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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第三章

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1 甘い空気

 帝都へ来て怒涛の半月が終わった。

 アイリスは、金眼の天使として各国の王や使者との謁見。

 ブレイドは、成人の儀と皇太子就任式典。

 そして最後に舞踏会、と連日の大きな行事を終わらせて、帝都の慌ただしさがようやく落ち着いた。


 舞踏会を終えた翌日。

 皇太子宮でいつもの朝を迎えたアイリスは、いつものように使用人達に手伝ってもらいながらドレスに着替えていた。

「連日の政務お疲れ様でした。」

「ありがとうございます」

 エマはいつものように予定表の書かれた紙を手に持っていたが、それを見る事なくアイリスを見た。

「本日はゼイン陛下から休暇を頂いておりますので、ブレイド様とゆっくりお過ごしください。」

「はい。・・・え?」

 アイリスは顔を上げた。


「ブレイドと、過ごす?」


「はい。」

 エマは、こくりと頷いた。

 アイリスは固まった。

 途端に頭の中に過ぎる数々の出来事。

 草原でブレイドに告白されてキスをし、そして謁見の後アイリスが彼の告白の返事をしてキスをした。


 そう、キスをしたのだ。

 ブレイドと。


「〜〜〜〜〜っ」

 アイリスは顔を赤く染めた。

 ここ数日は気を張っていたからブレイドと普通に話したりダンスをしたりできたが、冷静になった今、一体どんな顔をして彼と会えばいいのか分からなかった。

 顔を真っ赤にしているアイリスを見た使用人二人は、「あらあら」「まあまあ」と言いながら楽しそうにクスクスと笑った。

 エマも使用人達同様クスッと小さく笑った。


「ブレイド様がやっとアイリス様に想いを伝えられたので私も安心いたしました。一体いつ言われるのかとヤキモキしておりましたので。」

「私共には"アイリス様をブレイド殿下の婚約者として扱うように"と説明しておきながら肝心のアイリス様には告白なさっておりませんでしたものね!」

「えっ!!」


 アイリスは彼女達の言葉に驚いて使用人達とエマを見た。

「ブレイドがそんな事を言ってたの・・・?」

「えぇ。ですから私がアイリス様の侍女としてお傍に遣えることになったのですから。」

「・・・!」

 アイリスは口元を抑えた。


 初めて皇太子宮に連れて来られた時に感じていた違和感。

 何故自分に侍女が付けられたのか。何故使用人達がこんなに身の回りの世話をしてくれるのか。そして、ゼイン陛下がアイリスを皇太子宮に住まわせる許可を出した理由。


「ブレイドが言っていたのって、本当だったの・・・?私を妻にするために皇太子宮に入れたって・・・」

「はい。」

「じゃ、じゃあ、二年前にエマさんが来た時から私の事を、その・・・好きだったってことも・・・?」

「はい。」

 エマは微笑みながら頷いた。

「以前アイリス様にもお伝えしたかと思いますが、ブレイド様はアイリス様のことを本当に大切に思われております。私がアイリス様にお会いした時からずっと、アイリス様のことを一人の女性として見てありましたよ。」

「・・・っ」

「ちなみに私と近衛騎士達の前でブレイド様がアイリス様の額にキスをされてあったのは、彼らに牽制するためです。俺の女アピールですね。」

 エマの言葉にアイリスの頬がまた赤く染まった。

 使用人達は「まぁ!ブレイド様が二年前にそのようなことを!」とキラキラした顔で盛り上がっていた。


 エマはそっと二年前の出来事を思い返した。

 エマがアイリスの教育係として草原の別荘に派遣されたあの日。

 ブレイドはアイリスの額に口付けをしたが、その前に一瞬だけ、アイリスの唇にキスをしようとして思いとどまったブレイドの姿もエマは目撃していた。

 あの時にブレイドがアイリスの額ではなく唇にキスをしていたら、その時点で二人は恋仲になれていたかもしれない。


「(無事にお二人が恋仲になれたので、今となってはどちらでも良いのですが。)」

 何はともあれ、二人が無事に結ばれて良かった、とエマは小さく微笑んだ。



 使用人達はエマの言葉に好奇心をくすぐられたのか次々にアイリスに尋ねた。

「プロポーズの言葉は何だったんですか?」

「あ!もしかして、黒竜のお姿になられた時にどこかへ出掛けてありましたがその時ですか?」

 キラキラとした笑顔で詰め寄ってくる使用人達にアイリスは顔を赤くしたまま後退った。

「そ、それは・・・っ」

「「それは?」」



『お前が、好きだ・・・』

 美しい夜空の下で、

 草原に横になって交わされた初めてのキスは濃厚で。

『ずっと前から、俺はお前のことを愛していたんだっ』

 初めて見たブレイドの感情的な表情で紡がれた愛の言葉の数々――。



 アイリスは羞恥に顔を染めた。

「・・・っ、言えませんっ」

「「ええっ!」」

 アイリスは顔を真っ赤にして首を横に振った。

「教えてくださいよ~!」

「聞きたいです~!」

「~~~~っ、言えませんっ!ごめんなさいっ!」

 楽しそうに抗議の声を上げる使用人達に、アイリスは羞恥に耐えきれず使用人達の横を走り抜けた。

 すぐにこの部屋を出ないと彼女たちはアイリスが話すまで開放してくれない!

