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ガブリエリナ編 プロローグ

新生アラグニア王国 王都ヴィッセンスブルク イルメナウ区 イルメナウ初等学校

- 第6紀 354年8月61日(風曜日)3刻



「大丈夫?」

それがガブリエリナ・フォレシガールとパスカル・ファンデルメーデンとの出会いだった.なぜ,“大丈夫”と聞かれたかすら,今はもう覚えていない.それくらい“出会い”そのものが印象に残っているのだ.


まだ小さい子供の姿だったガブリエリナに,真面目そうな顔立ちの背の高いパスカルが目線を合わせるために,かがみこんで少し首をひねる動作をしたのを,スローモーションのような鮮明さで,そのきれいに輝く緑の瞳に吸い込まれそうになりながら,じっと見つめていた.彼の瞳に映る,とても驚いている自分の顔までもはっきりと見えていた.彼がまばたきひとつする瞬間もスローモーションではっきりと認識できた.


その瞬間,たったこの一瞬で,

(この人が わたしの 王子 様 なんだね!)

と,運命を悟った.



その日の朝,幼少期のガブリエリナは成長の過程で,自分の体内に保有しているマナ*量が生まれて初めて第26階梯相当を超え,隠されていた固有魔法*【第26階梯魔法 動体視認加速(リュックブレンデ)】*が発動した.この魔法は早く動く物体をはっきりと視認することができる魔法である.


この魔法が発動して初めてまじまじと見た人物が,()()パスカルだったのだ.パスカルがガブリエリナにとって特別な存在だったのではない.ガブリエリナがマギアス(魔法使い)として,成長しただけのことだった.


たとえ勘違いであっても,恋ははじまる.もし,この“運命の相手”がパスカルではなくて,別のつまらない男を見て,同じことを思ったりしなかったことは,彼女にとって“とても幸運なこと”だったのだろう.


その後しばらく,ガブリエリナはパスカスの後ろをついて回っていたが,そんなことすれば,同学年の男子どもにすぐにからかわれた.恥ずかしがり屋で,引っ込み思案な彼女は,からかわれることの恥ずかしさに耐えられなかった.ガブリエリナはパスカルにつかず離れずの絶妙な距離感をすぐに理解し,さりげなくずっと彼のことを見つめ続け,そして彼を思い続けていた.





ヴィッセンスブルク ティーレン区 高い塔

- 第6紀 346年1月29日(土曜日)6刻



「ひぃ おばあ ちゃん!」

「リエリ,いらっしゃい.」

ガブリエリナが子供だった頃,ガブリエリナの曾祖母グレースはティーレン区の“高い塔”*で“壁守かべもり”をしていた.

壁守と言うのは人類種が住む街と人が生きることができない世界ウィルダネス(外の世界)*とを区切る“街壁”*を守る役目を担うマギアス(魔法使い)のことである.


毎年,春になるとガブリエリナの両親は大切な用事があるからとガブリエリナに説明して,1恊週間*ほど曾祖母のところに預けていた.グレースはガブリエリナが懐いていた数少ない人物であり,ガブリエリナも楽しみにしていたし,実際に毎恊年 楽しく過ごしていた.


曾祖母のグレースは純血のエルフ*であり,すでに700恊歳を超えていたが,髪の毛の色が輝く金色から極わずかに白色のものが生えてきつつあったが,それ以外の老化の兆しは全く見えず,見た目は若かったし,活発に壁守の業務をこなしていた.


グレースは“アラグニア大消失”*によって,愛する曾祖父が行方不明となった時にも,悲しみに暮れることも許されず,大消失直後の混乱期に“街壁”を修理し,そして“街壁”を動かして街を拡張して,ヴィッセンスブルクの人々を守ってきた.王国によって壁守制度が制定されると,その流れで壁守に任命され,それ以降,壁守としてこの高い塔で一人暮らしてきた.


ところが,突然,大消失によって音信不通だったグレースの息子,つまり,ガブリエリナの祖父のエクトルが子供を連れて帰って来た.ガブリエリナの父ジョエルだった.一目見て,ハーフエルフハーフトールマンであることがわかった.グレースは息子を非難した.非難してしまったのだ.


息子が言うには,この子の母親は亡くなったと,代わりに育ててほしいと,この子はまだ48恊歳だと.そこまで聞いて,この子の母親はほぼ寿命を全うしたのだとわかり,息子が適当なことをして,作った子ではないことは理解してあげた.


エルフが成人と認められるのは144恊歳である.他の種族と違い,長い子供の時期を過ごす.ハーフエルフハーフトールマンがいつ成人するのか全くわからない.エルフと同じ144恊歳か,それとも,トールマンと同じ16恊歳なのか,その中間なのか.48恊歳のジョエルの見た目はまだ子供だった.


そのため,最初はエルフの子供たちと一緒にさせたが,ハーフトールマンであると,それだけでひどいいじめを受けた.仕方なく,グレースは初等教育を再度受けさせた.マグニル(非魔法使い)のトールマンの友達ができ,非常に喜んでいたが,彼らはすぐに大人になり,すぐに老けて,そして,すぐに亡くなった.ジョエルは独りぼっちだった期間の方が長い.


