18 君に会いに行くよ
今日は、各国の代表や使者が、金眼の天使に謁見する日。
帝国の馬車に乗って、次々と宮廷に集まってきた。
ガチャっと、キャビンの扉から現れたのは、聖職者の服に身を包んだ男。
宗教国家ディアロスの大司教――アトロイ。
「・・・相変わらず獣が多い国ですね。」
アトロイは周囲の貴族たちをゆっくりと見渡して呟いた。
「金眼の天使様も人族ならば私の国へ現れてくれればいいものを。なぜこんな野蛮な国に現れたのやら・・・」
宮廷内を歩きながらブツブツと呟くように言うと、廊下の先に立つこの国の皇帝の姿を見て立ち止まった。
「我が国を愚弄しながら歩く気分はさぞよかろうな。」
ラドリス帝国の皇帝――ゼインはアトロイを見据えて言った。
アトロイはそんなゼインを見て、ニッと歯を見せて笑った。
「えぇ、全くです。本当に素晴らしい国だ。我が国と異種族は相入れないことを再確認できるのですから。」
「奇遇だな、私もだ。」
アトロイの言葉に、ゼインは同意しながら鼻で笑った。
異種族であるゼインから言われたことが気に食わないのか、笑顔を消すアトロイ。
痛いほどの沈黙が廊下に流れた。
広い廊下に国の王が二人。
ゼインの圧に、警備に当たっている近衛騎士たちは汗を流した。
沈黙を破ったのはアトロイだった。
アトロイは、ゼインに向かって笑みを浮かべた。
「金眼の天使様が竜の城で囚われの身なのは、さぞ哀れ。私共が協力して自由にして差し上げましょうか?」
アトロイの言葉に、ゼインは目を細めた。
「金眼の天使については、天使の現れた領地の王が管理するのが決まりの筈だ。それを破ろうというなら容赦はせんぞ?」
「いえいえ、そのようなことは致しません。我が国は野蛮なことはいたしませんから。」
アトロイはそう言って首を横に振りながら笑った。
ゼインはアトロイの目の前に立つと、背の低いアトロイを見下ろした。
「・・・先月、ディアロスの者と思われる者たちから我が息子と金眼の天使が襲撃された。それに対して貴殿に連絡したはずだが、その件についてはどうするつもりだ?」
野蛮なことはしない、と言いながらも公表前に金眼の天使を横取りしようとしたことを指摘するゼイン。
しかし、アトロイは声を上げて笑った。
「言いがかりはやめていただきたい。証拠がないではないですか。黒魔術?というものについても我が国では寝耳に水。そのような力がありましたら是非とも使ってみたいものです。」
「・・・・・・」
「私共に意見するならば、きちんと証拠を揃えてからにお願いいたしますぞ?」
アトロイはそう言うと、ゼインの体を避けて玉座の間へ向かって歩き出した。
その後姿をゼインは睨むように見据えた。
「ホント、あの国は嫌んなっちゃうねぇ」
「!」
コツコツとヒールの音を鳴らしながら、深いスリッドの入った真っ赤なマーメイドドレスを着た妖艶な女性がゼインへ向かって歩いてきた。
マリニエル諸島連合国の女王――レディアンス。
その美貌を惜しみなく生かした姿は多くの者の視線を集めている。
「せっかく天使ちゃんが現れてくれたんだから少しは仲良くすればいいのに、余計にいがみ合っちゃってさ。」
ゼインの隣に立ってアトロイの歩いて行った方を眺めながら、レディアンスは溜息をついた。
そんな彼女に対し、ゼインは首を横に振った。
「・・・過去三人の金眼の天使はすべてあの国によって消されている。せっかく私の代で現れてくれたのだ。何としても死守せねばならん。」
「まぁ、確かにそうだねぇ。何かあったら力になるよ?ゼインちゃん」
レディアンスはそう言うと、アトロイへ向けていた体をゼインへ向けた。
「・・・その代わり、アタシと一夜を共にしないかい?たまにはいいだろう?」
ゼインに胸を押し付けるように体を寄せて、レディアンスはゼインの首筋から胸元、そしてお腹へと手を滑らせた。
ゼインの勇ましい表情をうっとりと見つめるレディアンスの色気を帯びた表情に、廊下に一列で立っている騎士たちは生唾を呑んだ。
ゼインはそんなレディアンスを見下ろすと、表情一つ変えることなく彼女の両肩を掴んで体から離した。
「私は妻のソフィア一筋だ。彼女を裏切るようなことはせん。・・・いつもそう言っているだろう、レディアンス。」
「つれないねぇ。ま、そこがアンタの魅力だけど!」
いつも通りのゼインに、レディアンスは、アハハッ!と声を上げて笑った。
「代わりにブレイドちゃん食べちゃおっかなー!」
「燃やされても知らんぞ。」
ゼインは呆れたように溜息をついた。
玉座の間。
玉座の据え置かれた壇上に向かって、大国の代表たちが横一列に並んでいた。
宗教国家ディアロスの大司教、アトロイ。
マリニエル諸島連合国の女王、レディアンス。
そして、中央にラドリス帝国の皇帝、ゼイン。
ゼインの後ろには、息子ブレイド、甥ロナルド。
その圧巻の光景に、彼らの後方に整列している小国の代表人とラドリス帝国の貴族たちは手に汗を握るようだった。
