第7話 二人は恋のライバル
新生アラグニア王国 ヴィッセンスブルク大学校 第二食堂
- 第6紀 365年6月33日(土曜日)4刻
「ねぇ,パスカル.今度の練習試合の対戦相手はどんな感じかな?」
「そうだね,アタッカーの子がなかなか強いけど,それ以外は普通のレベルって感じかな.アタッカーの子は弾数と罠が得意だから,飽和攻撃を処理できると簡単かな.」
「それだと,空間歪曲が有利だけど…まだ,秘密兵器にしたいよ.空間歪曲を出すほどの相手かな?どうせなら,全国大会出場トーナメントまでは隠しておこうと思っているんだよ.どう思う?」
「そうだなぁ.エリーはまだ,空間歪曲は隠しておいて大丈夫だよ.アンジェとウィリアムのダブルアタッカーがかなり強いし,クロエがスナイパーと中堅ができるから・・・(以下略)」
(二人で 楽し そう…)
仲良し6人組が集まって,第二食堂でおやつを食べながら,打合せをしていた.アンジェ,エリー,パスカルが横に並び,クロエ,ウィリアム,リエリで向かいに並んでいる.リエリとしてはパスカルの前の席を確保できて,内心喜んでいたのだが,先ほどからエリーとパスカルでずっと話しているので,だいぶ不満だった.心の奥からモヤモヤする気持ちがもたげてくる.
(リーダー と チーム参謀 だから, 話すこと いっぱい あるのは わかる けど …でも.)
入学後の半年くらいは女子4人だけでつるんで行動していたし,しばらくは4人でティルールローゼの練習もしていたのだが,ある日,リエリは久しぶりに初等教育で一緒の学校だったパスカルに,大学校の第二食堂でばったり出会い,出会ったときに一緒にいたエリーとアンジェを紹介した.
彼は大学校の魔法研究課程に進んでいたので,授業は一緒ではないがティルールローゼのチームにどうかと誘ってみた.すると,翌日にはウィリアムも連れてきて,とんとん拍子にこのメンバーに加入した.そして,それ以降,この6人でつるむようになった.リエリはまたパスカルと一緒に会う機会が増えて喜んでいた.
しかしである.それから1恊年近くは過ぎ,現状はだいぶエリーに負けているように思えた.リエリは大好きなパスカルと多くの時間を一緒に過ごせるようになったので,もっと親密になりたいと思っていた.
でもなかなかしゃべることができなかった.口下手なリエリはどうしても,6人の会話の中で一歩遅れることが多く,そのうちに話題が変わっていってしまって,自分の言いたいことをうまく伝えることができなかった.
エリーは壁守育成過程でトップの成績であり,ティルールローゼでは秘密兵器の空間歪曲を隠したままで,オールラウンダーとして何でもこなしたうえで,リーダーとして皆を引っ張っていた.
ハーフエルフであるリエリは外見だけは有利なはずであったが,どこにでもいるような“普通のかわいい女の子”程度のエリーになぜか外見ですら勝っている気が全くしなかった.エリーの魅力はその内面の自信からくる魅力にあった.それは引っ込み思案のリエリにはないものだった.彼女の幾何学的で曲線的な無駄のない動き自体にも魅力があふれていた.【動体視認加速】魔法がいやでもそれを意識させた.
対するパスカルも魔法研究課程でトップの成績であり,2恊年目からすでに教授陣に気に入られ,次々と研究成果を上げていた.リエリから見ても,どう見てもお似合いの二人にしか見えなかった.
それでもリエリは,
「あのね パスカル.この 魔法 理論ね, わから ないから, 教えて.」
「パスカル. どうやったら, ティルール ローゼ, うまく なる かなぁ?」
「パスカス. 今度の 天曜日 ね, 一緒に クロエの お店に お買い物に 行こう.」
などと,今まではパスカルを遠くから見ているだけだったのに,積極的にアピールするだけでなく,1恊年前とは異なり勉強にもティルールローゼにも頑張って,エリーに少しでも追いつこうとしていた.
一方のパスカスの反応はどちらかと言うと冷たかった.この頃にはエリーとパスカルは付き合っており,リエリを除く他の3人はちゃんとそのことを理解していた.
