を言うのか,何を伝えたいのかすらわかっていなかった.まして,伝えるべきかすら迷って,さまよい続けていた.


「リエリ?」後ろから声をかけられた.パスカルだった.

「…パスカル.」

パスカルは【雨避け(リーゲンシャーム)】魔法も使わずずぶ濡れになっているリエリが,振り向いたのを見て,明らかに挙動がおかしいと感じた.学校時代では一度も見たことがないほんとうにひどい顔をしていた.だから,こう尋ねた.

「リエリ,…大丈夫?」と.


リエリは,その単語を聞いて,パスカルと初めて出会った瞬間を思い出した.パスカルを一目惚れした瞬間をである.でも,今回はあの特別な魔法が発動しない.パスカルが動いていないというのもあるが,リエリ自体が【動体視認加速(リュックブレンデ)】に慣れたため,特別感がなくなっているのである.


「だい じょうぶ…」

ゆっくりそう言い,一度,俯き,再度,顔を上げる.雨が降っていても,パスカルはリエリが泣いているとわかる.

「な…訳 ない よ.」

「どうしたの?何があったの?」


「どう して?」

「えっ?」

リエリはパスカルのローブを両手で強く絞るかのように掴み,

「どうして,  どうして, エリー なの? エリーは ね,すごい よ.わたし とは 違うの わかってる.  でも, でもね.  わたし の方が 先に パスカスの こと 好きに なった のに. わたし ずっと パスカルが 好きだった の!」


「リエリ…」パスカルは衝撃を受けた.パスカルから見たリエリは子供の頃からの友達だった.リエリがパスカルのことを思っていたとは全く考えたこともなかった.

一昨日のパーティで皆に結婚発表して,リエリが傷ついたことは理解できた.こんなにもボロボロになるまで苦しんでいたのだとも,わかってあげることはできた.

パスカルもエリーも,二人が付き合っていると,仲間たちには言わなかったが,別に隠してもいなかった.二人を見ればわかると,思っていたのである.


でも,リエリはわかってなかった.いや,きっと,わかりたくなかったから,見ていないことにしたのだと,リエリの性格ならそうするだろうと,リエリの気持ちを少しは理解した.

でも,もう遅すぎる.すでに,3恊年も前にパスカルの心は決まっていた.


「…ごめん,リエリ.僕はエリーが好きなんだ.エリー以外は考えられない.リエリの気持ちには答えられないよ.」

パスカルははっきりと言い切った.リエリには,その方が良いと思ったから,はっきりとリエリの気持ちを断った.


「パスカルの バカ! 裏切り 者! 大嫌い!」

リエリはすごくひどい顔をして,そう言い残し,逃げるように走り去る.


ビタン.「ぷぎゅっ.」

4メルテくらい走った後,ずぶ濡れのローブの裾を踏んでしまい,盛大にズッコケた.


「リエリ!大丈夫?」

パスカルは慌ててリエリに追いつき,手を差し伸べる.リエリは【動体視認加速(リュックブレンデ)】魔法で,パスカルの手の動きをはっきりと見えていた.そして差し伸べられる手を勢いよく払いのけた.


パチン.と,いい音が鳴り響く.

パスカルは驚いた顔していた.リエリのひどい顔にさらに鼻血が出ており,初めてみたリエリの本気で怒った顔にも驚いていた.リエリはそのまま,走って去って行った.パスカルは追いかけるのを諦めた.


「はぁ,参った.…リエリには時間が必要だと思う.このことはしばらくエリーには黙っておこう.今度は僕から話に行かないといけないかな.どう言えばいいのか….」



ヴィッセンスブルク イルミナウ区 リエリの家 3階

― 第6紀 367年1月11日(天曜日)1刻



翌日から,リエリは高熱を出し,数日寝込んだ.熱にうなされながら,何でパスカルにあんなことを言ってしまったのかと後悔し,パスカルがみんなに昨日のことを話せば,みんながリエリのことをあきれて,リエリのそばから居なくなるのではないかと恐れたりもした.


熱が下がった後も,家でおとなしく1恊週間少し過ごしていると,今度は人生初の発情期がやってきた.


この前,大嫌いと言って別れたのに,生物としての本能に逆らうことができずパスカルに会いたくて,とても切ない気持ちがどんどん強くなる.しかし,理性ではこの前あんなひどい別れ方をしたのに会えるわけがないと思っていて,心が行ったり来たりするのに合わせて,家の中であっち行ったりこっち行ったりしていると,母親のエリアーヌにはリエリの行動が危なすぎると思われて,部屋に閉じこもっているように厳しく言われた.


初めての発情期は勝手がわからないため,わからないままとんでもないことをやってしまって,人生の中でこの時のことを後悔することになる女性が少なからずいるのである.

だから世間の母親は心配して,娘を3日間ほど部屋に閉じ込めておくことが少なくない.父親や男兄弟とも隔離しておくのも普通である.


エリアーヌは仕方なくリエリをベッドで横にさせて,やさしく自分でどうすればいいのかを教えた.エリアーヌが部屋から去ったあと,リエリはすることもないので,さっそく実践してみる.


実践しながら思い浮かぶ相手はパスカルしかいなかった.よく考えると,パスカル以外の男性に全く興味がなかった.遠くから見ていただけの期間が長かったとしても,これだけ一途なのもすごいことである.


発情期3日目の夜にトイレに行きたくなって,夜目が覚めた.グダグダした生活で生活時間がめちゃくちゃになっていた.階段を降り,両親の部屋の前を通り過ぎた時,母親の聞いたことないみだらな声が聞こえてしまい,家族は皆,ハーフエルフハーフトールマンなのだから,発情期が一緒だと気づいて,両親もそういうことをするんだと知り,それなりにショックを受けたが,扉に耳を当てて二人の様子をかなりじっくりと聞き入ってしまっていた.


だが,膀胱の限界を迎えて漏らしそうになったので,トイレまで階段を駆け下り,

「あせった.  この歳で 廊下で おもらし とか,家にも いられなく なる ところだった.」


自分の部屋に静かに帰って,再び一人で実践した.みだらな声を出しながら,パスカルの名前を呼び続けた.



翌日には,リエリはすっきりとして,通常の状態に戻り,昼少し前に一人で起きて,朝ご飯を食べていたら,昼に両親がそろって起きてきた.リエリは昨日の晩に扉の前で聞き耳を立てていたことを思い出し,一人で

(とても 恥ずか しい.) と思い,真っ赤にながら,両親がいつも以上にいちゃいちゃしているのを眺めていた.

(いいな 仲良しで. どうせ わたしは ふられて, 彼氏が いない もん! むかつく! リア充, 爆発 しろ!)

と,心の中ではふてくされていた.


その4恊日後には,これもまた人生初の生理となって,お腹が痛くて,だるくて,ベッドでダウンしていた.これで身体的にも機能的にも大人*になったのである.リエリは鏡を見て,胸もかなり膨らんできたなと,と思い寄せたり,上げたりしていた.




*) 古い種族は成長期と性成熟期が完全に分かれていて,身体的に大人の身長や体重に育った後に,性成熟が起こる.そのため,ロリの間は絶対に妊娠しない.性熟成が遅いため,思春期も遅く,理性がついている年齢であるので,思春期特有のややこしいことが起きにくい.やや起こりにくいだけとも言うので,悩ましい時期には変わりない.



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