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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第二章

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21 ファーストダンス

 ゼインはアイリスの手を握ってホールの中央に立った。

 会場にいるすべての者たちの視線がゼインとアイリスに集まっている。

「アイリス。」

「!はい」

 アイリスがゼインから名前を呼ばれて顔を上げると、ゼインがアイリスを見下ろしていた。


「そう緊張しなくても大丈夫だ。全て私に任せていなさい。」


 音楽が流れ出し、ゼインはアイリスの手を握って体を寄せた。

 そして、一歩進む。

「!」

 ゼインの動きに合わせてアイリスの体が自然と動いた。

 流れるようにアイリスの体がホールを舞う。

 しかし、これは魔法が使われているわけではなかった。


「(ゼイン陛下が私をリードしてくれてるんだ・・・!)」


 何気ない動きでアイリスの体を引き寄せてステップを踏んでいくゼイン。

 身長差、体格差、そんなものを微塵も感じさせない優雅なダンス。

 違和感の一切ない動きにゼインを見上げると、ゼインは小さく微笑んだ。


「ほら、大丈夫だろう?」


「~~~~~っ」

 アイリスは顔を赤く染めた。

 大人の余裕。そしていつもの威厳のある表情とのギャップに自然と鼓動が早くなった。

 次の瞬間、アイリスはゼインとのダンスの途中で自分のドレスの裾を踏んでしまった。

「(あっ・・・!)」

「!」

 アイリスの体が傾きそうになり、ゼインが咄嗟にアイリスの腰に両手を当てて持ち上げた。

 ゼインの肩に両手を添えて真上から彼を見下ろしているアイリスと、彼女を見上げているゼイン。

 アイリスの髪とドレスがふわりと気持ちよさそうに宙を泳いだ。


 その鮮やかで美しい光景に会場から歓声が上がった。


 そのままアイリスをふわりと下ろしてゼインはダンスの続きを踊り始めた。


「意外とせっかちなんだな。」

 ゼインはアイリスをからかうようにククッと笑った。

「も、申し訳ありません・・・っ」

「構わん。よくあることだ」

 ゼインはアイリスの体を引き寄せて口角を上げた。


「さっすがゼインちゃん!惚れ惚れするよ」

「本当に素晴らしいですね・・・」

「「・・・・・・。」」

 ゼインのダンス姿にうっとりとするレディアンスと感嘆の声を上げるエマ。

 ブレイドとロナルドはゼインの圧倒的実力に言葉もなく二人のダンス姿を眺めた。


「(落ち着け落ち着け・・・っ)」

 ゼインとダンスをしながらアイリスが深呼吸をすると、それを静かに見下ろしていたゼインが口を開いた。

「・・・アイリス。昨日の演説は本当に素晴らしかった。」

「!」

「心から礼を言う。」

 アイリスがゼインを見上げると、ゼインは真剣な表情でアイリスを見下ろしていた。

 アイリスはゼインの言葉に驚いたような表情をしていたが、すぐに小さく微笑んだ。

「・・・昨日、ブレイド殿下からもお礼を言っていただきました。私の言葉だけじゃ何も変わらないかもしれませんが・・・それでも、少しでも黒竜であるブレイド殿下への考え方を変えてほしかったんです。」