96恊歳になって,やっと見た目が青年になったので,大学校へ進学した.そこで,同じ境遇であったエリアーヌと出会い,結婚し,長女のミカエリーナ,次女のガブリエリナが生まれた.


ハーフエルフハーフトールマンの両親から生まれる子供は,1/4でエルフ,1/4でトールマン,1/2がハーフエルフハーフトールマンになりそうだが,二人からエルフが生まれる可能性はたった172億分の1の確率であり,一度,トールマンの血が入ると,奇跡でもない限り,エルフに戻ることはない.ハーフエルフハーフトールマンの子はハーフエルフハーフトールマンになるのだ.エルフに近いかトールマンに近いかの差があるだけだった.


長女のミカエリーナはトールマンに近くて魔法地位*が一般級3位マギアスのマナしかなく,すぐに大人になり,そして結婚し,今は3人の子の母親になっている.

次女のガブリエリナはかなりエルフに近く,魔法地位は両親よりも高い術者級1位のマギアスとして生まれた.魔力と記憶力はエルフであったが,運動神経と思考力はトールマンの平均以下だった.そして,あまりにも精神的にもろかった.



グレースはガブリエリナの行く末を本当に心配していた.ジョエルは幼少期にかなり苦労したが,それでも根気強く粘り続け,幸せを手に入れることができた.このひ孫はこんなに打たれ弱くて大丈夫なのかと.


「リエリ,あなたはもっと強くならないといけませんよ.そして,将来は私のように壁守(ヴァルトヴィヒター)になるのです.壁守は人類種の守護者で誇らしいお仕事なのよ.引っ込み思案のあなたに向いていると思うわ.頑張って勉強しないと壁守にはなれないのですよ.がんばれるわね?」

「うん,わたし ひぃ おばあちゃん みたいに, 壁守に なりたい  よ. お勉強 も がんばる.」

「ふふ,いい子ね.ひぃおばあちゃんとの約束よ.」

「うん.」


その4恊年後,グレースは休暇を利用した旅先にて,乗っていた飛空艇がウィルダネスに墜落し,帰ってこなかった.





*) 【魔法】,マナ : マナとは魔法を発動するためのエネルギー.魔法とはマナをエネルギーとして,魔法陣を介して,不思議(?)現象を起こすことができるもの.説明が巡回してますね(笑).

この【括弧】で囲っているものは魔法を示します.通例,【準備→発動→消費】の順に記載しています.物語上,スピード感が重要な時は,魔法名だけを記載しています.


*) 固有魔法 : その人が生まれた時に神から与えられた魔法.体内に魔法陣が形成されており,魔法が任意/自動で発動する.当然,使うとマナが消費される.


*) 時間の単位 : 1周秒=ほぼ1秒とみなしてください.1周分=60周秒.1刻=50周分,1恊日=12刻.1恊週=5恊日.天曜日から始まり,火曜日,風曜日,水曜日,土曜日.1恊月=77恊日.1恊年=1024恊日=13恊月+小月(1月~13月,14小月で1恊年).


*) ウィルダネス : 人の世界の外側.恐ろしい竜や魔獣,蟲,魚たちが跋扈し,あるいは,恐ろしい魔法を使う森林の世界.マギアス(魔法使い)であろうと,生きていくことができない世界.


*) 高い塔 : 底辺10×10メルテ,高さ33メルテのオベリスク型の塔.【高い塔建築】魔法にて魔導レンガで作られたマギアスのための住居または仕事場.壁守は街壁を制御するために高い塔で暮らしている.


*) エルフ : 美しい見た目,高い知性,素晴らしい運動神経,病気にならず,不老であり寿命がない種族.原初三柱神がエルフを作った時に人類種は完成したと大変満足した.


*) トールマン(グロサルマン) : 原初三柱神がエルフと同時頃に作成された人種.背が高く,持久力がある.50恊年程度の寿命がある.ドワーフやエルフより背が高いのでそう呼んだが,巨人族ではない.エルフとは近類種.正式名はオイロダインである.


*) 街壁 : 人類種の領域とウィルダネスを分ける壁.魔導レンガで作られており,通例,高さ15メルテ,厚さ5メルテある.なお,魔導レンガとは0.1×0.1×0.2メルテの大きさの白色のレンガで,錬金術で作成したもの.マナを帯びさせるとくっつき合い,頑丈な壁になる.


*) アラグニア大消失 : 第5紀の最終年である1063恊年に,大陸全土を支配し,全盛期を誇っていた旧アラグニア魔導王朝のほとんどの街が唐突消失し,人口の約98%が行方不明となり,文明が崩壊した事象.原因は不明.あまりにも多くのものが失われた.


*) 魔法地位 : マギアスのレベル.上から,賢者級,術者級,一般級.それぞれの級の中で,1位から6位までに分割されている.当然,地位の高い方が高度で高威力,広範囲の魔法が使える.魔法地位は持っているその時のマナ保有量に依存する.通常,最大レベルを言う.人はマナの器を持っており,その器以上のマナを所有することができない.一方,魔法を使いマナ量が減るとレベルが下がる.



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