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閑話 第8話 あたし笑いが止まらないよ

新生アラグニア王国 王都ヴィッセンスブルク 王城 謁見の間

― 第6紀 365年3月59日(土曜日)3刻



「新生アラグニア王国 ジャック国王陛下,有意義な対談ありがとうございました.これで,両国の安全は遥かに改善されました.」

アラグニア王国とイルミンスール代表であるアベルとの対談は速やかに合意された.

魔人とゴブリン*どもの侵略によって,フィーレリザーフェン鉱山が陥落したところであったアラグニア王国としてはエルフとの共闘は願ったり叶ったりの提案だった.


次の訪問国であった東方蓬莱朝では,皇帝陛下がエリザベートをべたべた触り,エリザベートが内心(こいつ,燃やしてやろうか!)と,かなりご立腹だったが,イルミンスールと東方蓬莱朝の最も西にある街と直通の転移門を設置することで援軍の合意が得られた.


一番難儀したのが,神聖ミカエリアス教会国である.彼らの教義で魔族討伐を謳っているので,すぐに合意できるものと踏んでいたが,エリザベートの態度が気に入らないのが理由で,文句を言ってきた.


神聖ミカエリアス教会国は人口の65%をフェブエルとロベルマン*で占めており,

「エルフの皆さま方がフェブエルを差別的に扱われていること大変遺憾に思っております.そのことの改善がなされない限り,我々が協力することはございません.」と,きびしく突っ撥ねられた.

それを聞いたエリザベートが,

「フェブエルらの助けなどなくても,エルフとドワーフ,トールマンだけで魔族どもを平定できてしますでしょう.協力したくないと言うならそれでいいではないですか.」と,フェブエルはいらないような発言をしてしまったため,その場の収拾がつかなくなり,アベルは一旦退却した.


神聖ミカエリアス教会国は,人類種メジャー3種族によってどこの街からでも追い出され,北の果てにたどり着いたフェブエル/ロベルマンたちと,厳しい環境で修行する神官たちが作った国である.

上級天使ミカエリノールが神へ昇格して,フェブエルたちの守護神になってもらい,人類種で十分に救われていないと考えられている人々が新しい神によって救済されることを目指す教団である.


睡眠によって得られるマナの回復量はマギアスとマグニルで異なるものの,基本,2パターンしかない.マグニルは21,773マナエルグ,マギアスは6,745,587マナエルグである.このマナ回復量を皆で持ち寄って,教会が一旦収集し,天使ミカエリノールに奉納する(マナ量が神と天使を分ける最大の壁である)か,または,国の発展にどのように利用するかを決めた後,神官やマギアスたちに戻して,魔法で目的を達成する社会を構築していた.利己的な他の国と違い,社会的には常に優れた先進的なシステムであった.


それも司祭たちが不正をしなかったらの話である.権力を持つと必ず権力者から腐敗がはじまる.平等で皆が社会的な責任を果たす社会を目指していたが,結局は教会側にいるか,そうでないかで,格差が生まれた.

アベルたちはしぶしぶそういう腐敗した権力者に手を(つまり賄賂を)回し,教会国の誇る聖装兵団を招集できる可能性を残した.

エリザベートは最後まで謝らなかったのである.アベルはエリザベートに困ったものだと思いながらも,エルフ第一主義(ファースト)はアベル自体も捨てられるものではなかった.


二人の努力の甲斐あって,この年,ユグドラシルの森のすぐ東にあるストーンヘンジで四か国会議が行われた.どこかの国が魔族に襲撃された場合,他の三国は軍を派兵するという内容の“大陸四国軍事協定“が締結された.派兵された各国の軍は一旦イルミンスールに集結し,編成し直して,そこから派遣される運用に決まったため,イルミンスールの軍事的重要性はさらに高まった.イルミンスールには派兵用の転移門や駐屯施設がどんどん建築されていった.