「・・・そうか。」

 ゼインはそう言うと、アイリスの束ねられた髪から落ちてきたそれにそっと指を通して彼女の耳にかけた。

「君は私の妻によく似ている。」

「・・・!」

「私の妻も、君のように温かく深い愛情と芯のある強さを持っていた。私には勿体ないほど美しく、本当に素晴らしい女性だった。」


 音楽が終わると同時にゼインは立ち止まると、アイリスの前に片膝をついてそっとアイリスの右手を持ち上げた。


「"金眼の天使"アイリス・クレディ。ラドリス帝国皇帝でありブレイドの父であるこの私、ゼイン・アレクシアンから其方に最大の敬意を表して。」


 ゼインはアイリスの手の甲にキスをした。


 会場内に溢れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。

 手の甲に口付けをしてこちらを見上げるゼインに、アイリスは頬を赤く染めたままドレスの裾を上げて頭を下げた。



「(まだ顔が熱い・・・っ)」

 アイリスは火照った頬に片手を当てて、ゼインにエスコートされながらブレイド達の元へ戻ってきた。

「ゼインちゃんとのダンス最高だったでしょ?」

「はい・・・っ」

 レディアンスの言葉にアイリスが頷くと、彼女はアハハ!と楽しそうに笑った。

「とうとう天使ちゃんもゼインちゃんの虜になっちゃったねぇ!これはまたおっきなライバル登場じゃないかい?ブレイドちゃん?」

「・・・そうですね。」

 ブレイドは不機嫌そうに呟くと、アイリスの赤くなった頬を指先で優しく撫でた。

 アイリスはゼインに対しての自身の態度に申し訳なくなったのか、ブレイドを上目遣いで見上げて彼の手を握った。

「ご、ごめんね、ブレイド・・・」

「謝るな、馬鹿。」

「ごめん・・・」

「ったく。」

 ブレイドは溜息をつくと、アイリスに向かって頭を下げた。

「!」

「父上には到底敵わないが、あんなん見せられたらやるしかねぇだろ?」

 ブレイドはアイリスを見据えると、彼女に向かって手を差し伸べた。


「次は俺と踊ってくれるか?アイリス」


「・・・はいっ」

 アイリスは嬉しそうに微笑んでブレイドの手に自身の手を重ねた。


「あらぁ可愛い!ブレイドちゃんと天使ちゃんが踊るなら・・・ゼインちゃん、アタシと踊ってくれるかい?」

 レディアンスがブレイドとアイリスを見てうっとりとした後、ゼインの手に指を絡めて彼の腕をするりと撫でた。

「・・・仕方ない、一回だけだぞ?」

 ゼインは溜息をつくと、レディアンスの手を握って頭を下げた。

「おや、アタシの手にはキスしてくれないのかい?」

「お前にはしない。」

「えー!してよぅ」

「他の奴にやってもらえ。あまり我儘言うと踊ってやらんぞ。」

 ゼインはレディアンスの手を引いて歩き出した。


「なら、僕はエマと踊ろうかな?」

 ロナルドがエマを見てそういうと、エマは少し驚いたように目を見開いた後すぐに首を横に振った。

「私はアイリス様の侍女ですので・・・」

「固いことは言わないっ!ほら、踊るよ!」

「!」

 ロナルドはエマの手を引いてブレイド達やゼイン達のいるホールの真ん中に立った。

 エマは戸惑いながらロナルドを見上げた。

「ロナルド様、私では身分不相応ですので他のご令嬢を――・・・」

「エマ、それ以上言ったら怒るよ?」

 ロナルドが目を細めてエマを見据えた。

 真剣な表情のロナルドにエマが口をつぐむと、ロナルドは静かにエマを見つめた後いつものようにニコッと笑った。

「さ!踊ろう。」

「・・・はい。」

 エマは戸惑いながらもそっとロナルドの手に自身の手を重ねた。


 音楽が流れ出して、参加者たちも各々ダンスを始める。


 ブレイドは腕の中で踊るアイリスをそっと見下ろした。

 少し緊張した面持ちながらも、ブレイドの視線を感じて顔を上げたアイリスは、幸せそうにふわりと微笑んだ。

 純粋に、彼女が愛おしかった。

 これが幸せというものなのだろう。


「ゼインちゃん最っ高・・・っ!やっぱりアタシと今夜――」

「断る。」


 ゼインとレディアンスの会話が聞こえてきて、ブレイドとアイリスは顔を見合わせて笑った。




「・・・ねぇ、エマ。」

 ロナルドはそっと腕の中で踊るエマを見下ろして言った。

「今回のこと、全部わかってたんだよね?」

 ロナルドに問いかけられ、エマはロナルドを見上げた。

「はい、なんとなくではありますが。」

「やっぱりね、流石エマ」

 ロナルドはそう言うとニッコリと笑った。


「いつから演技だって気付いてたんだい?」


 ロナルドの問いかけに、エマはダンスをしながら答えた。

「・・・割と初めからです。」

 エマがロナルドに握られた右手を軸にくるりと回ると、彼女の焦茶色の髪とドレスが綺麗に宙を泳いだ。


「そもそもアイリス様とブレイド様が互いを想い合っていることに気付かない政務官方がおかしいのです。それに、ロナルド様は心眼をお持ちですから、ブレイド様、アイリス様、そして政務官方のお考えもすべて分かった上で動かれているのだろうと思って見ておりました。」


