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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第二章

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22/44

2 皇帝陛下の手紙

 アランは翌日の早朝に帰ってきた。

 体についた砂埃を軽く払ってリビングに入ってきたアランを、フロリスが優しく出迎えた。

「お帰りなさい、どうだった?」

「綺麗に保たれてて安心したよ。問題なく引っ越しできそうだ。使用人達にもアイリスとテオのことを説明しているから、気合を入れて出迎えると今から張り切っていたよ」

 アランの言葉にフロリスは安心したように微笑んだ。


 引っ越しをするのは今週末。

 荷物はアランの手配した荷馬車に積んで前日に運ぶことになった。

 家財道具は置いていくため、ほとんどが洋服や日用品、装飾品関係。

 積み込む時はブレイドの使用人達に協力してもらうよう既に声をかけている。




「(もう、この草原でのんびり出来るのも、あと数日ね・・・)」

 アイリスは草原に座って辺りを見渡しながらゆっくりと息を吐いた。

 帝都へ行く日が近づくにつれて、ここを離れるのが寂しくなってきた。


 ここは、ブレイドと初めて出会った場所。


 "私"の人生が突然終わってしまったことに絶望して一人泣いていた。

 そこに、ブレイドが来てくれた・・・。


 "分かるか?

 俺も、お前も、生きてる。"


