12 五年前の"あの日"①
ヘスス族から黒竜が生まれた事により、世界が荒れた。
ヘスス族を求めていた国々が、
「ソフィアが竜族の妻になったから厄災が生まれてしまった」
そう言って騒ぎ立てた。
ラドリス帝国内も荒れた。
黒竜が生まれた事で、ソフィアの能力が必要となったが、それと同時に厄災をこの世に生み落としたソフィアを嫌悪するものも増えた。
「腕輪は作ってもらわないと困る。
しかし、厄災を生み出したソフィアの存在は疎ましい」
ソフィアも、ブレイドを守るのに必死だった。
「生まれてきたこの子に罪はない。そうでしょう?ゼイン・・・」
愛する息子を手にかけようとする者たちから、ソフィアは必死に守り続けた。
* * * *
ブレイドは、言葉を切ると、ゆっくりと息を吐いた。
「世界の期待に反して、黒竜が・・・俺が生まれた。期待していた分落差が大きかったんだろうと思う。だから、俺へ向けられる視線は・・・まぁ、お前の想像通りだ。一部の者たちは、それでも俺に"創造"魔法が受け継がれているのではないかと希望を持っていたが、残念ながらそれも受け継がれていなかった。」
「・・・っ」
「"母上を解放しろ"、"黒竜がいるから母上がラドリス帝国に縛られてるんだ"とか言って騒ぐだけの連中ならまだマシな方だった。ただ無視すればいいだけだからな。・・・だが、厄介なのは強行に出た奴らだった。」
ブレイドは、過去を思い出すように目を細めた。
「"黒竜を殺さなければ交渉に応じない"なんて言う国も出てきて、俺の暗殺を企てる奴らも出てきた。」
「えっ・・・」
「まぁ、"来るかもわからない金眼の天使を待つより目先の利益を優先"って奴らが多かったんだよ。過去にも黒竜は何度も生まれたが、その度に必ず金眼の天使が現れてくれたわけじゃないからな。」
ブレイドはそう言うと、アイリスを見て微笑んだ。
「俺は、運が良かった。お前が来てくれたからな。」
ブレイドはアイリスの髪に触れるだけのキスをした。
そして、アイリスの肩に腕を回して引き寄せると、また口を開いた・・・。
* * * *
ソフィアは、息子を守ると同時に、自分の身も守らなければならなかった。
ソフィアに接触してくる貴族、王族・・・。
そのほとんどが下心を持つものばかり。
社交界で飲み物一つ飲むのにも警戒しなければならないほどだった。
ソフィア自身、心優しく人望もあったため、ソフィアのことをヘスス族だからという偏見で見ていない者たちは、ゼインと共に彼女を守った。
また、儚げなのに芯のあるソフィアの、健気に息子を守り続ける姿に心を打たれる者たちも出てきて、少しずつラドリス帝国内の空気が変わっていった。
しかし、そんな時、事件は起きた・・・。
ブレイドが、十歳を迎えた年だった。
「ペリア公国から手紙が来た。ヘスス族の生き残りが見つかったらしい。」
ゼインの言葉に、ソフィアは目を見開いた。
「見つかったって・・・もう何年もいないって言われ続けてたのに、なんで今頃・・・」
「あぁ・・・、罠かもしれんが、ペリア公国に一度出向くしかないだろう。」
ゼインは眉間に皺を寄せながら溜息をついた。
これまでに、何度もこういった情報で世界は振り回されてきた。
しかし、今回はヘスス族の領地を治めるペリア公国からの情報。
行かないわけにはいかなかった。
ペリア公国へ向かう準備が着々と進められる中、ソフィアはブレイドと共に宮廷を訪れ、正装服に身を包んだゼインを呼び止めた。
「ゼイン・・・」
「ん?」
「私ね、何か・・・凄く嫌な予感がするの。」
ソフィアは胸の前で両手を握りしめた。
「・・・私とブレイドも、一緒に連れて行ってくれない?」
ゼインは目を見開いた。
「何を言っているんだっ、罠だった場合お前たちを守り切れる保証が無いのだぞ!」
「えぇ、分かってるわ!でも・・・」
顔を俯かせるソフィア。
そんなソフィアの肩に、ゼインはそっと手を置いた。
「・・・ソフィア。今お前たちが国外に出るのは危険だ。近年は小国も落ち着いてきたが、まだお前とブレイドを狙ってくる者たちも多い。」
「・・・・・・」
「ここにいれば、ルイスとクレディがお前たちを守ってくれる。・・・わかるな?」
ゼインは諭すように言った。