そのことに対して友達たちは,
「リエリは友達だよ!」とエリーは言い,
「リエリは空気が読めないから仕方ないんですの.まあ,幼馴染だから,別にいいのではないの?」とアンジェは微妙な言い回しをして,
「リエリだからな.」と,ウィリアムはあきれ,
「それがリエリのいいところよ.」と,クロエはフォローした.
リエリがパスカルにちょっかいを出していたため,エリーとパスカルは二人きりの時間をあまり持たず,この6人メンバーで揃って行動していたので,不思議なことに,三角関係がこじれることさえなく,この6人の中はより仲良くなっていったのである.
この状況をまったく理解していなかったのはリエリとパスカルだけであった.そして,二人は絶妙にすれ違っていた.
ヴィッセンスブルク ツーフリヒト区 聖山アラマト大神殿
- 第6紀 365年7月77日(天曜日)3刻
「つかれましたの.箒で登ればよかったんではないですの?」
「アンジェ,大神殿付近は飛行禁止だよ.それに神様にお参りへ行くのに箒で登るなんて罰当たりだよ.」
「はぁ はぁ, もう 歩け ない.」
「リエリったら,だいぶ体力不足じゃない?」
「…………」
「パスカルも もっと運動した方がいいぜ.」
“7”が3つ並ぶ天曜日に,仲良し6人組でアラマト大神殿へ“マナ奉納”に来ていた.ここは大地母神アリアンフィール様を主神としてお祀りする最高位の大神殿であり,アラマト山の山頂にあって,山の下から3333段の階段を上ってきたのである.アラマト山は外見が台形というか“塔”にも見えるような摩訶不思議な形状の岩山であり,神話時代にアリアンフィール様ご自身が魔法で形成して,この地に降り立ったと言われている.六重らせん状に山の中に削られた階段の内の一つである一般参拝用登り向き階段を上ってきたのである.
登り階段から見える外の様子を見て,ヴィッセンスブルク街並みの活気を感じ,自分たちの家が見えるやなんやと騒ぎ,裏側はウィルダネスの恐ろしいながらも力強く緑あふれる自然の風景を見ては感嘆できていたのは1000段くらいまでで,その後はリエリとパスカルがばてて,2000段を超える頃には2人は外を見る余裕もなくなっていた.
階段自体にも複雑な彫刻がされており,創世記から始まる聖典の場面を表現した彫刻はその芸術的な視点で見ても楽しめるものであった.螺旋階段は山をちょうど2周するようにかなり緩やかに作られているが,2.2キロメルテほどあり,箒にばかり頼っているマギアスにはそれなりに疲れるものである.
決して広いとは言えない山頂をさらに4分割し,たくさん高い建物が立っている.大きく貴族用神殿,マギアス用神殿,マグニル用神殿,天文台を含む神官用施設からなっている.神官たちの多くは地下(というか,山に穴を掘ってたくさん部屋を作っている)と山の下に治療院を含むたくさんの施設を建築していた.
一般参拝の階段を上っていくと,マギアス用神殿かマグニル用神殿にしか行くことができない.もちろん6人は全員でマギアス用神殿に入る.中はステンドグラスの光で色とりどりの光がきれいに入射しており,とても神聖な雰囲気を醸し出している.神殿の正面には巨大な大地母神アリアンフィール様の白い石像と大きな魔晶石が置かれている.魔晶石の周りに12本の金色の金属棒が立っている.部屋の側面には他の五柱神の小さな石像と小さな魔晶石が置かれている.反対側は別館につながっていて,そこにはお清め室と休憩室,小部屋などがある.
どこでも神官アルブにストラを着た神官たちが静かに何か作業をしている.
「さあ,疲れているみたいけど,先に男女別れてお清めをしようよ!」と,元気なエリーはそう言い,女子をお清め室に連れて行く.
「なんだか,人に見られるのって,ちょっと恥ずかしいね.」と,あまり温泉に行ったりしないクロエはそう言いながら,服を脱ぎ始める.
“お清め”は頭から香草で香りづけした水をかぶるだけなのだが,当然,脱いでお清めするのである.
