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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第二章

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7 ゼイン・アレクシアン

 そこは神殿のようだった。


 天井には巨大なシャンデリア。

 そして大理石の床に引かれた赤い絨毯。

 その一番奥にある壇上に皇帝陛下の座る大きな椅子が一つ置かれていた。その椅子の左右隣には小さめの椅子が一脚ずつある。

「ここは玉座の間だよ。」

 アランの言葉にアイリスは頷いた。


 玉座の間。

 皇帝陛下から階級など何かを頂くときや、他国の使者などが皇族と謁見するときなどにこの部屋が使われる。

 アイリスの足元から皇帝陛下の椅子に向かって真っ直ぐ伸びる赤い絨毯の左右には、宮廷の政務官らしき貴族が十数名、玉座に向かって整列している。

 そしてその後ろに、近衛騎士達も整列していた。

 アランと共に、アイリスは絨毯の上を真っ直ぐ歩いていき、皇帝陛下の玉座が据え置かれている壇上の前で立ち止まった。

 後ろから先程と似たような内容の囁き声が聞こえてきて、アイリスはゆっくりと小さく息を吐いた。



 ガチャ、とアイリス達が入ってきた扉が開く音がした。

 コツコツと靴の音を立ててこちらへ向かってくる。

 すると、後ろに整列していた政務官たちのざわつく声が大きくなった。

「・・・?」

 一体誰が来たのか・・・。

 その足音はアイリスの横で止まった。

「アイリス」

「!」

 名前を呼ぶその声だけで、その人物が誰なのか分かった。

 アイリスはそっと顔を横に向けた。

「ブレイド・・・!」

 そこには正装に身を包んだブレイドが立っていた。


 いつもよりも煌びやかで髪型も綺麗に整えてある、いかにも皇族といった容姿をしている彼。

 何故ブレイドが自分の横に立っているのか、皇帝陛下と共に入ってくるのではないのか。壇上にいなくていいのか。

 たくさんのことがアイリスの頭をよぎったが、それよりもブレイドが隣に立っているという安心感の方が上回り、アイリスはホッと息を吐いた。

 そんなアイリスに、ブレイドは小さく笑った。

「大丈夫か?」

「えぇ、なんとか・・・」

 いつもと服も髪型も違うのに、いつもと変わらない雰囲気のブレイドにアイリスも小さく微笑んだ。


 そんな二人の様子を、アランは安心したように静かに見つめていた。

 もう、後ろの囁き声も、何も気にならなくなった。



「・・・そろそろだね」

 アランが時計を確認すると同時に、上座側にあった扉が音を立てて開かれた。

「!」

 扉が開いたのに合わせて、ブレイドとアランが片膝をついて頭を下げる。

 それに倣って、アイリスもドレスの裾を上げて頭を下げた。

 後ろに整列した騎士達が一斉に敬礼したのが音で分かった。


 壇上をコツコツと足跡を立てて歩いてくる。

 その人物は玉座の前で立ち止まった。

「面をあげよ。」

 低く響く声が鼓膜を揺らした。


 アイリスはそっと顔を上げた。


 壇上に立つ人物。

 銀色の髪に、深海のように濃く青い瞳。

 高身長で細身に見えるが、肩の張り具合からその体は鍛え抜かれているのだと一目でわかった。

 白地の正装服には金銀の細かい装飾が付けられており、シャンデリアの光を受けてキラキラと輝いている。


 彼こそが、この国の皇帝陛下。

 ゼイン・アレクシアン。


 皇帝陛下――ゼインは玉座に座ると、こちらを真っ直ぐ見下ろした。

 深海色の瞳がアイリスに向けられていて、アイリスは緊張で喉から心臓が出そうだった。

 まさに彼は威厳の塊。

 そう感じた。


 彼の瞳が、アイリスの隣に立つアランへと向けられた。

「久しいな、アラン・クレディ侯爵」

「お久しぶりにございます、皇帝陛下」

 アランが右手を左胸に当ててそう言うと、ゼインが小さく笑みを浮かべた。

「お前には後で色々聞きたいことがある。後で執務室へ来い」

「承知いたしました。」

 アランは頭を下げた。


 アランの返事を聞いて、ゼインはアイリスへと視線を戻した。

「・・・其方が"金眼の天使"だな」

 ゼインから声を掛けられ、アイリスはドレスの裾を上げて優雅に頭を下げた。

「はい。アイリス・クレディ、と申します」

 アイリスの声が玉座の間に響いた。

 ゼインは小さく頷いた。

「アイリス。其方には"金眼の天使"また"治癒師"として我が国に貢献してもらうと同時に、他国の者との交流にも積極的に関わってもらいたいと思っている。」

「はい。」

「ゼイン・アレクシアンの名において、其方と、其方の親族の安全は必ず保障すると誓おう。」

 ゼインの言葉にアイリスは膝を曲げて頭を下げた。

「お心遣い感謝いたします。」

 アイリスの言葉にゼインは頷くと、言葉を続けた。