しかし、ソフィアは首を横に振った。
「・・・気になることがあるの。」
「気になること?」
「えぇ・・・、ずっと行かなきゃって思ってたの。でも、行けなくて・・・。今行っておかないといけない気がするのよ・・・っ」
ソフィアはゼインの胸にしがみついて悲痛な表情で彼の顔を見上げた。
「お願い!ゼインっ!私たちも連れて行って・・・っ!」
必死に訴えるソフィアに、ゼインは悩んだ末、承諾した。
ソフィアとブレイドがゼインに同行することが決まり、ゼインたちの護衛を強化することになった。
ルイス率いる近衛騎士精鋭部隊は、ゼイン、ソフィア、ブレイドの護衛に。
そして、アラン率いる近衛騎士部隊は、ラドリス帝国に残り、従来の規定通り国防にあたった。
馬車の中で、久しぶりに三人の時間を過ごした。
今思えば、本能で何かを感じていたのかもしれない。
とても、穏やかな時間だった・・・。
* * * *
ブレイドは、深く溜息をついた。
過去に・・・後悔に、蝕まれてしまいそうな心を繋ぎとめるように、アイリスの頭に頬を寄せる。
アイリスは顔を少し動かして、こちらを見上げた。
「・・・無理して話さなくていいよ。辛いならまた別の日に――・・・」
「いや、いい。・・・今日、すべて話す。」
ブレイドは顔を横に振ると、アイリスの肩に回していた手を離し、彼女の手を握った。
そして、軽く手を引いてブレイドの膝の間に座るよう促すと、アイリスは何も言わずにそこに座った。
アイリスの体を後ろから抱き締めて自身の体に寄りかからせる。
アイリスの温かさと重みが、彼女が傍にいてくれるという安心感を与えてくれる。
ブレイドは深呼吸をすると、ゆっくりと口を開いた・・・。
* * * *
ペリア公国は、ラドリス帝国の訪問を歓迎した。
貿易国ということもあり、将来貿易相手のトップになる可能性のあるブレイドに対しても他の者たちと変わらぬ扱いをしてくれて、少し驚いたのをよく覚えている。
結果的に言うと、ペリア公国から出された手紙・情報は偽物だった。
「我が国が把握しているヘスス族の生き残りは、ソフィア皇妃だけだ。どこの誰がそんな手紙を書いたのか分からないが・・・、久しぶりに顔を合わせたのだ、ゆっくり滞在するといい。」
国王はそう言うと、ソフィアへ視線を向けた。
「・・・ソフィア。君の目的は、ヘスス族の居住区だろう?行ってくるといい。」
「はい。」
ソフィアは立ち上がると、ゼイン、ブレイド、ルイスと共にペリア公国の城を後にした。
ヘスス族の居住区は、魔法石の採掘場のある森のさらに奥。
そのエリアは特に魔素濃度が高い。
採掘場までならゼイン達も問題なく行くことができるが、居住区は体に負担がかかるため、ソフィア以外は採掘場の前に広がる森で待機した。
ソフィアは一人で居住区に入り・・・帰ってきた。
そこで何があったのか、聞かされていない。
しかし、少し思い詰めたような、暗い表情をしていたことだけは、わかる。
ペリア公国を出国した後に、事件は起きた――。
「敵襲だっ!!」
「「「!!」」」
どこに雇われたのかも分からない、暗殺部隊。
すぐに騎士達が応戦したが、暗殺部隊の方が優勢だった。
あのルイスが押されるくらいだ。
ゼインも剣を振りかざし、魔法を放ち応戦した。
狙いは、ブレイドの命とソフィア。
ゼインも暗殺できれば尚良い、といった勢いで襲ってきた。
「ブレイドッ!!黒竜になってソフィアを連れて帝国へ戻れっ!!」
「ゼインっ!?何言ってるの!?」
ゼインは目の前の男を剣で薙ぎ払うと、ソフィアとブレイドを振り返った。
「ここにいては危険だっ!」
「ですが、父上は・・・っ!!」
「必ず後を追う!!行けっ!!」
ゼインの言葉に、ブレイドは黒竜の姿に変わり、ソフィアを背中に乗せると、すぐに飛び立った・・・。
五年前のお話。
ブレイドが体験したことなので、ブレイド視点で、彼が理解している範囲でのお話。
長いので区切ります。
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今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。




