第5話 大学校 魔法の授業 その3
ヴィッセンスブルク大学校 24号館 202号教室
- 第6紀 363年7月34日(土曜日)2刻
「エリー って, 魔法陣 きれい だよね. 音が しない.」
リエリは自分で描いた魔法陣にマナを付与して魔法を発動されると,いつも“ホワホワホワ~~ン”みたいな発動音がするのだが,エリーは全く音がしない.きれいな図形が描けていると音がしないのである.
「うん,そうだね.魔法を使っている瞬間が対戦相手にわからないのはすごく有利だから,きれいに描くように練習をしているんだよ.」
「リエリ,わたくしのを見るといいですの.」
と,アンジェは自慢げにお手製で魔法陣を描く.すごく独特の線を引いている.それはきれいな円からほど遠く,わざと乱した線で描いた魔法陣であった.アンジェはそれにマナを付与して,魔法を発動させる.
ヒュ~~~~~ッ,ズバーーン!
と,かなりの爆音を教室中に鳴り響かす.教室の全員がアンジェを見る.弱い風を巻き起こす魔法がアンジェの周りに発動し,ローブとツインテールが風で揺らぎながら,先ほどの発動音と魔法陣からいつもより強い発光が相まって,アンジェがとても幻想的に見える.
「かっこ いい!」
「ほほほ!線の歪みでどんな音がでるか知っていると,こんなこともできますの.」
「アンジェ,なんてマニアックな.」
「普通に音を鳴らす魔法でやった方が良くない…かな?」
「ル・メールさん,今すごいマナ衝撃波が飛んできましたが,何をしたのですか?」
と,先生まで寄ってきた.
「ほほほ,先生! わたくしの魅力を最大限に表現する魔法ですの.」
「…ル・メールさん,決して街中でやってはいけませんよ.」
「えっ! さすがのわたくしでも,知らない人たちには見せつけませんの.」
「ぷっ!アンジェなら,やりそう.」
「クロエ!失礼ですの.」
ヴィッセンスブルク大学校 24号館 202号教室
- 第6紀 363年8月17日(土曜日)2刻
「古典魔法である“四大元素魔法”は神話時代から長い期間使われてきましたが,旧アラグニア魔導王朝の初期に,偉大なる三柱神イーファル神の“たとえ話”から生まれた四大元素論自体が間違って解釈されているのではと言う疑問から,五星魔法の原理が発見されると,四大元素魔法は五星魔法に取り込まれたり,衰退して使われなくなったりしました.四大元素魔法は精霊召喚魔法の代替として利用され,…」
「五星魔法は,5つの根源,つまり,“光”,“物質”,“力”,“三界”,“霊魂”の5つが五芒星のように影響し合っている図が有名です.これらの力の根源について,…」
ヴィッセンスブルク大学校 24号館 202号教室
- 第6紀 363年8月22日(土曜日)2刻
「神話時代に偉大なる三柱神エルファル神が“聖典”と共にお与えくださった“神聖儀式魔法”があります.“神官”は,精霊界から天使様を召喚して,天使様に祈願することで奇跡が起こります.ちなみに天使様も魔法陣を用意して奇跡を起こされているので,奇跡も五星魔法なのかもしれませんね.
なお,皆さんマギアスですので,普通,神官にはなれません.神聖儀式は聖典に記された行動原理に従い,生きることが必要です.マギアスになっていること自体がそれを難しくしています.例えば,十二戒律の十一項,同胞に偽りを語ることなかれ,など,最たるものです.マナを持って生まれた後,マギアスになるか,神官になるかを選択する必要があります.」
ヴィッセンスブルク大学校 24号館 202号教室
- 第6紀 363年8月47日(土曜日)2刻
「その後,偉大なる三柱神イーファル神は精霊を生み出され,“精霊召喚魔法”をお与えくださいました.精霊召喚魔法は,魔族どもに魔法が発見される前の時代では主流でした.精霊魔法は発動スピードや自由度,消費マナとも,五星魔法に勝てませんが,精霊が自分で考えて行動してくれるなど,五星魔法にはない利点があります.そのため,マギアスでも精霊を飼っているひとは多いですね.精霊は天使様ほど聖典に従ってなくても,融通を利かせてくれますので,日頃から精霊と仲良くしておくことが大切です.今日は,大学校で教育訓練用に飼っている精霊たちに精霊召喚魔法を教えてもらいましょう.」
「わたし, 精霊 ちゃんに 初めて 会うの. 楽しみ.」
「わたしも飼ってないよ.」
「わたくしは家で4種類とも飼っていますの.」
精霊には四大元素論を意識して,三柱神イーファル神が生み出したので,意外と分かりやすい面がある.サラマンドラ,シルフ,ウンディーネ,ノームの4種類がいて,それぞれが,実在しない火,風,水,土の元素を取り扱っているが,まるで四大元素が実在するかのように,きれいに系統立てられている.
「サラマンドラ ちゃん だ. かわいい.」
火壺の中に灰が敷き詰められており,そのうえで蜥蜴のような形の炎がゆっくりと動いている.リエリたちにはサラマンドラを貸してくれたので,精霊召喚魔法の練習をする.
「精霊語で話さないと通じないよ.」
「うん.」『こんにちわ. 私は ガブリエリナ・フォレシガール です. サラマンドラ さん 私が あなたの お名前を 聞くの 許して.』
『我はマギステル=クィンゲンテーシムス=ヴィーケーシムス=テルティウス=マグナエ=スコラエである.青髪の乙女,我で精霊召喚の魔法を唱えるべし.』と言い残し,一旦,精霊界へ帰った.当然授業だから,精霊を精霊界から召喚するところから練習するのである.
