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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第二章

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14  気まずい空気

 ゼインの指示により、会議室にロナルドが呼び出された。

 先程初老の政務官の言っていた案を伝えると、ロナルドはニッコリと微笑んだ。


「いいですよ、アイリスと婚姻を結べるなら僕が皇太子になっても。」


 ロナルドの、たった一言で決まった。


 彼が皇太子になる条件として掲示したのは、

"金眼の天使であるアイリス自身が望んで自分の婚約者になること"

"皇太子に就任後も薬師を続けていくこと"

 それだけだった。


 この内容に、ブレイドが皇太子になることに反発していた者達は全員賛成の意を唱えた。

"天使様が決めるならばそれに従う"と口では言っていたが、本音はブレイドを皇太子から下ろすチャンスだと思ったに違いない。


 "金眼の天使様が邪竜を選ぶわけがない"


 政務官たちの心の声が聞こえてくるようだった。




「ったく、さっさと自分の女にしろとあれほど言っただろう!」

 執務室で、ゼインは額に手を当てて呆れたように溜息をついた。

 ロナルドが宮廷の庭園でアイリスに求婚していたところを何者かが目撃していたのかもしれない。

 今回の件で、皇太子宮に住んでいるブレイドとアイリスが婚約関係にないことが周囲に露見してしまった。

 ゼインは眉間に皺を寄せて、目の前に立つブレイドを見据えた。


「・・・"金眼の天使"は特別な存在だ。お前が好きになった女は、ただの民でも貴族でもない。アイリスの決断は国をも動かす。まさに"女神の化身"。

 アイリスが"ロナルドを皇太子にする"と言えば、いくら私が"お前を皇太子にする"と宣言しても、女神を信仰する者達に反発され帝国に争いと混乱を招く。」

「・・・・・・」

「アイリスのためだと思って皇太子になる覚悟を決めたなら、アイリスを中途半端に放置するなっ!」


 ゼインの声が、ブレイドに突き刺さった。

 何も言えない。

 アイリスに想いを告げることに躊躇し、"彼女の幸せのためだ"と決断を先延ばしにした結果、すべてが中途半端になってしまった。

「・・・申し訳ありません。」

 ブレイドはゼインに向かって深く頭を下げた。

 ゼインは静かにブレイドを見つめたあと、ゆっくりと息を吐いた。


「・・・お前は、もっと"強欲"になれ。」

「!」

「欲は活力であり、原動力だ。国を動かそうとする者に欲がなければ、その国は成長しない。思慮深い事はいいことだが、ただ"考えている"だけでは"何もしない"のと同じだ。」


 ゼインは俯いているブレイドに向かって指差した。


「お前は心の中で考えているだけで何一つ言葉に出していない。だからお前の想いは何一つアイリスには届いていない。それに対してロナルドはどうだ?もう求婚までしてるらしいじゃないか。」

「・・・・・・」

「このままいくと、アイリスはロナルドのものとなり、皇太子の座も奴のものとなる。お前は、それで本当にいいのか?お前は好きな女が他の男に触れられてもなんとも思わないのか?」


 ゼインの言葉に、ブレイドはゆっくりと顔を上げた。

「・・・!」

 ゼインは、目の前に立つブレイドのその表情に目を見開くと、楽しそうに口角を上げた。



「お前にもあるじゃないか、私譲りの立派な"欲"が。」






 いつものように宮廷の庭園で紅茶を飲みながらブレイドの帰りを待っていたアイリスは、途中で会議に呼び出されて早々に戻ってきたロナルドの言葉に思わず紅茶を噴き出しそうになった。


「わ、私がブレイドかロニーさんのどっちが好きかみんなの前で言うの!?」


 目を丸くして叫ぶように言ったアイリスに、隣の椅子に座っていたロナルドはいつものようにニコッと笑いかけた。

「うん、そうだよ。どっちを婚約者にするか君が選ぶんだ。君の婚約相手は皇太子が相応しいっていう意見が多くてね。だから、当国の次期皇帝である皇太子を君が決めることで、結果的にディアロスとの戦争を防ぐことになるんだよ。"金眼の天使の意思"は、"女神の意思"だからね。」

「・・・!」

「今回の皇太子就任のタイミングで君がブレイドと僕のどちらと婚約するか決めたら、その人物が"金眼の天使の寵愛を受ける"ことになるから、そのまま皇太子に任命されても異論はでない。」

