17 愛を伝える
「お前が、好きだ・・・」
ブレイドの囁いた言葉に、アイリスは目を見開いた。
深紅の瞳が真っ直ぐこちらを見つめている。
自然と鼓動が早くなった。
けれど、素直にその言葉を受け取れなかった。
アイリスは開きかけた口を閉じると、小さく微笑んだ。
「ブレイドは、皇太子になりたいの?」
「・・・は・・・?」
ブレイドが目を見開いた。
そんなブレイドを見つめながら、アイリスは、フフッと笑った。
「皇太子になりたいから私に好きだって言ってるんだよね?」
「・・・っ」
「大丈夫よ、分かってるから」
アイリスは、ブレイドに背中を向けて、ゆっくりと深呼吸をした。
明日皇太子を決めるために、私は婚約者をどちらか選ばなければならない。
今までブレイドは、私を異性として見ている感じはなかった。
頭を撫でて、揶揄って。
私を好きだという態度を見せてくれたことは一度もなかった。
だから、
このタイミングで告白するということは、
ブレイドが皇太子になりたいからなんだ。
草原をゆっくりと歩いて、ブレイドから離れた。
草を踏みしめる音がアイリスの耳に優しく響く。
アイリスは震えそうになる声を必死に抑えた。
「皇太子になりたいならそう言ってくれたらいいのに。そんな、好きだなんて嘘、つかなくていいんだよ?」
心が痛い。
アイリスは溢れそうになる涙を必死に抑えると、草原に座ってゆっくりと横になった。
夜空には綺麗な星々が輝いている。
その美しさに、アイリスは目を細めた。
大丈夫。
私は大丈夫。
泣かない。
草を踏み締める音が聞こえた。
その足音は、アイリスの傍で止まる。
そして、目の前に広がっていた夜空がブレイドの顔で隠された。
ブレイドがアイリスの顔の横に両肘をついて、覆いかぶさっている。
深紅の瞳が、アイリスを真っ直ぐ見つめていた。
彼の口がゆっくりと動く。
「キス、していいか?」
ブレイドの言葉にアイリスは目を見開いたが、すぐに小さく笑って頷いた。
「・・・いいよ」
アイリスはそっと目を閉じた。
あの日、
ブレイドが私の額にキスをしてくれたように、
今回もきっと、彼は私の額にキスをする。
・・・ねぇ、ブレイド。
本当は私のこと、好きじゃないんでしょ?
だから、貴方が唇にキスなんてできないって分かってるよ。
あの時みたいに、私は純粋じゃない。
私は騙されないからね。
「―――・・・」
彼の顔が近づいてくるのが分かった。
優しく髪を払って頬を撫でてくれる。
そして、
唇に柔らかいものが触れた・・・。
「(え・・・?)」
目を開けると、アイリスの視界いっぱいにブレイドの深紅の瞳があった。
ゆっくりと唇に触れていたものが離れていく。
キス、された・・・?
