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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第二章

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15 侍女長

 翌日の早朝。

 ブレイドが眠りから覚めると、外はまだ薄暗かった。

 ベッドから上体を起こし、片手で前髪をかきあげる。

「・・・・・・」

 結局、昨日はアイリスと話せなかった。

 なんとなく、アイリスがこちらを避けているような、そんな気がした。


 もう、アイリスの中では、ロナルドに決めてしまっているのだろうか・・・。


「・・・・・・っ」

 ブレイドは拳を握りしめた。


 俺は、アイリスが好きだ。

 どんなに理由を並べても、この気持ちだけはどうしようもない。

 絶対にアイリスを他の男に渡したくない。

 今まで、アイリスへ向けた感情を抑え込み過ぎていた。

 しかし、"感情を言葉に出す"という難しさ。

 幼少期から自分の心を押し殺すことしかしてこなかったブレイドにとって、自分の想いを伝えるというのは初めての経験だった。

「(どう言えばアイリスに伝わるんだろうか・・・)」

 ブレイドは溜息をつくと、ベッドから立ち上がった。





「(もう明日なんだけどっ!!!)」

 アイリスはベッドから上体を起こして頭を抱えた。

 結局昨晩は一睡もできなかった。

 まさか転生してから某テレビ番組であった学校の屋上から全校生徒に向かって好きな人の名前を言って告白するようなことをしなければならないなんて。なんという醜態を晒さなければならないのか・・・!