エリーとアンジェはあっさりと全部脱いで,
「そうかな? 気にならないよ.」と,エリーは真っ白な肌を見せて,
「そうですの.」と,アンジェはない胸を張って答えた.
「あわわ.」と,リエリは怖じ気づいてローブのままでいると,
「さあさあ,脱ぎなさいなの!」と,アンジェにエロい手つきで近づかれて,
「ひぃぃぃっ!」と,抵抗もむなしく,あっさりと脱がされてしまった.
「リエリは結構育ってきてますの.」と,アンジェに変な感想を言われた.
お清めの後は,レンタルもしくは家から持ってきた奉納アルブに着替えて,お清め室から出る.
リエリも毎月イルミナウ区の神殿に奉納に行っているが,自宅から奉納アルブを着たまま通っているので,正式なお清めをするのは記憶している限り初めてだった.
「女子は遅すぎるぞ.」と,ウィリアムは文句を言ったが,
「女子は大変なのよ.」と,クロエが答え,
「たのしかったですの.」と,アンジェが手を口に当てて意味深に答えた.
「うわぁ!」と,ウィリアムはなぜかうろたえた.
「じゃあ,各人でお参りしようよ.」
「「「「「おー.」」」」」なぜか体育会系のノリで答える.
現世維持六柱神である大地母神 アリアンフィール,大樹エルフ母神 ルミナフィール,巨人母神 マグナフィール,原初精霊大老 エターナフィール,調和星天護神 ハルモニアフィール,龍神 ティアマトのいずれの神様を信仰するのも自由ではあるが,普通,両親と同じ神様を信仰する.
リエリは大地母神 アリアンフィール様の前に立ち,金色の柱の前で両膝をつく.膝がいたくならないように,床にクッションが引いてある.きれいな布を取り出し,柱を拭き,それから手を握り,アリアンフィール様の神像を下から見上げる.
「大地母神 アリアンフィール 様の ご加護に 感謝を. デウス ケルテー ヒーク エスト.」と,ずいぶん古風な祈りをささげた.
そして,柱に額を当てて,マナを奉納する.
【額接触法印から金柱を経由して魔晶石に接続-66Mマナエルグ譲渡】
そして,再度,心の中で感謝と近々の目標を述べる.
(わたし 壁守に なるため 勉強 がんばります.)
聖典に,神々は個人的な願いは聞き入れないと,明確に記載されているので,ここでお願い事をしたりはしない.どちらかと言うと,自分の目標を神様に聞いてもらうことが多い.努力をしている人には神様からまれにご褒美がもらえることもあるという.ここでの信仰とはそういうものだ.
精霊界から物質界にいるリエリの奉納を霊視で見ていた下級天使は献饌の対価として,神聖儀式魔法を発動する.
【天使三界透過法印で魔晶石から金柱を経由して,ガブリエリナ・フォレシガールの宿魂晶に接続―第37階梯魔法 マギアス寿命延長 66恊日 発動―66マナエルグ消費】
神様は神聖儀式魔法を経由して奇跡を起こしてくれる.それどころか,定期的にマナ奉納すると寿命が長くなるなど,明確なご利益が得られる.そういうこともあり,人々は神様を信心深く信仰しているのである.
神聖儀式魔法で母親の胎内にいる間に“【胎児入魂儀式】”しなければ,知性を持って子供が生まれてこない.そして,母親のマナを胎児に受け渡す儀式も神殿で執り行うので,母親にとっては,神殿という所は非常に身近な場所でもある.
隅っこで一人の神官見習いが奴隷座*させられて,怒られているのが見えた.
「ミカエリーネ,なんど言えばわかるのです! あなたは…(以下,省略)」
「神官さん は たいへん そう.」
神官が聖典に従って生きていくことが教義であるので,とても規則正しく清貧で厳しい生活をしているとリエリは聞いていた.リエリが大学校で失敗しても,あんな怒られ方はしない.
(わたし だったら 投げ出して いる かも. マギアスで よかった と思う.)
「さあ,みんな終わったみたいだから,山の下まで降りて,お茶しようよ.」
「「「賛成!」」」
「あわわ. おいて 行かない で.」
*) 奴隷座 : 奴隷の座り方.




