第8話 ティルールローゼ 全国大会だよ
ヴィッセンスブルク大学校 ティルールローゼ競技場 第3コート
―第6紀 366年5月52日(天曜日)3刻
「がんばったん だけど. どう かな?」
確かにリエリは頑張ったのかもしれない.だが,なんでそうなった?
大学校が休みの天曜日に,エリーのチーム“天空彷徨う魔弾“の皆で集まっており,リエリはティルールローゼで何か活躍できる方法を模索して,2つの技をチームメイトにお披露目していた.
「うん,確かにその連射スピードはすごいよ.1周秒に平均で16発くらい撃てているよね.しかも照準もすごくあってる.でもどういうときに活用したらいいか悩むよ.16発を同時に発動するのと,16発を連射するのとの違い…メリットとデメリットがあるよね.いいアイデアはないかな?そのまま撃つんでは照準が正確過ぎて,大盾で簡単に防御されてしまう気がするよ.空間歪曲と組み合わせるとか,かな?ちょっとずつ照準をずらすことができるなら,おもしろいことができそうだよ.ちなみに,走りながら連射できるのかな?」
「ムリ.」
「う~ん,それでは相手から狙撃されてしまうよ.」
「じゃあ, こっちの 技は どうかな? アンジェ 手伝って. 【空弾】 6発を 撃って きて.」
と,リエリは言い,5メルテ離れたところに立って,
「では,いきますの.」【空弾 ×6】
【連射空弾 16連発/周秒】
そして,そのうち3発を先ほど見せた連射を使い空中で撃ち落した.
「ううう, い,いたい よ.」
しかし,3発はそのまま被弾した.額と,胸と,右足太ももが淡い赤に染まっていた.
「大丈夫ですの?リエリ.魔弾を空中で撃ち落すのはすごいですの.今まで,練習でも試合でも弾と弾がぶつかることなんて,まあなかったの.でも,ティルールローゼは1発でも当たったら,退場ですのよ.百発百中なら使い道がありますけど,半分の確率では使い物にならないですの.盾をださなくてもいいっていう利点だけですの.
…大道芸として披露するなら,笑ってもらえるかもなの.」
(もう 大道芸 って なに よ!)
「リエリ,もう少しフィジカルを鍛えようよ!走り込みと反復横跳びをやって,走って連射,また走って連射とか,反復横跳びしながら連射ができたら,リエリかなり強くなれると思うよ.」
「うっ,う~~~.」
リエリはとにかく運動が嫌いだった.しんどいことも嫌いだった.走り込みと反復横跳びなんて,その代表的なものである.
ヴィッセンスブルク大学校 ティルールローゼ競技場 第5コート
―第6紀 366年6月20日(天曜日)3刻
「初戦!いくよ~!」
「「「「「オー!」」」」」
ティルールローゼの試合開始前に,エリーの掛け声とともに,スターティングメンバーが声を上げる.
ヴィッセンスブルク大学校から全国大会へ出場するための,選抜トーナメントが始まった.初戦は魔法使い育成課程のトールマン6人のチームが相手だ.両チーム中央で握手をして,自分の陣地まで走り,自分の陣地に手を付けて,試合開始のホイッスルを待つ.
この試合からエリーは本気を出して,空間歪曲をバンバン使っていく作戦だ.エリーは空間歪曲による“初見殺し”作戦をやるつもりなのだ.試合開始の前から計算をはじめ,三軸水晶球に行列式を代入して,先頭にいるリーダーらしき人物に照準を合わせている.
この頃にはエリーのチーム“天空彷徨う魔弾“は9名になっており,リエリはなんとかスターティングメンバーに選ばれていていた.
ピー!
【空間歪曲】【遠距離高速空弾】【遠距離高速空弾】【遠距離高速空弾】【遠距離高速空弾】【連射空弾 16連発/周秒】と,50メルテ先の相手にロングレンジ攻撃を仕掛ける.
相手リーダーは高速空弾がありえない軌道で接近してきているのを認知することさえできず,瞬殺される.
そして,やや遅れてリエリの撃った空弾がとんでもない連射スピードで撃ちだされており,他の5人も2歩出たところで,盾を出して防御した.
エリーはどんどん照準を別の相手に次々と変更していき,高速空弾が盾を避けて次々と相手に当たっていく.
たった9周秒で,相手チーム全員を仕留めた.
「まずは1勝だよ!」
「「「イエ~イ!」」」
「そんな,バカな…」相手リーダーは呆然とつぶやいた.
プロリーグの選手でさえ,上手に空間歪曲を使いこなせる選手はほんのわずかである.それを大学校選抜で高度な制御をやって見せたのだ.もうチートである.