「天使ちゃんに皇太子を選ばせるなんて、また粋なことするねぇ。しかも候補者の一人が黒竜のブレイドちゃんとは!」
レディアンスが楽しそうに目を細めながらブレイドを見た。
レディアンスの言葉と視線に気付いてブレイドがレディアンスに向かって頭を下げると、彼女は何故か、可愛いー!と言って笑った。
それに対して、アトロイは小さく鼻で笑った。
「女神様が忌み嫌うと言い伝えられている邪竜が金眼の天使様に選ばれることなどまず無いでしょう。その時は天使様にきちんと説明していただかなければ・・・」
ブレイドと同じ空間にいるのも嫌、と言った様子のアトロイに、ゼインとロナルドは目を細めた。
ブレイドはアトロイの言葉を気にすることなく、ただひたすら玉座を見つめ続けた。
あれから、アイリスとは会っていない。
今日は朝早くから彼女は謁見の準備の為に湯浴みをしたりと忙しかった。
きっと今頃、別室でブレイドとロナルドのどちらのドレスを着るか決めている頃だろう・・・。
「(アイリス・・・)」
ブレイドは、そっと別室にいる彼女に想いを馳せた。
アイリスは、エマ、ルイスと共に宮廷の廊下を歩いていた。
「こちらでございます。」
エマに案内されて控室に入ると、そこにはアランとフロリスが立っていた。
「!お父さん、お母さん・・・」
「アイリス」
フロリスが優しく名前を呼んでくれた。
アランとフロリスは一緒に住んでいた時と変わらない、アイリスの大好きな・・・大切な二人の姿のままそこに立っていた。
予想していなかった二人に、アイリスは涙が溢れ出しそうになった。
そんなアイリスに、フロリスは優しく微笑むと、そっとアイリスの体を抱き締めた。
「大変だったわね、たくさん悩んだでしょう?」
「・・・っ」
「大丈夫よ、貴女が選ぶ道は間違っていないわ」
フロリスがそう言うと、隣に立っていたアランがアイリスの背中に手を当てて優しく撫でてくれた。
「さぁ、選んであげなさい、アイリス」
アランとフロリスに促されて、アイリスはフロリスの肩に埋めていた顔を上げた。
目の前には部屋を仕切る大きなカーテンが下がっている。
エマとルイスが一礼してカーテンを開けると、そこには二つのドレスが並べられていた。
一つは、水色と白色の生地で作られたドレス。
胸元には深海色の宝石が一つ大きく輝いている。
ロナルドが選んだドレスであることが一目でわかった。
フリルをふんだんに使った、天使をイメージするような、可愛らしく美しいドレス。
そして、もう一つは・・・
「―――・・・!」
漆黒の生地に金と銀の小さな宝石がたくさん散りばめられた、シンプルで美しいドレス。
首から鎖骨まで黒のレースで覆われていて、その真ん中に彼の瞳と同じ深紅の宝石が輝いている。
貴方と初めて出会ったあの草原で、
二人で見上げた、
あの日の夜空のような美しさ。
そして、こちらを真っ直ぐ見つめてくれる、深紅の瞳・・・。
『お前が、好きだ・・・』
「・・・ブレイド・・・っ」
アイリスは、両手で顔を覆った。
ブレイド。
私も貴方が好きだよ。
貴方が選んでくれた、
美しい星空のようなドレスを着て、
今、貴方に会いに行くから――
・・・定刻になった。
玉座の間に緊張が走り、ブレイドはゆっくりと深呼吸をした。
アイリスがどちらを選んでも、俺の気持ちは変わらない。
そう思いながらも、俺を選んでくれないだろうかと、密かに期待する。
「(アイリス・・・)」
そっと心の中で呼びかけると、それに答えるようにガチャッ、と扉が開かれる音が聞こえた。
すぐにゼイン、レディアンス、アトロイが片膝をついて頭を下げると、それに倣ってブレイド、ロナルド、その他王族、貴族たちも全員一斉に玉座へ向かって頭を下げた。
コツコツ、とヒールの音が静まり返った玉座の間に反響する。
・・・自分の心臓が痛いくらいに鳴っている。
アイリスは、どちらのドレスを着ているだろうか。
あの男の色に包まれている彼女の姿を想像するだけで胸が苦しくなる。
アイリス・・・。
どんなに綺麗事を並べても、
俺の心は、
俺の色に包まれているお前の姿が見たいと叫んでいる・・・。
「面を上げてください。」
アイリスの声が響いた。
・・・誰かの、息を呑む声が聞こえた。
一気に貴族や王族たちからどよめきが起きる。
「ほら、ブレイド。早く顔を上げて」
ロナルドの声が聞こえた。
ブレイドは、覚悟を決めて立ち上がり、そっと顔を前へ向けた。
「――――・・・っ」
そこには、
ブレイドの選んだ漆黒のドレスに身を包んで壇上に立つ、アイリスの姿があった。
「君の勝ちだよ、ブレイド」
ロナルドはそう言って、いつものようにニッコリと笑った。
アトロイは中年男性で白髪混じり頭をしているイメージ。勿論人族です。
レディアンスは妖艶美女。男女お構いなしに寝込みを襲います。
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今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。