「ブレイ――、んっ・・・」
ブレイドはアイリスの言葉を塞ぐように唇を重ねた。
アイリスの頬に手を添えて、
角度を変えながら、
何度も、
何度も・・・。
「んんっ・・・はぁ・・・っ」
息の仕方が分からずアイリスがブレイドのベストを握り締めると、ブレイドは名残惜しそうにチュッ、というリップ音を立ててそっと唇を離した。
「・・・っ、な、んで・・・」
荒れた呼吸をゆっくりと整える。
心臓が痛いほど動いていた。
ブレイドは真剣な表情でアイリスを見下ろしていた。
「キスしていいって言っただろ?」
「っ、言ったけど・・・」
アイリスは視線を泳がせた。
ブレイドが唇にキスをするとは思わなかった。
彼はキスなんて絶対できない、しないと思っていたから。
ブレイドは赤く染まったアイリスの頬をそっと撫でると、ゆっくりと口を開いた。
「・・・お前の額にキスをしたあの日。本当は、こうしたかったんだ。」
ブレイドの指がアイリスの濡れた唇をなぞった。
「あの日から、俺はずっとお前が好きだった。」
「!」
「でも、俺は黒竜で・・・、皇族で・・・、俺がお前のことを好きだって言ってしまったら、お前を苦しめてしまうんじゃないかと思って、・・・ずっと言えなかった。」
ブレイドは上体を起こすと、アイリスの体を優しく引き起こして二人で向き合って座った。
アイリスの膝の上で、彼女の綺麗な両手を握り締める。
「お前を皇太子宮に入れたのも、皇太子妃に・・・俺の妻になって欲しかったからなんだ」
「・・・っ」
「でも、俺がそれを言えば、命令になってしまうんじゃないかと思ったら、また言えなくなった・・・」
情けない。
不甲斐ない。
アイリスを苦しめたくないと思っていたのに、想いを伝えることに躊躇してしまったせいで、余計に彼女を苦しめてしまった。
今、想いを伝えたらアイリスを更に苦しめてしまうと分かっている。
でも、今伝えないと一生後悔する。
もう・・・止まれない。
ブレイドはアイリスの金色の瞳を泣きそうな顔で見つめた。
「・・・好きだ、アイリス。
お前のことが好きなんだ。
今まで言えなくてすまない、
でも、嘘なんかじゃない・・・っ
ずっと前から、俺はお前のことを愛していたんだっ」
「―――・・・っ、」
金色の瞳から涙が溢れて零れ落ちた。
アイリスの頬を次々と流れていく。
ブレイドはアイリスの体を引き寄せて強く抱き締めた。
「アイリス、好きだ。
頼む、俺を選んでくれ・・・」
「っ、ブレイド・・・っ」
「お前を、誰にも渡したくないんだ」
「―――っ、」
アイリスは声を上げて泣いた。
不安と罪悪感で埋め尽くされた感情の中に"愛してる"という真っ直ぐな想いが、ブレイドの体から伝わってきた。
ブレイドの愛の言葉に答えないといけないのに、言葉が出てこなくて、代わりに涙が溢れて止まらなかった。
アイリスが涙を流している間、
ブレイドは、何度も愛の言葉を繰り返してくれた。
ブレイドは抱き締めていたアイリスの体をそっと離すと、アイリスの濡れた目元を親指で撫でた。
「・・・このままじゃ風邪を引く。すぐに宮殿へ帰ろう」
ブレイドは黒竜の姿になると、アイリスを背中に乗せてすぐに飛び立った。
アイリスはブレイドの首元に顔を埋めて、また溢れ出した涙を拭った。
宮殿へ着くと、黒竜姿で夜空から舞い降りてきたブレイドとアイリスを見て、エマが驚いたように駆け寄ってきた。
突然出ていったため、少し騒動になっていたようだ。
「外へ出る時は言ってくださいっ!」
「すまない」
エマが声を荒げると、ブレイドは顔を俯かせながら謝った。そしてアイリスの背中をそっと押してエマに渡した。
「!・・・すぐにお風呂へ行きましょう」
エマはアイリスの顔を見て、そっと背中を押して歩き出した。
「・・・・・・」
ブレイドはアイリスの後ろ姿を見つめながら、ゆっくりと息を吐いた。
俺の気持ちは、全部伝えた。
あとは、アイリスが選ぶだけ。
ブレイドは踵を返して歩き出した。
どんな結果になったとしても、
俺はアイリスを守り続ける。
彼女一人を、生涯かけて愛し続ける。
そう、心に誓って――。
明けましておめでとうございます!
新年一発目!めでたい!・・・と言っていい内容なのか?笑
今年もよろしくお願いします!
アイリスに、ようやく気持ちを伝えることができましたね。ブレイド、よく頑張りました。
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作者のやる気に繋がります!
今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。