 ロナルドはアイリスの長い髪に指を通すと、そっと持ち上げた。

「僕は皇太子になることに興味はないけど、君からの寵愛は受けたいんだ。」

「!」

「君のことが好きだからね。」

 ロナルドがアイリスの髪にキスをし、アイリスを真っ直ぐ見つめた。

 真剣な眼差しを向けられ、アイリスは自分の頬が赤く染まるのがわかった。

 思わず視線を逸らすと、ロナルドは逃がさないというようにアイリスの顔を覗き込んだ。

「ね?アイリス、僕を選んでよ。」

「ロニーさん、急にそんなこと言われても困ります・・・っ」

「でも、みんなの前で君が宣言する日まであと一日しかないんだよ?」

「・・・っ」

 アイリスの謁見は明後日。その日にアイリスは臨席したものたちに向かって宣言しなければならない。ぐいぐいと迫ってくるロナルドにアイリスが戸惑っていると、アイリスとロナルドの間にそっと手が差し込まれた。

「「!」」

「ロナルド様、アイリス様が困っておられます。あまり言いすぎると無理強いしたことになるのではありませんか?」

 アイリスを助けてくれたのはエマだった。

 彼女はロナルドを睨むように真っ直ぐ見据えている。

 そんなエマの様子に、ロナルドは口角を上げた。

「おや?エマ、やきもちかい?」

「違います。それはロナルド様の自意識過剰です。」

「アハハ!相変わらず毒舌だねっ!」

 ロナルドは楽しそうに笑うと、アイリスからそっと体を離した。


 アイリスはロナルドが離れてくれたことにホッと息を吐くと、アイリスの前に立っているロナルドを見上げた。

「・・・確かにロニーさんの言う通りあと一日しかありませんが、少し私にお時間をください。きちんとお二人と向き合って考えますから。」

 アイリスが真剣な表情でそう言うと、ロナルドは満足そうに頷いた。

「うん、わかったよ。今日はこれでおしまいにするけど、また明日も君を口説きにくるから覚悟しといてね?」

 そう言ってロナルドはニコッと微笑んだ。

 そして、こちらへ向かって歩いてくるブレイドの姿に気付いて口角を上げた。

「次は君がアピールする番かい?」

「・・・あまりアイリスを困らせるな。」

 ブレイドがロナルドを睨むと、ロナルドは楽しそうに目を細めた。

 ピリピリとした空気が流れ、アイリスとエマは気まずそうに顔を見合わせた。


 この空気はとても居心地が悪い。

 原因が自分にあるから尚のこと。


 ルイスはそんな四人の様子を見て小さく息を吐いた。

「・・・ブレイド様、ロナルド様。レディー達を怖がらせてはなりませんぞ?」

「「!」」

 ルイスの言葉にブレイドとロナルドがアイリスとエマを見ると、二人は気まずそうに視線を逸らした。

「・・・悪かった」

「ごめんねぇ、つい・・・」

「いえ・・・」

 アイリスは思わず苦笑すると、椅子から立ち上がった。

「ブレイド、今日はもう仕事おしまい?」

「!あぁ。」

「なら早く宮殿へ帰りましょ?」

 そう言ってアイリスは宮廷の外に向かって歩き出した。




 ルイスの用意した馬車にアイリスとブレイドが乗ると、馬車はすぐに進みだした。

「・・・・・・」

 ブレイドは隣に座るアイリスを見た。

 流れていく景色をひたすら眺めているアイリス。

 アイリスの長い髪で横顔が隠れており、彼女が今どんな表情をしているのかブレイドからは全く分からない。

 ブレイドは戸惑いながらも、そっと口を開いた。

「アイリス、その・・・」


「ごめん、今はそっとしといてくれる?」


 アイリスは窓の外を見つめたまま、ブレイドの言葉を遮って言った。

 ブレイドは開いていた口を、そっと閉じた。

 彼女がこんな態度になるのは当然だ。

 アイリスの言葉一つで、未来の皇帝と婚約相手が決まるのだから。


「・・・分かった」


 ブレイドは頷くと、ひたすら窓の外を眺めているアイリスからそっと視線を逸らした。





「(どうしよう・・・っ)」


 アイリスは顔を真っ赤にさせてひたすら窓の外を眺めながら羞恥に大量の汗を流していた。


「(公然で告白しろってなんの罰ゲームよっ!!私に死ねって言っているの!?政務官たちバカじゃないの!?)」


 アイリスの脳内は激荒れだった・・・。

ブレイドはこの状況をどう変えるんでしょうか。

読んでる側からすれば、ね?あれなんですけど・・・。当人たちは互いの気持ち知りませんから、そら大変だ状態です。


少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークやいいね、評価を頂けますと嬉しいです。

作者のやる気に繋がります!

今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。

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