五星魔法ではマグニルたちに魔法を発動するには“呪文”が必要と信じ込ませるために,マギアスたちは嘘の呪文を唱えているが,五星魔法では本当は,呪文は必要ない.
しかし,精霊召喚魔法は精霊と精霊語でお話をして,何をしてほしいか伝える必要があるので,これがマグニルには“呪文”に聞こえるのである.
『私,ガブリエリナ・フォレシガール は,灼熱の マギステル=クィン ゲンテーシムス=ヴィーケー シムス=テルティウス=マグナエ=スコラエに 乞い 願う.ここ 物質界 に 姿を現し たまえ.』【精霊召喚対価献饌-37Kマナエルグ消費】
何もない空間から炎が巻き上がり,そこからサラマンドラが姿を現して,つぶらな瞳でリエリを見つめ,少し首をかしげる.
『私は この木の 棒に 炎を 灯す ことを 望む.叶え たまえ.』
『我,その願い,11Kマナエルグのマナと交換に,叶えよう.』
『私 了承 する.』リエリとサラマンドラがマナで接続される.
『承知.』【11Kマナエルグ譲渡】【第21領域でガブリエリナ・フォレシガールと接続 接続先からマナ代替供与 精霊接触法印 第19階梯魔法 発火 発動―3Kマナエルグ消費】
ボッ!と,木の棒の先に炎がつく.
「すごい!できた よ!」『ありがとう. すてきな 友達.』と,サラマンドラにお礼を言う.
リエリは家で精霊を飼いたいと思ったが,きっと両親にダメと言われるだろうなと思っていた.
「わたしが 返して くるね.」
授業後に,借りた精霊を教授の研究室へ返す必要があったので,リエリは火壺を抱えて持っていた.大学校でしか,会えないと思うと別れ惜しいものである.灰がたくさん入った火壺の中でサラマンドラがいじられ疲れて,ぐっすりと寝込んでいった.
「うん,よろしくね.第二食堂で待ってるよ.」
「わかった.」
リエリはまるで妊婦かという歩き方でボチボチと壺を持って歩いていた.そこに,例のエルフ3人とすれ違う.リエリはサラマンドラばかりを気にしていたため,全く気が付かなかった.
「ハーフトールマンが使いパシリさせられているぞ.」
「ふふ,やはりふさわしい待遇を受けているようで,とてもいいな.」
「いたずらしたいぜ.そうだ.」
突然,下っ端エルフに後ろから膝カックンされ,
「ふぇえぇ〜っ.」
リエリはそのまま後ろにひっくり返った.火壺を割っていけないと思い,しっかりと思っていたため,壺の中身の灰を頭にかぶった.
ゴッチン.そして床に頭を打ち付ける.
「いたい!」
口の中も灰だらけになった.
「「「アハハハ.」」」
「ハーフトールマンは灰だらけなのがお似合いだな.」
「灰かぶりのハーフトールマン,うけるぞ.」
リエリは口の中から灰を吹き出し,
「ぶほっ! ハーフ トール マン じゃなくて,リエリ だよ!」
と,リエリは怒って,昔エリーがアンジェに言った言葉を引用して,エルフに口答えした.
「「アハハハハハ!」」
「灰かぶりのリエリ,か!おもしろいな.」といい,【二つ名命名 “灰かぶりのリエリ“】と,リエリに断りもなく勝手に二つ名をつけて,去っていった.
リエリはサラマンドラが心配になって,探したところ,まだ壺の中にいたが,先ほどのごたごたで目を覚ましていた.
『青の乙女は灰まみれである.そなたは大丈夫か?』
『私は とっても 大丈夫 だよ.』
そう言い,起こしてしまったお詫びにサラマンドラにマナをあげて,こぼれた灰を集めて壺の中に手ですくっては戻していた.
しばらくすると,エリーとアンジェが走って,リエリのところにやって来た.どうやら,さきほどの様子を見ていた他の女子生徒が,リエリが男子エルフたちにいじめられていると,エリーのところに言いに行ってくれたらしい.
「リエリ,大丈夫かな?」
「灰まみれなの.」
「あのエルフたち,ほんとなんなのよ.」
「サラマンドラ ちゃんは 大丈夫 だよ.わたしは たんこぶ できたけど.」
「リエリ,手でやっても時間がかかるし,汚れるばっかりだよ.」と,エリーは魔法で灰を集めて,壺に戻してくれた.そして,リエリを手洗いに連れて行って,魔法を使って水で服ごとリエリを【洗濯】で洗って,魔法で【乾燥】させた.
後日,リエリに変な二つ名がつけられていることに,エリーが最初に気が付いた.
「あのエルフたち,なんてことするのよ!」と,エリーは怒っていたが,
「“灰かぶり の リエリ”.…結構 いい 二つ名 かも.」と,リエリは意外といい意味にとらえた.
読書が好きなリエリは有名な“灰かぶり姫”の話を当然知っており,そのお話では姉たちにいじめられていた“灰かぶり姫エラ”が,最後には王子様に求婚されてハッピーエンドで終わる話だったので,その逸話と自分と思い人とを重ねて,自分もハッピーエンドになりたいと思ったからである.




