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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第二章

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11 薬師

 金眼の天使の在り方についての会議は、特に大きな問題もなく終わった。

「これで会議を終了する。」

 ブレイドの言葉に合わせて政務官達は立ち上がると、一斉に頭を下げた。

 そのまま会議室を後にする者が多い中、一部の政務官たちはブレイドを見ながら何やらひそひそと話していた。

 ブレイドは、その様子を特に気に留めることなく資料をルイスに手渡すと、椅子から立ち上がった。

 それに倣ってアイリスも椅子から立ち上がろうとすると、突然目の前に誰かの手が差し出された。


「お手をお貸しいたしましょうか?アイリス・クレディ。」


 顔を上げると、若い貴族の男性がアイリスの前に立って微笑んでいた。

「ありがとうございます。」

 そっとその男性の手に自身の手を重ねて立ち上がると、彼はそのままアイリスの手を持ち上げた。


「お初にお目にかかります、"金眼の天使"アイリス・クレディ。僕は宮廷で薬師をしているロナルド・アレクシアン、と申します。以後お見知りおきを。」


 そう言って、彼はアイリスの手の甲にキスをした。


 アイリスの手を握っている男性――ロナルド・アレクシアン。

 以前エマが、"皇族でありながら宮廷で薬師をしているブレイドの従兄弟(いとこ)"の話をしてくれたことを思い出す。

 鮮やかな水色の髪に、皇帝陛下と同じ深海色の瞳。年齢と身長はブレイドより少し上くらいだろうか。


「アイリス・クレディです。よろしくお願いいたします」

 アイリスは突然の挨拶に驚きつつも小さく微笑みながら膝を曲げて挨拶を返した。

 それに小さく頷いて、ロナルドはそっと微笑んだ。

「うん、よろしくね。固い挨拶はここまでにして、良かったら僕のことは気軽に"ロニー"とでも呼んでくれ。これから君と一緒に活動していくことになるだろうからね。」

 そう言ってロナルドはまたにっこりと微笑んだ。

 そして彼は、アイリスとブレイドの後ろに控えているエマとルイスを見た。

「エマも久しぶりだね!」

「はい、お久しぶりにございます。」

「ルイスも元気そうで良かったよ」

「フォッフォッ、ありがとうございます。」

 エマとルイスはロナルドに向かって頭を下げた。

 エマから聞いていたように優しい雰囲気のロナルドに、アイリスは安心したように微笑んだ。


「ロナルド。」

 ブレイドがロナルドの前に立って声を掛けると、ロナルドはブレイドに顔を向けた。

「やぁ、ブレイド。久しぶりだね?皇太子就任おめでとう」

「あぁ、まだ式典前で正式なものではないけどな」

 ブレイドはそう言って眉間に皺を寄せながら溜息をついた。


 会議にブレイドが参加する時点で予想していたことではあるが、会議の最中に随時聞こえてきた政務官たちの非難する声は、聞いていてあまり気分の良いものではない。


「一波乱ありそうな予感だよね。」

 ロナルドはアイリスの手を離すと、そっと政務官たちを見た。

 彼の視線を追うようにブレイドやアイリス達もその政務官たちを見ると、彼らはすぐに視線を逸らしてそそくさと会議室を出て行った。

「・・・まぁ、今の君ならきっと大丈夫だよ。」

 ロナルドはブレイドにニコッと笑いかけた。

 ブレイドはその笑顔を静かに見つめた。


 ブレイドがまだ皇宮に住んでいた頃。

 ロナルドは宮廷にいる医師の元で"薬師見習い"として薬学について懸命に学んでいた。

 ブレイドが魔力暴走を起こした時に、ロナルドが巻き込まれた怪我人たちを介抱してくれていたことを思い出す。


「・・・ロナルド。」

「ん?なんだい?」

「・・・あの時は、すまなかった。」

 ブレイドは口を結ぶと、ロナルドに向かって頭を下げた。

 この言葉はロナルドだけではなく、"あの時"治療に当たってくれていた医師、看護師、薬師のすべての者たちに向けた言葉でもあった。

 彼らのお陰で怪我人たちは特に大きな後遺症も無く元の生活を送れている。


 ロナルドはブレイドの突然の行動に驚いたような表情をしたが、ブレイドの真剣な顔を見てすぐに小さく微笑むと、ブレイドの頭に彼の手を、ぽんっ、と乗せた。

「君も大変だったね。よく戻ってきてくれたよ。・・・君のその言葉は、"みんな"にちゃんと伝えておくからね。」

「!」

 ブレイドが驚いて顔を上げると、ロナルドはブレイドの頭を撫でながらまた優しく微笑んだ。


 "思いやりがあって優しい人"。


 この少しのやり取りだけでもロナルドの性格の良さが伝わってきた。

 アイリスがロナルドを見つめていると、アイリスの視線に気付いたロナルドがこちらを向いた。

