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閑話 第4話 ほんと,お邪魔虫よねぇ

エルフ朝デュモンド 褐色エルフ独立自治区 イルミンスールの森

- 第6紀 364年8月70日(火曜日)6刻



森長(もりおさ)様,魔族軍が森南端に接近,木々が迎撃を開始しています.軍は現在移動中です.」

エルフの伝令兵はイルミンスールの森に魔族軍が攻勢をかけてきていると森長に報告した.イルミンスールの森も広義には攻撃性森林*である.エルフだけを味方と認識しており,魔族軍に対して魔法を使って排除しているのである.主格木*である世界樹イルミンスールが森の木々に司令を出して,エルフと協力して,森を守っている.膨大なマナを蓄積し,恐ろしいほどの物量で攻撃できる難攻不落の要塞である.イルミンスールの森は魔族領に一番近いエルフ領なので,有史以来数多の戦場になっている.敵対したら下手な攻撃性森林よりも危険な森林である.


「まぁ,しつこくやってくるのねぇ.ほんと,お邪魔虫よねぇ.」

新たに森長になったマリアンヌ・ラ・ロシュは一見,おっとりとしたやさしそうな女性に見えるが,“褐色(ダーク)エルフ併合派”という少数派から森長になった策略家で,腹黒い女である.


褐色エルフと白エルフのハーフである彼女は,白エルフの女王陛下に褐色エルフも従うべきとの考えであり,褐色エルフたちからの受けはとても悪かった.しかし,彼女としては,それが最良の“現実路線”だと考えていた.


すでに,349年と359年の二度にわたって,グシオニブブと名乗る魔族に森長を殺され,その遺体を使って明らかに褐色エルフたちを侮辱する“作品”を残していた.

他種族からの褐色エルフの評価は地に落ちた.特に,白エルフたちからの酷評は褐色エルフたちに自信を喪失させ,自尊心を傷つけ,その後,白エルフへの反感に変わった.


マリアンヌは,359年の襲撃直後の混乱をうまく利用して,併合派のリーダーとして森長に就任した.元々少数民族であった褐色エルフたちは,種族的に危機的な状況にも関わらず,一枚岩にはなれなかった.マリアンヌの考えは間違ってはいない.もう,イルミンスール単独で大規模な魔族軍たちの進攻を止めるには,戦力を失い過ぎていた.


「森長,前回,前々回と同じように(マウト)(アルバア)(シャヤティン)が襲撃に来る可能性があります.」と,前々回の襲撃の第一発見者でもあり,前回も襲撃の現場にも駆けつけて惨状を見て激怒し,そして現森長の親衛隊隊長でもあるエリザベート・ラ・フィーユヴェルトが警戒を促す.


「そうねぇ,軍と一緒に行動した方がいいかしら.歴史的に見れば,過去の四魔殺はみな“初見殺し”で,軍みたいな多数に弱いものねぇ.対策さえわかれば,結構弱かったのよぅ.」と,ただのおっとりではなく,知的な一面も見せる.

「では,そういたしましょう.では,南へ.」

「歩いて,行くのぉ?“迷宮松(パン ラビラント)”で行かないのぉ?しんどいよぅ?」

「歩いて参ります.」と,エリザベートはそっけなく答える.


“迷宮松”とは,森に侵入したものを迷わせて森にからめとり,最後はその屍を森の栄養にする松の一種である.その魔法の本質は“幻覚と転移と空間歪曲”であり,エルフたちは迷宮松の特性を逆に利用して,森の中を高速で移動できるのである.



「みんなぁ,戦闘準備よぅ.」と,マリアンヌはのんびりと言う.

「ちっ!全員,隠れろ.」さすがはハイエルフである.誰よりも先に魔族を感知する.しかし,

(もっと切羽詰まった言い方があるだろう.)と,エリザベートは思った.エリザベートは【探知(エーケヌング) 魔族】を使って,居場所を特定する.“八匹隊”だ.まだ,1000メルテ以上先にいる.エリザベートは隠れるのが早すぎて,若干,恥ずかしくなる.

(こいつとは調子が合わない.)と,内心思った.“独立維持派”のエリザベートは職務上,森長に使えてはいるが,“褐色エルフ併合派”のマリアンヌに忠誠を誓っている訳でもなかった.


1000メルテ以上離れていようが,ハイエルフのマリアンヌはすでに遠距離魔法を仕掛けており,何発も魔法を発動させていた.

「ふぅ~,とりあえず,魔人ちゃんたちを【(ラビラント)迷宮(フォレスティ)】に捕らえたよぅ.人数を揃えて,こちらから逆襲よぉ.」

「ウィ,モン メトル.」(ふん,実力はあるんだな.)と,不服そうに答えた.

親衛隊たちは“伝達アイビー”と“警戒スズラン“の力を借りて,エルフたちを呼び集める.


そのころ,魔人グシオニブブとヅォークなどはイルミンスールの森を歩いていた.アーティファクトを使って,マナが強く集まっている場所に向かっている.そこには世界樹イルミンスール本体かハイエルフがいるだろうと考えて進んできていた.マリアンヌに捕らえられて同じところをぐるぐる回らされているとは,まったく考えてもいなかった.