 深紅の瞳で私を見据えて。

 彼の鼓動と私の鼓動を掌を通して伝えてくれながら力強く言ってくれた彼の言葉のお陰で、生きていることを実感することができた。


 そんな彼に、今、私は恋をしている・・・。



 後ろから草を踏み締めて歩いてくる音が聞こえた。

「アイリス」

 あの日と変わらない、真っ直ぐ通る彼の声。

 アイリスはそっと振り返った。

「ブレイド」

 名前を呼ぶと、彼は小さく微笑んだ。


「ここにいたんだな」

「うん・・・」

 ブレイドは、名残惜しそうに草原を眺めるアイリスの横にそっと腰を下ろした。

 草原に風が吹き、アイリスとブレイドの髪が揺れる。

 ブレイドがゆっくりと息を吐いた。

「ここだったな、俺がお前を見つけたのは・・・」

「!」

 ブレイドの言葉に彼を見ると、彼は懐かしむように目を細めていた。

 目印も何もない、ただの広い草原。

 それでもブレイドが、"あの日"の場所を覚えていてくれたことに胸が温かくなる。

「あれからもう三年近く経つんだな」

「そうね・・・」

 お互いに成長した。

 身長も伸び、体つきも変わった。


 アイリスはそっとブレイドに視線を向けた。

 ブレイドは今年、成人を迎える。


 帝都へ行けばきっと、すぐに婚姻の話が上がることだろう。

 こうやって、ブレイドの隣にいられるのも、きっともう終わり。

「少し、寂しいな・・・」

 ぽつりと呟いた。

 ブレイドの視線がこちらへ向けられるのが分かったが、それに気付かぬふりをして草原を見つめる。

 ブレイドの小さく笑う息が聞こえた。

「ここは結界を張ったままにしておくつもりだ。お前が望めば、いつでもここに来られる」

「・・・そうなの?」

「あぁ」

 ブレイドは頷いた。

 そっか、と呟きながら小さく溜息をつく。

 一人でここにきても、きっと悲しくなるだけ。


 それでも、時が経てばきっと、この場所があるというだけで心の救いになる日が来る。

 寂しい思い出を、懐かしむ思い出に変えられる日が・・・。


「お前がここに来る時は、俺も一緒だ」

「!」

 ブレイドの言葉に目を見開いた。

 何気なく呟かれた彼の言葉。

 きっと、私の考えていることと、ブレイドの考えていることは違う。

「・・・っ」

 それでも、アイリスはその一言の優しさに泣きそうになった。



 ブレイドは顔を俯かせるアイリスの横顔を静かに見つめていた。

 きっと、帝都に行くことが不安なのだろう。

 どうすれば、彼女の不安を少しでも取り除いてやることができるだろうか。

 "好きだ"、"愛してる"と伝えれば、彼女の不安は消えるだろうか。

「・・・・・・」

 いや、きっと悩みを増やしてしまうだけ。

 今、彼女に負担をかけるわけにはいかない。

 そう思いながらも、アイリスに想いを伝えることから逃げているだけの己に気付いている。

「(俺は、あの頃から何も変わっていない・・・)」

 臆病者だ。


「アイリス」

「ん?」

 アイリスが顔を上げた。

 出会った時のように、綺麗な金色の瞳がブレイドの姿を映している。

「・・・そろそろ、屋敷に戻ろう」

 ブレイドが手を差し出すと、アイリスはその手を静かに見つめた後、そっと自身の手を重ねた。




 その日の夜。

 ブレイドは書斎にある執務机に向かって座り、書類の整理をしていた。

 皇帝陛下である父から任されている、数少ない仕事。

 ほとんどあってないようなものだが、これらの書類も全て宮廷に持っていかなければならない。

 ブレイドは、皇族のみが使用することの許されている帝国の刻印を見つめた。


 ブレイドには兄弟がいない。

 皇帝陛下にはブレイドの母である皇妃がいたが、ブレイドが魔力暴走を起こした"あの日"に命を落とした。

 それから皇帝陛下は、皇妃も側室も持たず、子供はブレイドただ一人。

 ブレイドはアレクシアン家の名前の記載された書類を握りしめた。



 二年前。

 アイリスに魔力があると発覚する前に、皇帝陛下である父から手紙が届いた。


【ブレイド、お前を皇太子にする。"金眼の天使"についての報告も兼ねてクレディ侯爵と共に一度宮廷に来い。】


 手紙にはそう書かれていた。

 結局、アイリスに魔力があることが分かり、ブレイドは宮廷へ戻るのを延期した。

 その際に、アイリスの能力開花と、ブレイドの皇太子就任に対し二年の猶予をもらったのだ。



「(邪竜である俺が皇太子になるなど、貴族や民が認めると父上は本当に思っているのか・・・)」

 ブレイドはそっと目を閉じた。

 ・・・いや、きっと無理だろう。

 あんな事件を起こしたのだ。

 貴族たちが反対するのが目に見えている。


 それに、民の前に堂々と立てるほど、ブレイドの覚悟はまだ決まっていない。

「(父上は、どう考えているのだろうか・・・?)」

 ブレイドは何年も会っていない父の姿を思い起こした。

 最後に見た父は、愛する皇妃の死に絶望しながらも、帝都復興のために懸命に仕事をしていた。

 そんな父のように、俺はなれるのだろうか・・・。


 ――コンコンッ

 書斎のドアがノックされ、ブレイドは顔を上げた。

「ブレイド様、ルイスでございます」

「あぁ、入れ。」

 ブレイドが返事をすると、ルイスがドアを開けて書斎に入ってきた。

「こちら、皇帝陛下よりお手紙が届いております。」

 ルイスはブレイドの執務机の前に立つと、懐から手紙を取り出した。

「あぁ」

 ブレイドはそれを受け取った。

 きっといつもの無機質な手紙だろう。

 ブレイドに関心があるのか無いのか、よく意図が分からない手紙。

 ブレイドは、すぐに手紙を開けて目を通し始めた。


「・・・・・・!」


 ブレイドの目付きが鋭くなった。

 手紙を握る手に力が込められたのに気付き、ルイスが目を細めた。

「ブレイド様、どうされたのですか?」

 ルイスが問いかけると、ブレイドは少しの間を空けて手紙から視線を外し、ゆっくりと息を吐いた。

「・・・クレディを、ここに呼んでくれ。」

「承知いたしました。」

 ルイスは踵を返すと、すぐにクレディ家の屋敷に向かった。


 すぐにアランはルイスと共に書斎に入ってきた。

「皇帝陛下から手紙が届いたんだって?」

「あぁ」

 アランの言葉にブレイドは頷いた。

 いつも以上に神妙な面持ちで執務机に向かって座っているブレイドを見て、彼に向き合って立っているアランとルイスは背筋を伸ばした。

 ブレイドは二人を見据えた後、皇帝陛下から送られてきた手紙を机の上に置いた。


「黒魔術で使っていた宝玉も、あの男達も消された」


「なっ!」

「それは、どういうことでしょう?」

 ブレイドの言葉に、アランは息を呑み、ルイスは目を細めた。

 手紙に書いてあった内容。

 それはあの宝玉と、黒いローブを羽織った男達、人族の使用人についてだった。



 彼らを宮廷にある牢に入れたまでは良かった。

 宝玉を調べるために研究機関で保護魔法を施した箱を解除し、蓋を開けた。

 しかし、そこに宝玉が入っていなかった。

 黒蛇のような霧の塊が一つ。

 それは勢いよく飛び出した。

「!!捕まえろっ!!」

「!!」

 それは騎士団の足元をすり抜け一目散に牢へと走り、そして・・・。

「どうかっ!!どうかお許しをっ!!」

「誰かぁ!!!」

 黒いローブの男達と使用人を殺めた。



「最初から黒魔術について調べられないよう口封じの印が組み込まれていたのかもしれない」

 ブレイドは眉間に皺を寄せて言った。

「・・・してやられた。」

 帝都まで己が同行しなかったことを後悔した。

 拳を握りしめるブレイドに、アランは身を乗り出した。

「ならば、今アイリスが帝都に行くのは危険じゃないのかい?」

 アランの言葉にブレイドは目を伏せた。

「それが、帝都で既に"金眼の天使"の存在が確認されたと、話が広まっているらしい」

「!!」

「大方宮廷で宗教国家ディアロスと繋がっている者が広めたんだろう。」

 こちらの動きを封じるために・・・。


 ブレイドは手紙に視線を落とした。

「父上が、アイリスを皇宮内にある離宮に住まわせるよう準備をしているらしい。皇宮内なら、騎士団の目も、俺の目も行き届く」

 ブレイドの言葉にアランは視線を泳がせた。

「なら、アイリスと私たちは別に暮らす、ということかい?」

「・・・・・・」

 ブレイドは眉間に皺を寄せて俯いた。


 アイリスは"金眼の天使"。

 皇宮内の離宮に住むことになっても、それに関して貴族達から言われることはほぼ無いだろう。

 しかし、一介の侯爵家を皇宮内に住まわせるとなると話は別だ。よく思わないものが必ず出てくる。

 だからと言ってクレディ侯爵家の屋敷にアイリスが住むとなると、屋敷周辺の警護、クレディ家の行動制限は必須になる。


 ブレイドは顔を上げてアランを見据えた。

「あとは、クレディ達次第だ。父上は、クレディとフロリスの意思を尊重すると言っている」

 ブレイドの言葉にアランは頷いた。

「・・・分かった。とにかくこの話は持ち帰らせてもらうよ。フロリスと話し合わせてくれ」

「あぁ、勿論だ」

 ブレイドが頷いたのを確認して、アランはブレイドに頭を下げるとすぐに書斎を後にした。

「(一筋縄では行かない、か・・・)」


 宗教国家ディアロス。

 つくづく嫌な国だ。


 ブレイドは深く溜息を吐きながら天井を見上げた。

少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークやいいね、評価を頂けますと嬉しいです。

作者のやる気に繋がります!

今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。

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