 そして、真剣な眼差しでアイリスを見つめる。

「・・・?」

 アイリスが"どうしたのか"と尋ねるように小首を傾げると、ロナルドは、くすっ、と小さく笑った。

「・・・金眼の天使が君で良かったよ。」

「え・・・?」

 ロナルドの言葉にアイリスがきょとん、とすると、彼は何も言わずにニコッと笑った。

「・・・じゃあ、僕はこれから医務室に行ってくるから、またね!」

 ロナルドはそう言って、こちらに向かって手を振りながら爽やかに去っていった。


「なんか、すごくいい人だったね・・・」

 それでいて不思議な人でもある。

 彼には独特の空気感があるというか・・・、優しさの中に何かがあるような、そんな雰囲気を感じた。

 アイリスがロナルドの後姿を見送りながら言うと、それに同意するようにブレイドは頷いた。

「アイツは昔からあんな感じだ。ああやって誰にでも話しかける。」


 ロナルドは、みんなに平等。

 それは、"人を助ける"という仕事をする上で大切な考え方でもある。


 ブレイドは小さく息を吐くと、アイリスを見た。

「・・・ただ、アイツの適性魔法には気を付けた方がいい。」

「適性魔法・・・?」

「あぁ。」

 ブレイドは頷くと、アイリスに説明するために口を開いた。

「アイツの適性魔法は――・・・」




 日の当たらない廊下の奥。

「ロナルド・アレクシアン・・・」

 二人の政務官は廊下の隅に立って、会議室から出てきたロナルドを見つめていた。

 二人の政務官のうちの一人は、会議の途中で手を挙げたあの男だ。

「彼なら皇太子になっても文句ないんですがね。」

「あぁ。本当に・・・」


 ロナルドは、ブレイドがいなかった五年間、薬師の一人として帝都に貢献してきた。

 それにあの優しい性格から人望も厚く、多くの貴族や民からも親しまれている。彼の言う事なら貴族も民もなんでも言うことを聞くだろう。


「しかし問題は、どうやってロナルドに皇太子になりたい、と言わせるかだ。」


 皇太子になれば政務優先となり、これまでのように薬師の仕事に専念することはできなくなる。

 ロナルドは"薬師"という仕事にプライドを持っているため、なかなか首を縦に振ることはしないだろう。

 しかし、彼以外に皇太子として名前が挙げられそうな皇族もいない。


「どうにかしてあの邪竜を皇太子の座からおろせないだろうか・・・」


 式典が行われてしまう前までにブレイドに問題を起こさせて、なんとかロナルドに・・・。




「僕がなんだって?」


「「!!」」

 突然真後ろから聞こえた声に、政務官は驚いて振り返った。

 そこには、こちらとは反対方向に歩いて行った筈のロナルドが立っていた。

 彼の深海色の瞳は淡く光っている。

「ロ、ロナルド殿下・・・!」

 政務官たちが驚いて後ずさると、ロナルドは楽しそうに目元を細めた。


「ごめんねぇ、君たちの心の中、覗いちゃった。」


「「・・・っ!!」」

 ロナルドの言葉に、政務官たちの背筋に悪寒が走った。


 ロナルドの適性魔法――心眼。

 彼がこの能力を使うことで、現在の思考だけでなく、過去の記憶まで遡って見ることができる。


 それを知っている者たちは、彼の瞳が光っている間、自分の心が読まれているのではないかと恐怖する。

 ロナルドは政務官二人を見据えたままゆっくりと口を開いた。


「・・・君たち、悪いことばっかりしてるね。」

「「!!」」

「その上また悪巧みかい?全く、呆れたよ・・・。どんなに君たちが頑張っても、僕は薬師の仕事は辞めないし、皇太子になるつもりもない。」


 ロナルドの声が静かに廊下に響いた。


 空気が異様に重い。


 目の前に立っているロナルドの口角は上がっているのに、彼の目は一切笑っていない。


 暫くの間をおいて、ロナルドはニコッと笑った。

「今回は黙っておくけど、次何か問題を起こそうとするなら容赦しないからね。」

「「・・・・・・っ」」

「首切られたくなかったら大人しくしておいた方がいいよー」

 ロナルドはそう言って手をひらひらさせながら歩き出した。


「あの方の能力は本当に恐ろしいな・・・」

「あぁ・・・」


 何事もなかったように廊下を歩いていく彼の後ろ姿を、政務官たちは冷や汗を流しながら見送った。

ロナルド(通称ロニー)は爽やかイケメンのイメージです。

細くもないけど筋肉質でもない、典型的な王子様のような容姿をしています。


少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークやいいね、評価を頂けますと嬉しいです。

作者のやる気に繋がります!

今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。

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