「さぁて,15恊年前と5恊年前の禍根と屈辱を晴らさせてもらうわねぇ.」

「森長,エルフ軍 第3軍団2小隊,3小隊,7小隊,11小隊,親衛隊,有志各位,計163名 全員戦闘配置済んでおります.」

「エリザベート,作戦はどうするのぅ?」

(私に聞く?)と,思ったが,

「…まず,2小隊,3小隊突入,それを7小隊と11小隊で魔法及び弓で援護,親衛隊と有志は適宜判断で突入します.」と,作戦を提案する.


「ふ~ん…それでいいわぁ.相手はハイエルフを殺せる魔人よ.相手に魔法を使う時間を与えずに星に還したらいいわぁ.」

「瞬殺するのは口惜しいです.今までの屈辱を考えれば,苦痛を与えてから殺したいところです.」

「そんなことするから,相手に逃げられるのよぉ.一瞬で()っちゃいましょ〜.」

「わかりました,森長.…全員,10周秒後に突撃.」と,声と指言葉で周知する.

「【(ラビラント)迷宮(フォレスティ)】解除するねぇ.……はいっ!」と,1周秒前に解除する.

エルフたちは全く音を立てずに,魔人たちに接敵する.


エルフの弓兵は惜しげもなく高価な輝月銀のマナ叉矢を使い,その矢がヅォークたちの頭や目に突き刺さる.

「ブヒィ!」とヅォークたちは叫び,5匹が即死する.


「ヅォークたち,突然さぼって寝始めた.」

「はぁ,フォカラビナ.矢が刺さっているだろう.死んでいるんだ.」

「へぇ,そうなんだ.」

ズボっ.いい音がして,フォカラビナと呼ばれた女(?)の頭に矢が貫通した状態で止まる.絵面的にはとても面白い.

「いたい,いたいわ.頭に矢が刺さったの!グシオニブブ,わたしも死んでしまうの?」

「はぁ,お前は矢が刺さっても死なないだろう.体が()()なんだから.ともかく,矢を撃ってきたエルフどもを殺せ.俺に攻撃を当てるんじゃないぞ.」

「うん,わかった.」と,一番近くにいた第2小隊に接近する.

「はぁ,これだから,あいつと来るのだけは嫌だったんだ.脳みそが液体な奴とは話が合わない.」

話が合わないと言うレベルではないくらい,フォカラビナは知能が低いように思える.

残り一匹のヅォークソーサラーが【下降気流(ファールヴィント)】の魔法で,矢の方向を変えて,グシオニブブを守る.



わずかに青い透明の液体が“人”をマネしているように走ってくるが,その動きには関節と言うものがないため,見ていると気持ち悪い動きだった.女のようなシルエットだが,姿自体もほんとに気持ち悪い.

「見たことがない化物が来るぞ.」


矢が何本も何本も刺さるが,そいつは止まる気配がない.矢が刺さるたびに,「アツォ!」と,何か言っているが,エルフたちには魔族語がわからないため,言っていることがわからない.動くたびに,刺さった矢が抜けて地面にポトポト落ちる.


気持ち悪い動きのまま,弓を持った一人のエルフに体当たりする.そして,指を鼻の穴に突っ込む.引っこ抜くと,指がなくなっているが,うにょうにょとまた生えてくる.隣にいたエルフにまた体当たりし,同じように鼻に指を突っ込んで,指先を鼻の中に置いてくる.とてつもなく臭い.


三人目は剣を取り出し,それを切った.「アツォ!」あっさりと2つに切れた.すると一旦丸くなって,くっついて,触手のようなものが伸びてきて鼻に突っ込まれた.そして,また,人型に戻った.

鼻の中に“何か”を入れられた3人は必死に息を鼻から出そうとして奮闘するが全く出てくる気配がない.とても粘度がある液体だった.


しばらく悶えていた3人が突然ピクピクして,息絶える.そして,3人の死体からどんどん水がなくなり,干からびていく.鼻から赤い丸い液体が出てきて,その3つがくっつき,一つの水玉になる.血のような赤色が,消化されるようにだんだん青い透明になると,その玉も人型になり,そいつは2体になった.


一人のエルフ兵士が鼻の穴に入られないように鼻を手でふさいでおくと,耳の穴に入られた.フォカラビナはどこの穴からでも侵入して殺すことができた.そして,4体,8体と増えていき,第2小隊を全滅させ,13体となっていた.魔法はキャンセルされ,武器で刺しても切っても死なない.エルフ兵にはどうしようもなかった.





*)主格木 : 森の中心的な木.頭脳にあたる木.この木が森全体を支配しており,森が一体になって,まるで一つの生物のように振る舞う.イルミンスールの森は主格木が“世界樹イルミンスール”である.森の種類によって,主格木がたくさんあったり,またエメゾニア大森林のように主格木がないまま,なんとなく成り立っている森林もある.


*)攻撃性森林 : 木が魔法を使えるため,木が集まった森林はウィルダネスの中で最も危険な場所である.いろいろな種類の攻撃性森林があるが,その多くが,植物と昆虫だけで生態系が成り立っており,魔獣を含む動物を魔法で追い出している.森林から見れば人類種はとても危険な外敵であるため,全く容赦などしない.



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