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蕾は転生し、深愛に咲く。  作者: 紗羽
第一章

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19/44

19 本当の"俺"

 朝、目を覚ますとベッドの中だった。

 カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。

「(ブレイドが運んでくれたんだ・・・)」

 アイリスがそっとベッドから上体を起こすと、昨晩ブレイドが羽織っていた上着が自分の体にかけてあることに気づいた。

 それと同時に蘇る感情――。

「〜〜〜〜っ」

 気付いてしまった。

 自分がブレイドのことをどう思っているか。



 アイリスの前世の"私"は社会人経験はあれど、恋愛経験は皆無。

 電車の中や街中でイチャつきながら歩く恋人達を見ては、暇なんだろうな、とか、公の場でよくやれるな、とか思ってスルーしてきた。

 それでも全く恋愛に興味が無かったわけではなく、恋愛小説や少女漫画を読んだりして、現実にこんな男いるわけないじゃん、と冷静にツッコミながらも、こんな恋愛がしてみたいという憧れはあった。


 しかし、いざブレイドのことを好きになってみて。

 胸は苦しくなるし、

 悩むし、

 モヤモヤするし。

「厄介すぎでしょ・・・っ」

 アイリスはブレイドの上着を抱き締めて顔を俯かせた。

「一体どんな顔で会えばいいのっ」

 教えてくれ、前世の"私"。


 とりあえず、服を着替えて。

 普段通りの自分でいれば問題なし。

 窓の外を見ると、明け方に騎士団達が魔法石を設置し終えていたようで、空は今まで通りの透明な結界に戻っていた。

 ということは、昨晩ブレイドは徹夜したから、きっと朝から彼はこちらの屋敷に来ていないはず。

 たぶん自室で眠っているはずだ。

「(冷静に。誰にも悟られないように・・・)」

 好きになった相手は皇族なのだ。

 それに、ブレイドは自分を恋愛対象としてみていない、と思う。

 望みは無いに等しい。

 それならば尚更、この想いを彼に悟られるわけにはいかない。

 今まで通りの距離感で。

 一緒にいられたら、それで。

「・・・・・・」

 最初から失恋が決まってるって辛いな。

 アイリスは深く溜息をつきながら、そっと部屋のドアを開けた。

 ガチャ。

「あ、はよ。」

 自室のドアを開けてすぐ目の前にブレイドは立っていた。

 ドアをノックするつもりだったのか、右手が上げられている。

「・・・・・・」

 ガチャ。

「おい、なんで閉める。」

 ドアの外からブレイドの抗議する声が聞こえてきて、アイリスは頭を抱えた。


 とりあえずもう一度ドアをそっと開けてみると、不機嫌そうにこちらを見下ろすブレイドが立っていた。

「なんで一回閉めたんだよ?」

「なんとなく」

「おい。」

 ブレイドは首の後ろを掻きながら溜息をついた。

 そしてアイリスの持っている自分の上着に気づいた。

「昨日はよく眠れたか?」

 上着をアイリスの手から受け取り、それを肩にかけながら何気なく問われた言葉。

 深い意味はない。

 分かっているのにアイリスは昨晩のことを思い出してドキッとした。

「はい、よく眠れました」

「なんで敬語?」

 咄嗟に出た言葉が敬語だった。

 やってしまった、と思った時にはすでに遅く。朝から様子のおかしいアイリスにブレイドは目を細めた。

「・・・お前、俺が皇族だからって変に気ぃ使い始めたなら怒るぞ?」

「ご、ごめん・・・」

 アイリスは慌てて謝罪した。

 昨日皇族だと身構えられるのは嫌だと言われたばかりなのに、そう受け取られる行動をとってしまった。

 ブレイドは目の前で申し訳なさそうな顔をしているアイリスに、小さく笑った。

「分かればいい」

「!」

 そっと頭を撫でられた。

 自分の顔が赤くなるのが分かり、アイリスはそれをブレイドに気づかれないように顔を俯かせた。


「・・・!」

 ブレイドは、アイリスの髪から覗く彼女の耳が赤く染まっていることに気づき、小さく笑みを浮かべた。

 昨晩、草原でアイリスを抱き締めて毛布に包まっている時、薄いワンピースとストール越しに彼女の鼓動を感じた。

 少し早くて、温かい音。

 ブレイドの行動一つ一つに小さく反応する体。

 少しだけ見えた赤くなった頬。

「(やっと、男として意識してくれるようになったか・・・)」

 エマと恋人同士だという誤解が解けたことが一番良かったのだろう。


 本当は今すぐにこの気持ちを伝えたい。

 でも、ひとつだけ。

 ずっと不安に思っていることがあった。


「アイリス。」

 ブレイドに名前を呼ばれてアイリスは控えめに顔を上げた。

 真剣な表情のブレイドにアイリスが小首を傾げると、ブレイドはアイリスの手を握った。

「少し、外に来てくれ」


 ブレイドと共にクレディ家の屋敷を出て広い草原を歩く。

 朝の澄んだ空気。朝露のついた草。

 ブレイドに手を引かれながら二人で歩いていくと、ブレイドは草原の真ん中で立ち止まりアイリスを振り返った。


「お前に、見せておきたいんだ。

 俺の、本当の姿を・・・」


 そっとアイリスの手を離し、数歩後ろに下がって距離を開けると、

 ブレイドの体が光に包まれた。

「!」

 眩しいほどの光。

 光が消えると、そこにはドラゴンの姿があった。