魔族領 地下迷宮都市コキュートス 魔王城 大広間

― 第6紀 365年4月31日(水曜日)3刻



「ああ,私のマリアンヌ.今日もとても美しい.極寒のコキュートスに咲く,唯一一輪の真紅の薔薇の花のように…(聞いている方が恥ずかしいので省略)」と,“中断の(インキターア)グシオニブブ”がマリアンヌの前で片膝をついて,両手でマリアンヌの左手を優しく包んで,愛の告白をしている.ちなみに,毎日毎日告白しているのである.


「キャハハハ.あの芸術家肌で女たらしのグシオニブブがこんなにぶっ飛んだように変わり果てたことに,あたし笑いが止まらないよ.しかも,選んだ恋人が魔人の憎き宿命の相手ハイエルフだというのも,おかしくておかしくて.キャハハハハ.」と,“夢迷(ティフル )不醒の(マナミ ル アザリ)シトラビナ”が大爆笑している.彼女は一見幼女にしか見えず,大人の色気が全くない,とある部分が平らなサキュバスの魔人であるが,四魔殺の一人である.決して,幼女ではない.もしも,実年齢のことを彼女の前で発言しようものなら,次の朝までには冷たい死体になっていることだろう.まるで眠っているかのように.


「しかし,どうにかならんのか?見るに堪えん.」と,“威風堂々の(ハイバ シャミハ)キマリザルド”が隣にいる不死の魔法使い リッチの“孤独(ルズラ )万軍の(ワル ファヤリク)ガミジナガル”に問いただす.

「無理だ.」 マリアンヌの離れていた首と胴をくっつけて,動くようにしたのはガミジナガルだから,そう聞かれたのである.

材料さえあれば不死をいくらでも作り出すことができるガミジナガルには,死亡したマリアンヌの首と胴をくっつけて動かすくらいは簡単なことであった.しかし,マリアンヌをどう扱うかはグシオニブブの自由である.


しかし,もう少し丁寧に縫合した方がグシオニブブは喜んだことだろう.マリアンヌの首の縫合の雑さはかなり気になる.骨だけだと手先が不器用なのかもしれない.

なお,マリアンヌだった“もの”はすでにマリアンヌの魂がなくなっていたため,ガミジナガルが適当にその辺りに漂っていた女の幽霊ゴーストを捕まえて,遺体に入れ込んで動いているので,すでに本人ですらなく,まったくしゃべることもなく,ゆらゆらしてグシオニブブについていき,いつもポーッとしていて,ときどきグシオニブブを見てにっこりするくらいである.それでも,一身にグシオニブブの愛を受けていた.


「グシオニブブ殿がだれを愛そうが,作戦に支障がなければ,全く問題ないでス.いやでも…」と,四魔将 兼 魔族軍の総軍師であるリザードマン*の“考え過(タアンムリル)ぎの(ダァイミ)ウァサーゴシュラゼズス”が言う.

「いろんな女に手を出さなくなったから,いいじゃない.私にも毎日のように言い寄ってきて,鬱陶しかったのよ.」と,四魔将 ディアボロスの“冷血無(カスィ カル)情の( ジャリード)ベリアラビナ”が冷たく言い放つ.


「グシオニブブ,このまえ我同胞を30人近く殺しやがって,ただで済むと思うなよ.」と,ヅォークの統治者である“極悪非道の(ファースィドゥン)サブナザド”が額に血管をうかびあがらせて,激怒していた.

「そりゃ,バカなヅォークどもがあの女を襲おうとして,押し倒したんだから,グシオニブブの怒りに触れて,殺されても仕方ないだろう.いくらなんでも節操がなさすぎるだろう.俺でも手をださないのに.」と,魔人(ディアボロス)の“混沌(サリル )種濁の(ファウザ ダジ)ハーゲンドゥラム”はあきれて言う.

「なんだとぉ!」

「まあまあ,サブナザド殿,落ち着かれよ.」と,部屋の隅の影からヌーッと四魔殺“陰影腐敗の(ズィラーリル ダミサ)ビフロザルド”が現れた.