 エマの言葉にロナルドは頷くと、そっとエマに向かって微笑んだ。

「黙っていてくれてありがと。」

「いえ。私もブレイド様とアイリス様に早く婚約していただきたかったので助かりました。近くで見ていてもどかしかったので。・・・それに、今回のことでロナルド様が意外にも軟派野郎だということが分かったので私にとっては良い収穫でした。」


 淡々とした口調でいうエマにロナルドは焦ったようにエマの顔を覗き込んだ。


「だからあれはブレイドの背中を押すための演技なんだって」

「その割にはとても楽しんであるように見えましたよ?アイリス様を口説いているロナルド様はしつこくて少々不快でした。」

「え、それって――」

「違います、それはロナルド様の自意識過剰です。」


 エマはそう言って小さく笑った。

 彼女の綺麗な笑顔にロナルドは口をつぐむと、小さく溜息をついた。

「・・・そろそろ僕にも恋のキューピットが来てくれないかなぁ・・・」

「・・・やっぱり軟派野郎ですね。」

「だから違うんだって!」

 ロナルドが声を荒げると、エマがフフッと控えめに笑った。

「分かっていますよ。」

 揶揄うように笑ったエマに、ロナルドは顔を赤くした。




「(やっぱりそうだったか・・・)」


 ブレイドはアイリスとダンスをしている合間に聞こえたロナルドとエマの会話にそっと目を伏せた。

 よく考えれば分かることばかりだった。

 ロナルドは昔から何を考えているか分からないところはあったが、誰にでも優しく、ブレイドがアイリスのことを好きだと分かっていて奪おうとするようなタイプではなかった。

 アイリスを口説く時も楽しんでいる、揶揄っている、という感じで本気度合いもあまり無かったような気もする。

 嫉妬、独占欲・・・様々な感情が先走ってしまい、視野が狭くなってしまっていた。

 今回の件で、ロナルドの立場が不安定になってしまった筈だ。

 ロナルドにとってメリットとなったものは一つもない。

「(情けねぇ・・・)」

 ブレイドは自分の不甲斐なさに深く溜息をついた。


「どうしたの?ブレイド」

 眉間に皺を寄せて溜息をついたブレイドに気づいて、アイリスがブレイドの腕の中で踊りながら小首を傾げた。

 そんな彼女に、ブレイドは首を横に振った。

「いや・・・、俺は気付かないところでみんなに迷惑かけてしまってたんだと思ってな・・・」

「迷惑?」

「あぁ。」

 そう言ってブレイドはまた溜息をついた。

 少し落ち込んでいる様子のブレイドにアイリスは少し考えた後、またブレイドを見上げた。


「・・・なら、迷惑をかけちゃった分、その人達のために頑張らなきゃね」

「!」

「私もブレイドと一緒にその人達に感謝の気持ちを伝えるから、一緒に頑張ろう?二人でならきっとなんでも大丈夫だよ」


 アイリスはそう言って綺麗に微笑んだ。

 ブレイドはアイリスの言葉に目を見開いた後、彼女を愛おしむように目を細めて微笑んだ。


「・・・そうだな」


 今ある幸せは、背中を押してくれたロナルドのお陰だ。

 彼から受けた多大な恩を返していかなければならない。

 ロナルドが何者にも脅かされることなく薬師を続けられるよう、今度は自分が彼を助ける番だ。



 ブレイドは、エマと話しながら幸せそうに踊るロナルドを見つめながら、彼の幸福を願った――。



第二章 完

次回、閑話です。

ブレイドとアイリスを恋人同士にしてあげられて満足です!


ちょっとした小話。

ゼインはレディアンスの手の甲にキスはしません。

過去にレディアンスと親し気にしているゼインが彼女の手の甲にキスをしている姿を見て妻ソフィアが嫉妬して泣いちゃったからです。でもダンスは社交のために仕方ないので「一回だけならいいよ、二回は駄目!」と言われているので、ゼインはそれを今でも忠実に守っています。

・・・という裏話をここに置いておきます。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

まだまだ物語は続きますので、拙い小説ですが、今後もお付き合い頂けますと幸いです!

よろしくお願いいたします。

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