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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第二章

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4 クレディ侯爵家

 あれから数日が経った。

 アイリスは屋敷を出て、広い草原を見渡した。


 昨日、草原にあるクレディ家の屋敷の荷物を荷馬車に積んで、帝都の屋敷に運んでもらった。

 今頃クレディ家の使用人たちが荷下ろしをしている頃だろう。


 そして今日は、クレディ夫妻、テオ、そしてアイリスが帝都へ行く日。



「アイリス、行きましょう?」

「・・・うん」

 アイリスは草原の風を頬に受けて目を閉じた後、ゆっくりと深呼吸をした。


 この草原であった大切な思い出たちを、私は一生忘れない。

 "金眼の天使"、そして"治癒師"として、私は後悔しない生き方を選んでいく。


 そう心に誓って、アイリスはそっと目を開けた。

「ありがとう・・・、またね。」

 アイリスは草原に向かって微笑むと、黒紫色の髪を靡かせて踵を返した。



 アイリスは、アラン、フロリス、テオと共に帝国側が用意してくれた馬車に乗った。

 馬車の前後左右には、馬に跨った近衛騎士達が並走してアイリス達の護衛をしてくれている。

 アイリスは窓の外に広がる草原を眺めながら、自身の胸に顔を埋めるテオの背中を優しく撫でた。


 アランとフロリスはアイリスが離宮に住むことにようやく納得してくれたのか、不安げな表情から穏やかな表情の二人に戻っていた。

 しかし、テオは何故アイリスと別々に住まなければならないのか理解できず、昨日の夜からずっとアイリスにべったりくっついて泣き続けていた。

「あいりしゅ・・・もう、いっしょにねんねできないの?」

 すんすん、と鼻を鳴らして泣きながら言ったテオに、胸が苦しくなる。

 アイリスはテオの頭を優しく撫でた。

「ねんねは出来ないけど、いつでも会えるから寂しくないよ?」

「・・・ほんとう?」

「えぇ!」

 顔を上げたテオに微笑みかけると、テオは少し安心したように鼻を鳴らしてまたアイリスの胸に顔を埋めた。

 彼が安心できるまで、ずっとこうしてあげよう。

 アランとフロリスが見守る中、アイリスはテオの体を優しく抱き締めた。


 森を抜けて、フロリスと一緒に訪れた街へと入る。

 帝都は、このような街を二つ越えた先にあるらしい。

 アイリスがそっと腕の中を見下ろすと、テオは泣き疲れたのか、いつの間にか眠っていた。

「大丈夫?私が抱っこ変わりましょうか?」

「ううん、大丈夫よ」

 フロリスが心配そうにアイリスに声をかけたが、アイリスは首を横に振って微笑んだ。

 この腕の温もりと重さを、もう少し味わっておきたかった。

 アイリスは小さく息を吐くと、窓の外を眺めた。


 ブレイドは昨日の朝、突然"用があるから先に宮廷へ行く"と言って屋敷を出て行った。

 最後の日は、彼と二人でゆっくり話をして別れたかった。

 そう思ったが、これくらいあっさりしていた方がかえって良かったかもしれない。

「(ブレイドとも、また宮廷で会えるだろうし・・・)」

 そう自分に言い聞かせて、アイリスはまたゆっくりと息を吐いた。



「さぁ、着いたわ」

 馬車が止まり、窓の外を見ると大きな屋敷が立っていた。

 帝都にある、クレディ侯爵家の屋敷。

 馬車から降りて、アイリスは屋敷を見上げた。

 草原にあった屋敷よりも一回り大きく、建物も細部まで拘っている、いかにも貴族の屋敷といった外観だった。

 ここまで来る道すがらに見てきた屋敷の中でも特に大きく敷地も広い。

「おっきい!!」

 テオは目を輝かせ、アイリスは目を見開いていた。

「ここが、私たちの家?」

「えぇ、そうよ。アイリスの帰ってくる場所。」

 フロリスはそう言って微笑むと、アイリスの肩を抱き寄せた。


 アイリスは今日一日だけ、クレディ家の屋敷に泊まる。

 そして明日の朝、アランと共に宮廷にいる皇帝陛下に挨拶をしたのち、離宮入りをするのだ。


「さぁ、私たちの家に入ろう」

 アランに背中を優しく押され、フロリスから右手を握られて、アイリスはそっと屋敷へと歩いて行った。



 玄関の扉の前に立つと、ガチャリと音を立てて扉が開かれた。

 目の前に広がるのは、左右に広がる螺旋階段と、広いホールに左右一列に並ぶ使用人達。

「!」


「「「お帰りなさいませ!」」」


 彼らは一斉に頭を下げた。

 執事らしき燕尾服の男性とメイド服の女性の使用人たち。

 顔を上げると、彼らはニコニコと微笑みながらアイリスとテオを見ていた。

