13 五年前の"あの日"②
ブレイドはソフィアを背中に乗せて急いで帝国へ向かって飛んだ。
しかし、最初からゼインと離れた瞬間を狙っていたのか、別の暗殺部隊が現れ、ブレイド達に攻撃を仕掛けてきた。
ブレイドは、それを一人で防ぎ続けた。
「(俺に魔法をわざと使わせようとしている・・・!?)」
そう気付きながらも、攻撃を防がなければソフィアに当たってしまう。
とにかく帝国へ行けばアランの部隊がいる。
自分の体に攻撃が当たり、痛みに顔を歪めながら飛び続けた。
「ブレイド!」
「!!」
後ろから呼び声が聞こえて振り返ると、銀竜姿のゼインと、鷲姿のルイスが見えてブレイドとソフィアは安堵した、
―――・・・次の瞬間。
パァンッ!!
「「!?」」
敵の攻撃を受けて二つの腕輪が弾け飛んだ。
それは地上へと落下していく。
絶望の中、ソフィアが叫んだ。
「ブレイドッ!!もう魔法使っちゃダメ!!すぐに宮廷の宝物庫に行って魔法石を!!」
「・・・っ、はいっ!」
ブレイドは、とにかく攻撃を避けながら飛んだ。
ソフィアに当たりそうになった攻撃だけを魔法で跳ね返す。
魔法を使いすぎると、それを皮切りに魔力が暴走する可能性があるため、最低限に抑えて必死に飛んだ。
ラドリス帝国領に入ると、ゼインとルイス、そして待機していた騎士部隊がブレイドを攻撃していた暗殺部隊を滅したのが見えた。
帝都へ行き、宮廷前に舞い降りると、ソフィアはすぐに宮廷にある宝物庫へと走った。
ブレイドは人の姿になると、荒れた呼吸を整えながら、母のその後姿を見送った。
「ぐっ・・・!」
地面にうずくまり、全身の痛みを抑える。
暗殺者たちから受けた傷口から血が流れて、次々と地面に落ちていく。
「しっかりしろっ!!」
ゼインの声が聞こえ、顔を覗き込まれる。
「ゼイン!!宮廷宝物庫に魔法石がないっ!!」
「なっ・・・!?」
アランの言葉にゼインが絶句した。
宝物庫にあった筈の魔法石は、一つもなかった。
あり得ない・・・、と呟くゼインの声。
「・・・っ」
ブレイドは両腕で自身の体を抑えた。
全身の痛みと恐怖。
ブレイドのその感情に反応するように、己の中の魔力が膨らんでいくのが分かった。
胸が燃えるように熱い。
息苦しい・・・。
ゼインがアランと共に走り出し、代わりに宮廷から走ってきたフロリスがブレイドの背中を撫でた。
「っ、」
「落ち着いて、大丈夫よ。」
「フロリス・・・っ、はなれていてくれ・・・!」
「大丈夫。今アランが別の宝物庫に取りに言ってくれてるから、間に合うわよ」
視界が霞む中、フロリスがそっと微笑んでくれた。
「おやおや、まだ生きていたのですか?」
クスクスと笑う声が聞こえた。
顔を上げると、政務官が三人、嫌な笑みを浮かべながらブレイドを見下ろしていた。
「貴方達!早く医療班を呼んでっ!」
ソフィアが宮廷から出てきて、こちらに駆け寄って来る姿が見えた。
ブレイドの様子に焦るソフィアに反し、政務官たちはその命令に従うことなく、こちらを眺め続けている。
「何やってるのっ!早く医療班を――・・・っ」
ソフィアが走りながら叫ぶと、その腕を政務官が掴んだ。
「!?」
「少し計画が狂いましたが、これだけ邪竜が弱っているなら問題ないでしょう。」
ククッと笑う声。
「ソフィア皇妃。魔法石は我々が持っています。邪竜を助けたいなら、我らと共に来てください」
「なっ・・・!!」
「貴方達・・・っ」
ソフィアとフロリスの驚愕する声が聞こえた。
それと同時に、ブレイドたちの周りを暗殺者たちが取り囲む。
すべて、この三人の政務官たちの陰謀だった。
「ソフィア皇妃と邪竜が帝国に残っていたなら、ここまで大騒動にはならなかったのですがね。帝国内で邪竜を殺してソフィア皇妃を攫えば良かっただけですから」
「・・・っ」
「ゼイン陛下と一緒に出掛けられたので、親子纏めて暗殺しよう、と計画を変更しましたが、・・・やはりあの程度の暗殺者たちではゼイン陛下とルイス卿相手では無理でしたな。」