 全身、黒曜石のような黒い鱗と立て髪。

 スラリと鼻筋の通った凛々しい顔に深紅の瞳。

 背中には大きな羽が折りたたまれていた。


 見上げるほどの大きな黒竜の姿に、アイリスは目を見開いた。


「これが、"俺"だ・・・」


 黒竜――ブレイドの口が動いて、いつもよりも少し低く響く声がアイリスの体に音として伝わった。



 ブレイドは驚いた表情で自分を見上げるアイリスを見つめた。

 この姿を人に見せたのはいつ以来だろう。

 普通の竜族ならば、"威厳のある出立ち"という言葉でまとめられるだろうが、自分は厄災と言われている黒竜。

 不用意に恐怖を与えぬようにとこの姿を見せないようにしてきた。


 でも、アイリスには"本当の姿"を知って欲しい、受け入れてほしいと思ってしまった。


「・・・・・・」

 アイリス。

 どうか、俺を怖がらないでくれ。


「――・・・」

 アイリスはゆっくりと歩いて来て、ブレイドの顔に向かってそっと手を伸ばした。

「ブレイド」

 ふわりと綺麗に微笑みながら、澄んだ声で名前を呼んでくれたアイリス。


 ブレイドがゆっくりと頭を下げると、彼女は優しく頬を撫でてくれた。

 深紅の瞳と、金色の瞳で見つめあう。

「とっても綺麗な黒曜石色・・・。凄くかっこいいよ、ブレイド」

 そう言ってアイリスは頬を染めて少し恥ずかしそうに笑った。


 心が満たされる。

 ただ一人。

 君がそう言ってくれるだけで・・・。


「――・・・ありがとう、アイリス」


 アイリスの顔に頬擦りすると、アイリスがクスクスと笑いながらブレイドの大きな頭を抱き締めてくれた。


「わぁ〜!!!おっきぃ〜!!」

 遠くからテオの声が聞こえた。

 顔を上げると、クレディ家の屋敷からテオが走ってこちらへ向かってくる姿が見えた。

 その後ろから、アランとフロリスが寄り添いながら歩いて来ている。

「ブレイドの黒竜姿、久しぶりに見たなぁ!」

「大きくなったわね、ブレイド」

 テオはブレイドの体に前足をかけた。

「ん〜!のぼってもいい?」

「あぁ、好きにしろ」

 ブレイドの許しをもらうと、テオは顔を輝かせてブレイドの背中によじ登り始めた。

 そして、肩のあたりまで登ると、その高さに歓声を上げた。

「しゅご〜い!たかいなぁ!」

「爪は立てちゃダメよ、テオ。ブレイドが怪我してしまうわ」

 フロリスはテオにそう言うと、アイリスの横に立ってブレイドの首を優しく撫でた。

「・・・立派になったわね。」

 フロリスの言葉に、ブレイドは目を閉じて頭を下げた。

 フロリスは微笑みながら、そんなブレイドの頭を優しく抱き締めた。

「ブレイド、暫くその姿でいるのかい?」

 アランがブレイドを見上げながら言うと、ブレイドは小さく頷いた。

「あぁ、久しぶりだからな。少し羽を伸ばしたい」

 そう言ってブレイドは背伸びをするように羽を広げた。

「!」

「わぁ~!!すごいすごい!!」

 見た目よりも大きな羽。

 羽を広げるだけで風が吹き、草木やみんなの髪をさらさらと靡かせた。

「なら、今日は私たちもライオンの姿で過ごそうか?」

「いいわね!そうしましょう?」

 アランとフロリスはライオンの姿になると、アイリスにすり寄った。

「!・・・ふふっ、くすぐったい!」

 アイリスが笑うと、みんなも楽しそうに笑った。


 アイリスは、屋敷の前でルイスとエマが微笑みながらこちらを眺めているのが見えた。

「ルイスさんもエマさんも一緒にどうですか?」

 アイリスがアランとフロリスの耳の後ろを撫でながら言うと、ルイスとエマは顔を見合わせて頷いた。

「では、お言葉に甘えて」

 ルイスが鷲の姿になってふわりと浮き上がると、ブレイドの前に舞い降りた。

 エマもゆっくりとした足取りでアイリス達の元へ行き、フロリスの顎下を撫でながらブレイドを見上げた。

「帝都では人目があってなかなかこの姿になれませんから、今のうちに羽を伸ばしておいて正解でしょうね。」

「あぁ」

 エマの言葉に肯定すると、ブレイドは伏せの体勢をしてアイリスの体に顔を添わせるように地面に丸くなった。

 その拍子に首元に乗っていたテオがころころと転がり落ちた。

「!あ、悪い」

「きゃははは!!!」

「・・・大丈夫そうだな。」

 ブレイドは安心したように笑って目を閉じると、自身の腕に寄りかかって座ったアイリスにすり寄った。

 彼女の横に、アラン、フロリスも座ると、アイリスはブレイドの頭を撫でながらクスクスと笑った。

「今日はなんだかみんな甘えん坊さんね?」

「みんな貴女のことが大好きなのよ、アイリス」

「!」

 フロリスの言葉にアイリスは少し驚いたような表情をした後、すぐに嬉しそうに微笑んだ。


 帝都に行くまでの残り少ない日々。

 この草原で起きたたくさんの幸せを忘れぬよう、

 アイリスはそっと心の中の思い出たちに誓ったーー。

第一章 完


ここまで突っ走りました!

第二部はのんびり更新していきます。

また、第一章前半部分を読みやすいように少し修正しようか検討中です。

気長にお付き合い頂けますと幸いです。


少しでも面白いと思っていただけましたら、ブックマークやいいね、評価を頂けますと嬉しいです。

作者のやる気に繋がります!

今回も私の拙い小説をお読みいただきありがとうございました。

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