「お会いできて光栄です、アイリス様!テオ様!」

 執事がそう言うと同時に使用人達が一斉に二人を取り囲んだ。

「うわぁ!」

「!ありがとうございます」

 喜びの声を次々に言われてテオとアイリスが目を丸くしていると、アランとフロリスが笑い出した。

「こらこら!子供たちが驚いてるじゃないか」

「歓迎してくれて嬉しいけど、もう少し抑えてね」

 アランはそう言いながらテオを片手で抱き上げ、フロリスはアイリスの肩を抱き寄せた。


「さぁ!今日は久しぶりの我が家でパーティーをするよ!」

「みんなでいっぱい楽しみましょう?」


 アランとフロリスはアイリスの手を引いてダイニングへの扉を開いた。


「!」

「わぁ!!」


 とても広いダイニングの中央に置かれた大きなテーブル。その上には、肉や魚、ケーキなど豪華な料理が並べられていた。

 壁には可愛らしい飾り付けがしてあり、シャンデリアの光を浴びてキラキラと輝いている。


「しゅごいしゅごい!!」

 大はしゃぎで走り出したテオに、使用人達は「可愛い〜!」と一斉に声を上げていた。

「豪勢だね!みんな用意してくれてありがとう」

 アランが執事や使用人達にそう言うと、使用人達は嬉しそうに笑った。

「クレディ侯爵家の皆様がお戻りになられたのですから、これくらい当然のことでございます」

 執事はそう言ってニコリと微笑みながら頭を下げた。



 アランとフロリスと共に椅子に座り、みんなで賑やかに豪華な食事を頂いた。

「!美味しい・・・」

 お肉を口に運んで、その柔らかさと程よい味付けにアイリスは思わず声を上げた。

「アイリス様のお口に合ったようで良かったです!作った甲斐がありました」

 アランの座る横に立っていた強面の料理長は嬉しそうに顔を綻ばせた。


 アランとフロリスのように、みんな温かく優しい雰囲気の使用人達。

 アイリスは使用人達とアラン、フロリスを見渡して微笑んだ。

「みなさん、こんなに温かく私とテオを迎えてくださってありがとうございますっ」

 アイリスの綺麗な笑顔と言葉に、みんな嬉しそうに微笑んだ。



 クレディ侯爵家の屋敷で、アイリス達はとても賑やかなひと時を過ごした。

 食事を楽しんで、テオと遊んで、フロリスと二人でお風呂に入って・・・。

 アイリスと離れる年月を全て、まとめて今経験しているような、そんな気がするくらいたくさんのことをした。




 夜も深まり、アイリスの腕の中で眠ってしまったテオを、アイリスは寝室へ運んだ。

「お休み、テオ・・・」

 そっと額にキスをすると、テオがくすぐったかったのかアイリスの頬にすり寄った。

 テオの寝室を出ると、廊下にフロリスが立っていた。


「貴女の部屋はここよ」

 フロリスに案内されたのは、二階の廊下の奥にある角部屋。

 フロリスに促されて、アイリスはそっとドアを開けた。

「!」

 広い部屋に、白を基調としたお洒落な家具、寝具類。

 ベッドやクローゼットの周りには箱が積み重ねられ、その中から洋服や宝石、靴などが覗いていた。

 フロリスはそっとアイリスの肩に手を置いた。


「全部、貴女のよ。私とアランで用意したの。・・・ここで、家族みんなで過ごせる未来が楽しみで・・・」

「・・・っ」


 アイリスは唇を噛んだ。

 涙が溢れ出しそうになるのを必死に堪える。


 離宮に住むと決めたのは私だ。

 だから、私が泣くことなんて、できない。


 そんなアイリスを、フロリスはそっと抱き寄せた。


「貴女の居場所は、いつでもここにあるわ。

 ・・・辛くなったら、いつでも帰ってきなさい。」


 そう言ってフロリスはアイリスの頭を優しく撫でてくれた。

 アイリスは震える息をゆっくりと吐いて、フロリスの背中にそっと手を回した。



「ありがとう、お母さん・・・」



 アイリスの言葉にフロリスは目を見開くと、涙を流しながら嬉しそうに微笑んだ。

「・・・っ、アイリスっ・・・」

 強く抱きしめてくれるフロリスの背中を、アイリスは何度も撫でながら、母の愛情と温もりに幸せを噛み締めた。


「お父さんも、ありがとう・・・」


 そっとアイリスが言った。

 部屋の前の廊下に、アイリス達から見えないように立っていたアランは、何度も頷きながら片手で顔を覆った。

ようやく言えました。

少し切なくてあったかいお話大好きです。


少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークやいいね、評価を頂けますと嬉しいです。

作者のやる気に繋がります!

今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。

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