「ねぇ,聞いた? 昨日,9周秒で6人を瞬殺したチームがいたんだって.」
「はぁ?嘘だろう.そんなのどう考えてもムリじゃね?」
翌日,噂になっていた.エリーのチーム“天空彷徨う魔弾”は初戦ちょっとやり過ぎてしまい,いろいろなチームから注目されていた.
「エリー,2回戦目の相手は瞬殺を避けるために,最初から大盾で防御にくるだろうから,今日は足の速いアンジェとクロエがメインで初手から柱をすべて占拠する作戦でどうかな.」
「パスカル,いい作戦だよ!それで行こう.柱を取れたら,柱の影から相手に見えないように上に魔弾を上に撃って,後は任せて!今日は速攻だから,リエリはベンチスタートね.」
「うん. えへへ パスカル, 今日は どれくらい で 勝てる かな?」
「トーナメントの最後の方は相手も強いだろうけど,2回戦の相手は“錬金術課程の3回生“チームで,特に注目の選手もいないから,1周分もかからないだろうな.」
ヴィッセンスブルク大学校 ティルールローゼ競技場 第1コート
―第6紀 366年6月65日(天曜日)3刻
「さて,みんなこれに勝ったら,全国大会だよ.気合入れていこう!」
「「「「「オー!」」」」」
決勝戦は因縁と言うべきか,入学式でリエリに絡んできたエルフ3人を含むチームだった.エリーも忘れる訳がなかったので,リエリが怖がると思い,作戦的にもリエリをベンチスタートにした.
だが,苦戦する.エルフの足の速さに翻弄され,前半戦は相手も自分たちも全力で走り続けた.ハーフタイム直前にようやく疲れがでたトールマン3人を次々と落とす.そしてハーフタイムだ.予選では後半戦まで もつれ込んだのはこれで2試合目である.
「はぁ,はぁ,はぁ,わたし,もう無理.リエリ,交代して!」と,クロエがダウンした.
「うん,わかった.」
「リエリ,大丈夫かな?」
「うん,大丈夫. がんばる よ!」
相手も疲れている.そして,こちらはまだ誰も落ちていないのだ.6 vs 3はかなり有利だ.エリーは一人でイケメンエルフを相手し,下っ端エルフはアンジェとウィリアムでおちょくっている.
無口エルフがリエリに気付く.相変わらず,冷たい目をしている.
(覚えてる よ. 入学式の 日に わたし の おさげを 引っ張った の.)
リエリは自分のおさげを触り,三日月の髪留めがあることを確認する.
無口エルフがリエリに突っ込んできて,【空弾】3発を撃ってくる.
「リエリ,あぶない!」
「わたし だって!エイッ!」
リエリは周秒速16発連射で【連射空弾】を撃ちこみ,向かってくる3発を奇跡的に撃ち落す.無口エルフは驚きながらも,とんでもない運動神経でリエリの“空弾”を全弾回避する.
エリーはリエリがピンチだと思い,イケメンエルフにとんでもない数の【空弾】の雨を降らせて,撃墜する.そして,下っ端エルフもアンジェの【空弾】に倒れた.残りは無口エルフ一人になった.
彼はエルフの意地として,少なくとも一人くらいは落としたいと思い,もっとも弱そうなリエリに【空弾】を撃ちながら接近する.
リエリは,足が遅くて走るのが苦手であったが,相手に向かって飛び込むように倒れ込みながら,得意の【連射空弾】を最後の1人に撃ち込む.自分が早く動いていると,【動体視認加速】魔法が発動して世界がはっきりと認識される.初弾と2発目は相手に小盾で防がれる.思ったより上に飛べてなかったので,相手の【空弾】がリエリの頭の上をギリギリで通り過ぎる.狙いすまして盾で防げないところに【空弾】を連射する.一発一発が相手に向かって着実に飛んでいくのが見える.
「うががががががががぁぁっ!」
盾で防御できていない部分に8発当たったことを目視する.
そして,リエリは地面に落ちる.
「ぷぎゅ!」地面に胸からずっこけたようになった反動で,ちょっと女の子らしからぬ悲鳴をあげてしまったが,全国大会が決まる闘いで決勝弾を撃ち込むことができた.
「リエリ,よくやったよ!これで全国大会だよ!」エリーは万歳していた.
「今のはすごいの!」アンジェもリエリを讃えた.
「リエリ〜〜~ィ.」と,ベンチからクロエが走ってきて抱きついてくる.「リエリ,すごいね!決勝弾あたったよ.やったねぇ.」
「うん.」リエリもクロエに抱きつき返して,うれしくて涙がでてきた.