「「!」」

「おい!驚かすなよ.」

「しかし,グシオニブブ殿もいけませんな.“恋人”に首輪をはめて鎖つけて連れ回すのはいつも通りだとしても,なぜあの女は全裸のままなのですかな.それではヅォークも襲いたくなるというものです.」と,コボルド*の統治者“殺戮の(マズバハ)グラシャラボラスス”がコメントする.彼がなぜ,リザードマン風の名前なのかは謎である.

「ヒヒヒヒ,グラシャラボラスス殿はヅォークを理解されていないようだ.全裸だろうが服を着ていようが同じことになりましたぞ.ヒヒヒヒ.」と,ゴブリンの統治者“意地悪の(ライーム)ウァレヴォルグ”が否定する.

「なんかぁ~,マリアンヌに似合う服がなくて,全裸がもっとも美しく見えるからだってさぁ.笑っちゃうよね.キャハハハハ.」シトラビナが皆に教える.

「ふん.」と,つまらなそうにリザードマンの統治者“(アイナイ)(ディフダ)(ザハリル)背の(ムンハニ)サレオスシャールシズス”がそっぽを向く.


「燃やしたいぜ!」と,なんでも燃やしたがる“(ナール)炎の(アルジャヒム)フラウラヴォス”が部屋の反対側にて火球をジャグリングしていた.彼は自由でファンキーなやつである.


ギギギギギー.いかにも魔王城らしい扉の開く音が部屋に響く.

「さて諸君,静粛に.魔王様,ご入場だ.」と,事実上,ナンバー2である魔人ディアボロスの統治者“激発迅雷の(バルクン アニフ)ベレドゥラム”が声を上げる.

扉のところで,“用意周(ムダッビルン)到の(シャミル)ハルファザルド”が魔王を案内する.このハルファザルドがいなければ,魔界が回らない裏方の最重要人物である.


そして,八肢亜巨人ヘカトンケイルの魔王“無限個体の(ムタナーヒヤ)バエラヴォアラス”が,四魔殺“とろり流れる(ラズィージュ)フォカラビナ”と一緒に入ってくる.

「うふふ,お迎えありがと,ハルファザルド.」

フォカラビナの本体は薄い青透明ではあるが,ちゃんとグラマラスな女性の形を保っていたし,人のようにちゃんと歩いていた.そして,悪巧みをしているような満面の笑顔で大広間に集まる全員を見渡した.


ヘカトンケイルは足が2本,前足としても使える長い手 2本が腰の少し上に,小さな副手 2本が胸の横に,肩から生えている普通の手が2本の合計8本の肢がある.青い肌をしており,身長は4メルテくらいある.顔つきはオーグル鬼*に近い.

魔王はヘカトンケイル用にデザインされた不思議なデザインの椅子に座ると,フォカラビナもバエラヴォアラスに寄り添い,椅子によりかかる.


「さあ,議論をはじめよう.」

魔王配下,四魔将,四魔殺,八魔公の全員が集まり,ベレドゥラムの発声を皮切りに,大規模な北征をいつはじめるか,議論がはじまった.





*) ゴブリン : ディアボロスと同じころに魔界の住民となった部族.小鬼.肌が緑の種と褐色の種がいる.額に角のような突起があるが,“おでき”である.ドワーフ系の種族.


*) コボルド : ディアボロスと同じころに魔界の住民となった部族.狼あるいは犬の獣人種.もっとも古い獣人.


*) フェブエルとロベルマン : フェブエルは新しいエルフ系の種族.種族出生の由来から呪われており,エルフの下位種族とみなされている.ロベルマン(新しいトールマン系の種族.下位種族.)との混血が進み,だんだん見た目もエルフから遠ざかりトールマンと区別がつかなくなってきている.“フェブエル”という単語はエルフ語の“下等なエルフ”がなまってできた言葉である.


*) リザードマン : 原初三柱神の一人,龍を作ったエフファル神が,エルファル神の作ったエルフを見て感心し,エルフのような龍を作ろうとして作った種族.爬虫類ではない.


*) オーグル鬼 : 赤鬼.オーガ.角を持ち,力持ち.



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