「当初の予定通りゼイン陛下だけなら暗殺も問題なかったでしょうがな。」
「違いない。」
楽しそうに笑いながら言う政務官。
ブレイドが魔力を必死に抑えながら痛みに震える体で政務官を見上げると、政務官は虫を見るような目でブレイドを見下ろしていた。
「邪竜は、この世に不要な存在。脅すための人質くらいしか使い道がない。
しぶとく生き延びたなら、死ぬ前にこれくらい役に立ってもらわなければ。」
「―――っ!!!」
自分の中で、何かが弾けた。
憎悪。
その感情と共に魔力が溢れ出した。
・・・気付いた時には、もう遅かった。
ソフィアと政務官、そしてフロリスを吹き飛ばし、帝都上空にブレイドの魔力が渦巻いた。
宮廷が、
帝都が、破壊されていく。
ブレイドを中心に、嵐のように吹き荒れる魔力。
恐怖に慄く貴族たちの姿。
そして、視界の端に見えた、フロリスの姿。
「・・・っ、フロリス・・・」
血を流して倒れているフロリス。
力無く横たわる彼女にアランが駆け寄り叫ぶ姿が見えた。
「(俺が・・・、俺がやったのか・・・っ)」
渦巻く魔力を見上げて、ブレイドは手が震えた。
――心の中で、何度も繰り返される声。
みんな、消えてしまえばいい。
駄目だ、抑えろ!
こんな奴ら、みんないない方がいいだろ?
駄目だ、俺は誰も殺したくない!
「ブレイドッ!!」
ゼインの声が響き、結界が張られた。
魔法石が見つかり、騎士たちの手でゼインの援護をするように魔法石の結界がさらに作られる。
ゼインの隣で、ソフィアが二つの魔法石のカケラに魔力を込めている。
二人とも、全身から流血していた。
「父上、母上・・・っ」
俺が・・・、俺が、傷つけた。
厄災。邪竜。そんなわけない。俺は違う。
ずっと、そう思ってきた。
なのに・・・
こんな力、
"厄災"そのものじゃねぇか・・・。
「ブレイドに腕輪を付けないと・・・っ!!」
「だが、今結界の中に入るのは危険だっ!!」
必死に止めてくれようとする両親。
ブレイドを取り巻いていた魔力が、自身の体も傷つけ始めた。
しかし、もう痛みも何も感じなかった。
ブレイドは、ゆっくりと息を吐いた。
「もう、いい・・・」
ブレイドは顔を上げると、視界が滲む中、自分を産んで育ててきてくれた、大切な二人に向かって言った。
「父上、母上・・・
俺をこのまま、死なせてください・・・っ」
「「っ!!」」
ゼインとソフィアの、絶望する表情が見えた。
そんな二人の顔を見続けることが出来なくて、顔を俯かせる。
こんな俺は、もういなくなってしまった方がいいんだ。
大切な人たちを傷つけてしまうことしかできない自分なんて。
この世から消えてしまえ。
・・・ふわり、と視界の端に、綺麗な髪が見えた気がした。
顔を上げると、母が優しく微笑んでいた。
魔力で体に傷が付けられていく中、何でもないような様子でブレイドの前に座っていた。
「っ、なんで・・・!」
ブレイドが悲痛な表情で言うと、ソフィアはニコッと笑ってブレイドの体を抱き締めた。
「・・・っ、」
「ブレイド、大丈夫よ・・・」
ソフィアは優しくブレイドの手を握ると、両手首に腕輪を付けた。
金色の腕輪。
「っ、ははうえ・・・っ」
「愛してるわ、ブレイド・・・」
結界内で渦巻いていた魔力が段々と治まっていく。
母の温もりに包まれて、意識が遠のいていく中、声が聞こえた。
「ブレイド、生きなさい。生きていれば、きっといいことがたくさんあるわよ。」
「―――・・・」
「貴方は、女神様に・・・私たちみんなに、愛されているのだから。」
そう言って微笑んだ顔が、俺の中に残る、母の最期の姿だった・・・。
哀しい結末・・・。
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今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。