「消えたい・・・、マジで消えたい・・・っ」


 アイリスは枕にポフンッ、と顔を埋めた。


 私は、ブレイドのことが好き。

 でもブレイドが私のことをどう思っているのか、全く分からない。

 一人の女性として見てくれているらしいが、それが果たして恋愛対象としてなのか・・・。

 私が告白して、「いや、別に俺お前のことそんな目で見てねぇし・・・」なんてブレイドから言われたら速攻で学校の屋上から飛び降りれる自信がある。


「・・・・・・」

 アイリスは枕に顔を埋めたまま、会議の最中にブレイドの陰口を言っていた政務官たちを思い出した。

 あんなこと言われて何も感じない人なんていない。

 ブレイドだって「平気だ」「大丈夫だ」と言いながらも、きっと傷ついている。


 そもそも今回の皇太子就任は、ブレイドが自ら望んで皇太子になったのか、本当は皇太子になりたくなかったのか、それすらもわからない。

 ブレイドが皇太子になりたくないのにアイリスが想いを告げてしまったら、ブレイドを皇太子の座に縛りつけてしまうことになる。

 反対に、もし、ブレイドが皇太子になりたいがために、好きでもない私に「好きだ」と言ってきたら・・・。

 どちらにしても、彼の心が私にないと分かっていての関係は、惨めすぎる。


「・・・・・・っ」

 アイリスは深く溜息をついた。


 一体どうしたらいいのだろうか・・・。



 ――コンコンッ

「失礼いたします。」

 自室のドアがノックされ、アイリスが枕に埋めていた顔を上げると、エマと使用人たちが部屋に入ってきた。

「おはようございます、アイリス様。本日もよろしくお願いいたします。」

 エマの言葉に合わせて、使用人女性たちが頭を下げる。

 これは毎朝行われる挨拶。

「おはようございます。いつもありがとうございます」

 アイリスがそう言っていつものように微笑むと、使用人たちも綺麗に微笑んでくれた。


 使用人たちが用意した普段着用のドレスに袖を通して、彼女たちに腰紐を結んでもらっていると、エマが今日の予定の書かれた紙をペラッと捲った。

「本日は私の母が皇太子宮に来て、明後日に行われる社交パーティーでのダンスやマナーの指導をいたします。」

「!エマさんのお母様が来てくれるの?」

「はい。」

 エマは頷くと、アイリスを見た。

「アイリス様のファーストダンスは、ゼイン皇帝陛下です。なので、念には念をということで私から母にお願いいたしました。」

「そうだったんですね、ありがとうございます。」

「いえ、それが私の仕事ですから。」

 エマはそう言いながら銀縁の眼鏡を上げた。


 朝食をとるために一階に降りると、ブレイドが先に座っていた。

「おはよう、ブレイド」

「あぁ、おはよう」

 いつものように挨拶をする。

 しかし、アイリスはブレイドの顔をチラッと見た後、すぐに彼から視線を逸らした。

「・・・・・・」

 ブレイドがこちらを見ているのが分かる。

 それでも視線を合わせるのが怖かった。


 色々なことが頭をよぎって、ブレイドの顔が見れなかった。



「ご馳走様でした。」

 アイリスは食事を終えると、食後のコーヒーを断って早々に立ち上がった。

 ブレイドとは食後にコーヒーを飲みながら二人で会話をするのが習慣としてあったが、今の心境でそれができるほど、アイリスの心には余裕がなかった。

 先に食堂を出ようとするアイリスに、ブレイドは椅子から立ち上がった。


「アイリス!」

「!」

「・・・あとで話がある。」


 ドキッとした。

 ブレイドの、いつもよりも低く真剣な声色に、一気に胸が苦しくなる。

 アイリスは顔を俯かせた。


 本当は話なんて聞きたくない。

 でも、ずっとブレイドを避け続けるわけにはいかない。

 明日には、私の決断をみんなの前で言わなければならないのだから。


「・・・わかった。」


 アイリスは、こくん、と頷くと足早に食堂を出た。




「アイリス・クレディ様っ」

「!」

 廊下に出てすぐ、声を掛けられた。

 振り返ると、そこには一人の貴婦人が立っていた。

 真っ赤なドレス姿。手には美しい扇子。そして焦茶色の髪は綺麗に結い上げられて花の飾りが付けられている。とても華やかな女性だ。

 貴婦人はアイリスの顔を見ると、ニッコリと微笑んだ。


「お初にお目にかかります。私、侍女長を務めております、アナベル・ウェインライトと申します。以後お見知りおきを。」


 貴婦人はそう言ってドレスの裾を握って優雅に挨拶をした。

「ウェインライト・・・、!もしかして、エマさんの・・・!」

「はい、母でございます。」

 貴婦人――アナベルは扇子を開いて上品にニッコリと微笑んで頷いた。


「アイリス、・・・!っ!?アナベル!?」

 ブレイドがアイリスを追うように食堂を出ると、アイリスと共にいるアナベルの姿を見て驚いて後退った。

「あら、ブレイド坊ちゃん、お久しぶりにございます。」

 アナベルは先ほどアイリスにしたように、ブレイドに向かって優雅に頭を下げた。

「久しぶりだな。・・・だが、流石に坊ちゃんはやめてくれ・・・」

 アナベルから"ブレイド坊ちゃん"と呼ばれ、ブレイドはアイリスをチラリと見た後気まずそうに顔を逸らした。

 そんなブレイドに対し、アナベルは上品に扇子で口元を隠して笑った。

「あら、そうでしたわね。失礼いたしました、ブレイド皇太子殿下」

 アナベルは笑顔でそう言うと、突然真顔になりスッと目を細めた。


「・・・ですが、まだブレイド殿下には"坊ちゃん"が似合いそうなほど、気品が足りませんわ」

「っ!」

「歩き方、表情、仕草。以前私がお教えしたこと、お忘れになっておりませんこと?」


 突然始まったアナベルの説教。

 ブレイドはアナベルから視線を逸らしたまま汗をダラダラと流した。

 そんなブレイドの様子を見て、開いていた扇子をパチン、と音を立てて閉じた。


「アイリス様がドレスにお着換えなさっている間、先に坊ちゃんの指導をいたしますわね!」


 アナベルはニッコリと笑って言った。




 アイリスはエマに連れられて自室へ戻り、アナベルの持参した社交パーティー用のドレスに着替え始めた。

 淡い紫色のシンプルで綺麗なドレス。

 しかし・・・

「ろ、露出が・・・多い・・・っ」

 鎖骨、肩、腕、背中。

 全部見えている。

 隠れているのは胸元から下だけだ。

 ドレスを見て絶句しているアイリスに構うことなく、エマはアイリスの今着ている服を手早く脱がせていった。

「パーティー用のドレスはだいたいこういったデザインのものが多いですよ。」

「羽織るものとか・・・」

「ありませんね。」

 アイリスにドレスを無理矢理着せてドレスの腰紐を結びながら淡々と答えたエマに、アイリスは両手で顔を覆った。

「ちなみに明日の謁見のドレスもこのようなデザインになる予定です。」

「嘘でしょ!?」

 アイリスが思わず声を上げると、腰紐を結び終えたエマが立ち上がってアイリスを真っ直ぐ見つめた。


「明日は、ブレイド様とロナルド様のどちらかをアイリス様がお選びになる日です。」

「!」

「本日、ブレイド様とロナルド様は、明日のアイリス様の着られるドレスをそれぞれお選びになります。アイリス様は当日、どちらのドレスを着用されるかを決め、そのドレス姿を皆様へお見せすることによって、アイリス様がどちらを選ばれたのかが分かるようになっております。」


 エマはアイリスを化粧台の前に座らせると、アイリスの髪を櫛で梳いた。

「今のうちにこのドレスに慣れていてくださいね。」

 エマはそう言うと、アイリスの髪を綺麗に束ねて、アイリスへ向かって労わるように鏡越しに優しく微笑んだ。

邪魔が入ってなかなか告白するタイミングがないブレイド。

寝起きのブレイドの色気は半端ないだろうな、と勝手に妄想しています。


少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークやいいね、評価を頂けますと嬉しいです。

作者のやる気に繋がります!

今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。

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