「国内外に向けて、"金眼の天使"の存在を公表したのち、当国の貴族と他国の使者を含めた謁見の機会を設ける。詳細については追って連絡するものとする。」

「承知いたしました。」

 アイリスとアランは頭を下げた。

 この公表がなされた後に、アイリスの治癒師としての活動が始まる。アイリスは覚悟を胸にそっと目を閉じた。


 ゼインはそんなアイリスを見つめた後、口を開いた。

「アイリス・クレディ。」

「!はいっ」

 ゼインに名前を呼ばれ、アイリスが顔を上げると、ゼインはアイリスを真っ直ぐ見据えていた。

 ゼインとアイリスの瞳が重なると、ゼインは言った。

「其方の居住についてだが・・・


 我が息子、ブレイドの移り住む"皇太子宮"とする。」




「・・・え?」



 アイリスは、思わず声を漏らした。

 今、陛下はなんと言った?・・・皇太子宮?


 後ろに整列する政務官たちからどよめきがあがった。

「皇太子宮?」

「ということは、ブレイド殿下が皇太子・・・!?」

「金眼の天使様を一緒に住まわせるのか?」

「いや、あり得ないだろ。だって、ブレイド殿下はあの――・・・」


 ゼインの鋭い瞳が貴族たちへ向けられた。


「「!!」」

 威圧を込めたその瞳に政務官たちが一斉に沈黙する。

「・・・・・・」

 ゼインは彼らが黙ったのを確認すると、アイリスの横に立つブレイドを見据えた。

 ブレイドは床に片膝をつくと、右手を左胸に当ててゼインに向かって頭を下げた。


「ブレイド。この場をもってお前を皇太子に任命する。」


 静まり返った玉座の間に、ゼインの声が響いた。


「拝命いたします。」


 ゼインの声に続いて、ブレイドの覚悟を乗せた声が響いた。



 ゼインに向かって頭を下げているブレイドの横顔を、アイリスは目を見開いて見つめた。

「(ブレイドが皇太子・・・皇太子!?)」

 冷静に見えてアイリスの脳内はパニック状態だった。

「(ブレイドが、皇太子宮に住んで・・・え?私もそこに住む。・・・住む!?)」

 ブレイドを見据えていたゼインは前を向いた。

「また、ブレイドの皇太子就任の儀は、ブレイドの成人の儀と同時に行うものとする。」

 そして、ゼインは政務官である貴族の重鎮達を見据えた。

「この決定に異議を唱える者は私の元へ来い。」

「「・・・・・・」」

「私からは以上だ。これにて閉幕とする。各自政務へ戻るように。」

 ゼインはそう言うと、椅子から立ち上がって玉座の間を後にした。


 パタン、と扉が閉じられると同時にざわつきだした貴族達。ブレイドは彼らの予想通りの反応にゆっくりと息を吐きながら立ち上がった。

 そして、ブレイドは政務官達がアイリスの方へと近づいてきたことに気付くと、そっとアイリスの腰に手を回して押した。

「!」

「・・・すぐここを出るぞ。」

「あぁ、そうしようか」

 アランも彼らに気付いて頷くと、皇帝陛下の出て行った扉から廊下へと出た。


 後ろでパタン、と扉が閉まったと同時に、アイリスはブレイドの腕を掴んだ。

「皇太子宮に一緒に住むってどういうこと!?」

 戸惑いと混乱を全面に出しているアイリスに、ブレイドは苦笑した。

「あー・・・まぁ、とりあえず落ち着け」

「落ち着けないわよ!私離宮だったはずよね!?なのになんで・・・」

 皇太子宮はその名の通り皇太子のみが居住を許されている宮殿のはずだ。

 金眼の天使とはいえ、そんなところに一緒に住んでいいのかとアイリスは頭を抱えた。

 そんなアイリスの様子を見てアランは彼女の背中を優しく撫でた。

「心配ないよ、アイリス。皇帝陛下の配慮さ」

「・・・配慮?」

 アイリスが顔を上げてアランを見ると、アランは頷いた。

「ブレイドになら君を任せられると思ってね。ほら、ブレイドは魔力も権力も持ってるし、そこら辺の騎士よりも剣術に長けている。それに、アイリスもブレイドが一緒だと安心できるだろう?」

 アランの言葉に、アイリスは唸りながらもコクン、と頷いた。

 アイリスが納得してくれたことにアランとブレイドは安堵した。

「なら、私は皇帝陛下に会いに行ってくるから、あとは頼んだよ、ブレイド」

「あぁ」

 ブレイドが頷いたのを確認すると、アランはそっとアイリスと目線を合わせた。


「・・・アイリス、また会いに行くからね。」


 アイリスの頬を優しく撫でながら言ったアランに、アイリスは小さく微笑んだ。

「・・・うん、待ってるね」

 アランは少し寂しそうに微笑むと、アイリスの髪が崩れないように頭をそっと撫でた。

ブレイドの父親とご対面。

大人な色気のあるイケメンダディのイメージで書いてます。


少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークやいいね、評価を頂けますと嬉しいです。

作者のやる気に繋がります!

今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。

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