 そう思って部屋の扉を開けて廊下に飛び出したが・・・。


「っ!」

「おっと。」

 廊下に立っていた人物の胸に飛び込む形でぶつかってしまった。

 驚いて顔を上げると、ブレイドがアイリスを抱き留めて少し驚いた表情でこちらを見下ろしていた。

「っ!?」

「どうしたんだ?そんなに慌てて・・・」

 何事かと心配そうにアイリスの顔を覗き込むブレイド。

 後ろから使用人達の歓喜する声が聞こえた。

「~~~〜っ」

 アイリスは顔を赤くして両手で覆った。

 ブレイドから離れないといけないのに、自分を心配してくれている彼の腕を無理やり解くこともできない。

「???」

 ブレイドは使用人達とアイリスの様子に首を傾げた。


「全く・・・」

 見かねたエマが溜息をつきながら廊下に出てきてブレイドに言った。

「彼女たちがアイリス様に、ブレイド様のプロポーズの言葉を尋ねていたんです。」

「!・・・あぁ、そういうことか。」

 それでこんなに赤くなっているのか、とブレイドは納得しながら腕の中に収まっているアイリスの頭を撫でた。

 アイリスが部屋を飛び出してきた理由が可愛らしくて思わずにやけてしまいそうになるが、それを抑えてブレイドはこちらを楽しそうに見ている使用人達を見た。


「あまりアイリスを困らせるな。・・・それに、お前たちの聞きたがっている言葉は俺とアイリスだけのものだ。悪いがお前達にも教えられない。」


「・・・!」

 ブレイドの言葉にアイリスが顔を上げると、ブレイドがそれに気付いてアイリスに微笑みかけた。

「な?」

「・・・、うん・・・」

 アイリスが、こくんと頷くと、また恥ずかしくなったのか両手で顔を覆った。そんなアイリスに小さく微笑んで控えめながらも幸せそうに彼女を見つめるブレイド。

 使用人達からまた黄色い声が上がった。


「・・・今日はブラックコーヒーありましたっけ?ものすごく飲みたい気分です。」

「ございますよ。良いものを仕入れております。私もご一緒してよろしいですか?」

 エマとルイスは甘い空気の二人を眺めながら言った。



 宮殿の食堂に行き、ブレイドとアイリスは朝食を終えた後、いつものように食後のコーヒーを飲んでいた。

「今日はアイリスも休みなんだろ?」

 コーヒーカップを片手にブレイドがアイリスを見て尋ねると、アイリスが短く返事をしながら、こくんと頷いた。

 ブレイドはカップを受け皿に置いて少し考えた後、またアイリスを見た。

「疲れてるなら今日一日ここでゆっくりしてもいいが・・・お前がいいならクレディの屋敷にでも顔出しに行かないか?」

「!行くっ!」

 ブレイドの言葉にアイリスは花が咲いたように笑顔になった。

 そんな彼女にブレイドは小さく微笑みながら頷いた。


「この間ね!お父さんとお母さんに会ったんだけど、あんまり話できなくて、また会いたいなって思ってたの!」

「そうか」

「うん!あ、あとテオがね、人の姿になる練習をいっぱい頑張ってるんだって!だから、たくさん褒めてあげなきゃ!」

「そうだな」

 今から楽しみというようにアラン、フロリス、テオの話をするアイリスに、ブレイドは相槌を打ちながら優しい眼差しで彼女を見つめた。

 今回の皇太子の件で彼女に多くの負担をかけてしまった。だから、本格的に治癒の仕事が始まる前に少しでも息抜きをしてほしい。

 ブレイドはそう思いながらも、アイリスの可愛らしい笑顔と食後のゆったりとした時間が幸せで、それを味わうように時間をかけて残り少ないコーヒーを少しずつ口に運んだ。


 エマとルイスはそんな仲睦まじい二人を見て微笑みながら、使用人達から差し出されたブラックコーヒーを口に運んだ。

第三章 開始

初っ端から甘い空気の二人。

ラブラブな二人を書くのが楽しすぎる。

けど、第三章は少し暗めのお話になるかも・・・。


拙い小説ですがお付き合いいただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。

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